購入した宅地から発見された地中埋設物と契約不適合責任
【相談事例】
私は、自宅を建築するために、令和2年9月に売主から宅地(本件土地)を購入しました(本件契約)。
本件土地の引渡し後、本件土地上で自宅の建築工事をする際に、土地の北側境界付近にある塀(本件塀)に沿って排水管パイプ(本件パイプ)が埋設されていることが判明しました。また、私の調査により、本件塀の地中基礎部分(本件基礎)が隣地に越境していることが判明しました。
本件土地の販売チラシには、本件土地が「整形地・更地」と記載されていました。また、本件契約の締結に際し、売主から交付された物件状況等報告書には、チェック方式により、売主の認識として、地中埋設物を発見していない旨や越境がない旨が記載され、末尾の備考欄には、令和元年の建物解体時に地中よりガラを撤去し、土を入れている旨が記載されていました(※売主は、本件土地の売却の前に、土地上にあった建物の解体撤去工事を実施していました)。
私としては、このような各書面の記載内容等からすれば、本件土地の品質として、地中埋設物が存在しないことや、隣地への越境が無いことが、本件契約の内容として合意されていたと考えています。本件契約には、売主は、買主に対し、本件土地が品質に関して契約の内容に適合しないときは契約不適合責任を負う旨が規定されていますが、本件パイプの埋設や本件基礎の越境は契約不適合に当たるのではないでしょうか。
【解説】
1 契約不適合責任とは(一般論)
(1) 売買契約の目的物に契約不適合(引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないこと)がある場合、買主は、売主に対し、目的物の修補や損害賠償などの契約不適合責任を追及することができます(ただし、当事者間の合意により契約不適合責任の免除や制限がなされる場合等があります)。
(2) 契約不適合といえるかどうかは、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しているかどうかによることから、契約の内容として、どのような種類、品質又は数量の目的物が売買対象とされたのかが問題になります。
(3) 地中埋設物と契約不適合についてみると、宅地の売買において、地中に土以外の異物があったからといって、直ちに契約不適合であると評価されるわけではありません。例えば、売買契約の目的が建物を建築することにある場合、その建物の建築に支障となる程度の質・量の地中埋設物であって、それを除去するために特別な工事等が必要になるか等といった観点から、契約不適合かどうかが判断されます。
2 相談事例について
今回の相談事例は、東京地裁令和5年11月6日判決をモデルにしています。判決では、買主が主張した契約不適合は認められませんでした。以下、判決文のうち、契約不適合に関する部分についてご紹介いたします。
※ 判決文は、原文そのままではなく、適宜改行し、「控訴人」を「買主」に、「被控訴人」を「売主」にするなどの変更をしています。
3 東京地裁令和5年11月6日判決の内容(契約不適合に関する部分)
(1) 本件パイプの埋設が契約不適合に当たるか
① 本件土地が宅地として売買されたものであり、本件契約の締結に際して地中埋設物が存在しない旨の売主の認識が示され、本件契約の前にされた建物撤去工事に際し、地中より発見されたガラが撤去され、新たに土が入れられた旨の説明がされたことからすれば、本件契約において、建物撤去工事の際に掘削された部分について、少なくとも本件土地上に建物を建築するのに支障となる埋設物が存在しないことが本件土地の品質として合意されていたと認めることができる。
もっとも、地中埋設物がない旨の説明は売主の認識を示したにとどまり、建物撤去工事に際してガラを撤去した旨の説明も、あくまで建物撤去工事の際に掘削した範囲にとどまるものであり、本件土地全体について地中埋設物がないことまで確認したことを説明したものではないから、本件土地全体におよそ地中埋設物が存在しないことが本件契約の内容であったということはできない。
② また、本件パイプが本件土地の北側境界付近の本件塀に沿って埋設されていたことからすれば、建物解体工事に際し、本件パイプの埋設箇所が当然に掘削されるべきであったということはできないし、本件パイプが本件契約前に解体された建物に接続していたことを認めるべき証拠もないことからすれば、本件パイプが建物解体工事の際に当然に発見されて撤去されるべきであったともいえない。
そして、本件パイプの埋設が判明した後も自宅建築工事は進行して完成に至っており、本件パイプの埋設が自宅建築に大きな支障となったものとは認められない。
③ 以上に照らせば、本件パイプが、本件土地上に建物を建築するのに支障となる埋設物であったと認めることはできず、本件土地の品質に関する契約不適合があったとはいえない。
④ これに対し、買主は、本件土地のチラシに「整形地・更地」との記載がされていることから、本件土地の品質として、本件パイプが埋設されていないことが合意されていた旨主張する。しかしながら、「更地」とは土地上に建築物がない状態を、「整形地」とはその敷地が整形された土地を指すものと一般に考えられるのであって、それらの記載をもって、本件契約において、本件土地の品質に関し、前記認定の合意内容を超える合意がされていたということはできない。
また、買主は、本件パイプの埋設が自宅建物の安全性に影響を与えている旨主張しているが、その影響を認めるに足りる証拠はない。
(2) 本件基礎の越境が契約不適合に当たるか
次に、本件基礎の越境についても、本件契約締結の際の越境がない旨の売主の説明は、あくまでも売主の認識を示したものにとどまり、地中における基礎の越境がないことまでが本件土地の品質として合意されていたということはできず、また、越境の範囲も、本件土地と隣地との境界付近に限局されていたことがうかがわれ、現に越境によって具体的な支障が生じている事実が認められないことからしても、本件基礎の越境をもって本件契約に契約不適合があったということはできない。
4 最後に
この判決は、あくまで判決の事案における具体的な事実関係を前提として、契約不適合の有無について判断したものです。同種の事案であっても、事実関係が異なれば裁判所の判断が異なる可能性があることにご注意ください。
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