「住所等変更登記の義務化」について
不動産に関して留意すべきこととして、今回は、「住所等変更登記の義務化」について、とりあげます。
社会問題となっている所有者不明土地等の発生を予防するため、令和3年の民法等の一部を改正する法律により、不動産登記法が改正され、令和8年4月1日から、住所等の変更登記の申請が義務化されます。
1 「住所等変更登記の義務化」とその趣旨
「住所等変更登記の義務化」において、「変更登記の義務化」といわれるのは「住所等」です。「住所等」というのは、個人の場合は「氏名・住所」であり、法人の場合は「名称・住所」を指します。
これまで「登記簿上の所有者」の氏名や住所が変更されてもそれを反映した登記がなされないことが多くありました。
その原因としては、(ⅰ)これまで住所等の変更登記の申請は任意とされていましたし、住所等の変更登記の申請をしなくても、所有者自らが不利益を受けることが少なかった、(ⅱ)転居等の度にその所有不動産について住所等の変更登記をするのは負担である、などの実態がありました。
そのような実態は、住所等の変更登記がなされず、「所有者不明土地」等の発生の温床となりました。不動産登記簿を見ても、所有者やその連絡先が分からない「所有者不明土地」が全国で増加し、周辺の環境悪化や民間取引・公共事業の阻害が生じるなど社会問題となっています。
そこで、「住所等の変更登記の申請」を義務化することにより「所有者不明土地」の発生を予防しようというのが義務化の趣旨です。
この「所有者不明土地」の発生を予防しようという趣旨は、令和6年4月から義務化されている「相続土地の登記申請義務化」の趣旨と共通するところがあります。
「住所等変更登記の義務化」の内容というのは、不動産(土地・建物)の所有者(登記名義人)は、所有権の登記をした後に、氏名・住所(法人の場合は名称・住所)について変更があったときは、その「変更日から2年以内」に住所等の変更登記をしなければならないことになったということです。
正当な理由がないのに義務に違反した場合、5万円以下の過料の適用対象となります。
2 法務省による令和7年3月28日付「住所等変更登記の義務化の施行に向けたマスタープラン」について
法務省は、令和7年3月28日付で「住所等変更登記の義務化の施行に向けたマスタープラン」を発表しました(以下「本マスタープラン」という)。
それは、住所等変更登記の義務化に伴う新制度が、所有者不明土地等問題解決に効果的に繋がることが期待される一方、幅広い国民層に相当大きな影響を及ぼすものであることから、住所等変更登記の義務化の施行1年前の段階において、法務省として、新制度の開始に向けた環境整備策や予定している運用上の取扱い等を明らかにすることにより、国民に新制度の十分な理解と適切な対応を促すことを目的とするためのマスタープランです。
3 本マスタープランの前提として、改正法で規定された新しいルールの概要を確認しておきましょう。
(1)住所等変更登記の義務化の概要
①所有者の登記名義人は、その住所等について変更があったときは、その変更があった日から2年以内に、住所等変更登記を申請しなければならない。
②正当な理由がないのに、上記①の申請を怠ったときは、5万円以下の過料の適用対象となる。
③住所等変更登記の義務化は、令和8年4月1日から施行される。
④令和8年4月1日より前に住所等に変更があった場合であっても、住所等変更登記をしていない場合には、住所等変更登記の義務の対象となる。ただし、2年間の猶予期間が設けられており、猶予期間中に(令和10年3月31日までに)住所等変更登記を行えば、過料の適用対象となることはない。
(2)登記官の職権による住所等変更登記の概要
①住所等変更登記の義務を履行するための簡便な方策として、登記官が、他の公的機関から取得した情報に基づき、職権で所有権の登記名義人の住所等変更登記をすることができる仕組みが新設された。
②所有権の登記名義人は、上記①の仕組みにより住所等変更登記がされれば、義務を履行したものと扱われる。
③登記官の職権による住所等変更登記は、住所等変更登記の義務化に合わせ、令和8年4月1日から施行される。
4 「住所等変更登記の義務化」に向けて進める「環境整備」
住所等変更登記の義務化は、国民に新たな負担を課すものであるため、令和8年4月からの円滑な運用に向けて、国民の負担軽減のための環境整備をあらかじめ進めていくことが重要である、との観点から、「登記官の職権による住所等変更登記」について次のように取組を進めていく、とされている。
(1)所有権の登記名義人が「法人」である場合
会社法人等番号の登記がされている不動産については、この番号を検索キーとして、令和8年4月1日以降、商業・法人登記システムから不動産登記システムに対し、法人の名称又は住所の変更情報を速やかに通知し、登記官は、当該通知により所有権の登記名義人の住所等に変更があったことを把握して、職権で変更登記をすることとする。
なお、この変更登記の登録免許税は、非課税とされている。
その前提として、令和6年4月1日から、会社法人等番号が登記事項に追加されており、同日より前に所有権の登記名義人となっている法人も、オンラインで簡単な申出をすることにより、登記官の職権で会社法人等番号を登記することが可能となっている。
なお、令和8年4月1日以降に行う職権による住所等変更登記については、同日より前に住所等に変更があったものも含め、商業・法人登記システムからの通知を受ける都度、速やかに行うことが想定されている。
(2)所有権の登記名義人が「自然人(個人)」である場合
登記官は、あらかじめ所有権の登記名義人からその生年月日等の検索用情報の申出を受けた上で、これを検索キーとして、令和8年4月1日以降、定期的に住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という)に照会して、住所等に変更がないかを確認し、その結果、住所等に変更があったと認められる場合には、所有権の登記名義人の了解を得た上で、職権により変更登記をすることとする。
なお、この変更登記の登録免許税は、非課税とされている。
上記の検索用情報の申出は、改正法の施行(令和8年4月1日)に先立ち、令和7年4月21日から行うことが可能となった。
この制度を国民が広く利用することができるよう、Webブラウザを用いてオンラインで簡易に手続を完結することができるようにするためのシステム開発等、施行に向けた準備が進められている。
なお、令和8年4月1日以降に行う住基ネットの照会については、住所等変更登記の義務の履行期限等を踏まえ、各所有権の登記名義人について2年に1回以上実施することを想定している。
5 「住所等変更登記の義務化」の「運用方針の決定」
住所等変更登記の義務化に伴う運用の在り方については、国民に自発的な申請又は申出を可能な限り促しつつ、新制度に関する予見可能性の確保と不安の解消を図るよう、法務局における運用の透明性及び公平性を十分に確保する、と本マスタープランは述べている。
具体の運用や手続は法務省令・通達が定めるが、法務省は本マスタープランにおいて「運用の方針」を以下のとおりとする。
(1)「過料通知」及びこれに先立つ「催告」
登記官は、住所等変更登記の義務に違反したことにより過料に処せられるべき者があることを職務上知ったときは、遅滞なく、管轄地方裁判所にその事件を通知するものとする(以下「過料通知」という)。
通知を受けた管轄地方裁判所は、過料決定に関する判断を行うことになる。
ただし、登記官が過料通知を行うのは、過料に処せられるべき要件を充足すると合理的に判断される場合に限るものとする。
具体的には、登記官が過料通知を行うのは、義務に違反した者に対し、相当の期間を定めてその申請をすべき旨を催告したにもかかわらず、正当な理由なく、その期間内にその申請がされないときに限ることとし、当該催告に応じて登記の申請がされた場合には、それ以前の正当な理由の有無にかかわらず、過料通知は行わないものとする。
催告を受けて当該期間内に「検索用情報の申出」又は「会社法人等番号の申出」がされた場合も、同様とする。
(2)「住所等変更登記の義務」に違反した者の「把握方法」
登記官が行う「催告」の前提となる、住所等変更登記の義務に違反した者の把握は、「運用の統一性・公平性及び国民の納得感を確保する観点」から、登記官が登記申請の審査の過程等で把握した情報により行うこととする。
登記官による住所等変更登記の義務違反の把握の「端緒」としては、例えば、次のような場合が想定される。
①所有権の登記名義人が表示に関する登記の申請をした場合において、申請情報の内容である所有権の登記名義人の住所等が登記記録と合致していなかったとき。
②住基ネットに対する照会により住所等に変更があったと認められた所有権の登記名義人が、職権による住所等変更登記をすることについての意思確認のための通知を受領したが、当該登記を拒否し、又は期限までに回答をしなかったとき。
(3)「正当な理由」があると認められる場合
①上記(1)の「催告」をしたにもかかわらず、当該催告に係る登記の申請が期限内にされない場合であっても、当該登記をしないことに「正当な理由」があると認められるときには、過料通知は行わない。
「正当な理由」の有無は、登記官が、個別の事案における具体的な事情に応じて判断するものとし、上記(1)の「催告」手続においては、「正当な理由」の有無やその内容について申告して明らかにすることを求めるものとする。
②一般的に、例えば、次のアからオまでのような事情がある場合には、住所等変更登記の申請をしないことにつき「正当な理由」があると考えられる。もっとも、「正当な理由」があると認められるのは、これらの場合に限定されるものではないため、「正当な理由」についての判断は、登記官において、住所等変更登記の義務を負う者の具体的事情を丁寧に確認した上で行うものとする。
ア 検索用情報の申出又は会社法人等番号の登記がされているが、登記官の職権による住所等変更登記の手続がされていない場合
イ 行政区画の変更等により所有権の登記名義人の住所に変更があった場合
ウ 住所等変更登記の義務を負う者自身に重病等の事情がある場合
エ 住所等変更登記の義務を負う者がDV被害者等であり、その生命・身体に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
オ 住所等変更登記の義務を負う者が経済的に困窮しているために登記に要する費用を負担する能力がない場合
6 「スマート変更登記」
以上をふまえ、現在、「スマート変更登記」の利用方法が法務省ホームページ等で公開されています。
かんたん・無料の手続きをしておけば、その後は、法務局で住所・氏名等の変更登記をする、というものです。
「自然人(個人)」がWebブラウザで「検索用情報の申出」をする方法や、「法人」が「会社法人等番号の申出」をする方法など、法務省ホームページ等で明らかにされています。
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