売主に重過失がある場合の契約不適合免責特約条項の効力について
1 相談例
私は、相続した土地を、A社に対して売却して引き渡しました。
ところが、その後A社から、土地に廃材などの大量のガラが埋まっているとの連絡がありました。私自身は土地にそのようなものが埋まっていることは全く知りませんでした。
売買契約書には、売主の契約不適合責任を免責する特約条項があるのですが、A社は、「売主なら少し注意すればガラが埋まっていることは簡単にわかったはずだから、売主には重大な過失がある。そのため、売買契約書の免責特約条項は民法の規定によって効力が認められないので、売主が契約不適合責任について免責されることはない。」と主張しています。
ガラが埋まっていることを知らなかった以上、私は特約によって免責されると考えてよいのでしょうか。
2 契約不適合責任の免責・責任制限特約について
引き渡された売買の目的物が種類、品質、数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき(契約不適合)、買主は、売主に対して、履行の追完(目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡し)請求ができます(民法562条本文。移転した権利の内容に契約不適合があった場合には、民法565条)。
契約不適合責任は任意規定とされており、原則として、これと異なる合意により、契約不適合責任を免責・制限する特約(以下「免責特約」といいます)をすることも可能です。
ただし、例外的に、
①契約不適合があることを売主が知っていながらそれを買主に告げなかった場合や、
②売主自ら第三者のために権利(利用権や担保権)を設定したり、目的物の全部又は一部を譲渡したりした場合には、特約があったとしても、売主は契約不適合責任を免れることはできません(民法572条)。
これらの場合に特約による免責を認めることは信義則に反するためとされています。
◆第572条(担保責任を負わない旨の特約)
売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
なお、宅地建物取引業法には、宅地建物取引業者が自ら売主となる宅地建物の売買契約における契約不適合責任の特約を制限した規定(宅地建物取引業法40条)があります。
また、消費者契約法にも、事業者が売主、消費者が買主となる売買契約等において、目的物の種類又は品質に関する契約不適合責任について、事業者の損害賠償責任を免除するなどの条項を原則として無効とする規定(消費者契約法8条2項)などがございます。
相談例の場合は対象となりませんが、このような特別法の定めにもご留意ください。
3 売主に知らなかったことについて重大な過失がある場合
前述のとおり、民法の条文では、売主が「知りながら」告げなかった場合については定められておりますが、売主が契約不適合の事実について知らなかったことにつき重大な過失があった場合については定められておりません。
このように、売主に重大な過失があった場合にも、民法572条の規定により、免責特約の効力が否定されるのでしょうか。
この点について、最高裁判所の判例は見当たりませんが、下級審裁判所の裁判例では判断が分かれていますので、一例についてご紹介いたします(いずれも、旧法の瑕疵担保責任に関する特約に関するものです)。
※下線は執筆者によるものです。また読みやすいように適宜改行しております。
東京地方裁判所平成20年11月19日判決は、売却した土地にヒ素による土壌汚染が存在することが判明した事案において、以下のとおり述べて、ヒ素による土壌汚染を知らなかったことについて売主に重大な過失があったとしても、瑕疵担保責任の期間制限を定めた条項の効力が否定されることはないとして、民法572条の適用を否定しました。
「この規定は、売主が知りながら告げない事実については、公平の見地から瑕疵担保責任の免責特約の効力を否定する趣旨のものである。
このような同条の文言及び趣旨に照らせば、本件瑕疵担保責任制限条項は、本件土地に環境基準値を超えるヒ素が残留していたことにつき被告Y1が悪意の場合に無効となるが、本件土地の土壌に環境基準値を超えるヒ素が残留していたことを知らない場合には、知らなかったことにつき重過失があるとしても、その効力が否定されることはないと解するのが相当である。」
これに対し、東京地方裁判所平成15年5月16日判決は、売却した土地にコンクリートガラ等の埋設物が存在していた事案において、以下のとおり述べて、民法572条の(類推)適用し、特約の効力を否定しました。
「(略)当事者間の特約によって信義に反する行為を正当化することは許されないから、民法572条は信義則に反するとみられる二つの場合を類型化して、担保責任を排除軽減する特約の効力を否認しているものと解される。
そして、本件においては、被告は、少なくとも本件地中埋設物の存在を知らなかったことについて悪意と同視すべき重大な過失があったものと認めるのが相当であるとともに、前記認定のとおり、本件売買契約時における原告からの地中埋設物のないことについての問いかけに対し、被告は、地中埋設物の存在可能性について全く調査をしていなかったにもかかわらず、問題はない旨の事実と異なる全く根拠のない意見表明をしていたものであって、前記のような民法572条の趣旨からすれば、本件において、本件免責特約によって、被告の瑕疵担保責任を免除させることは、当事者間の公平に反し、信義則に反することは明らかであって、本件においては、民法572条を類推適用して、被告は、本件免責特約の効力を主張し得ず、民法570条に基づく責任を負うものと解するのが当事者間の公平に沿うゆえんである。」
4 まとめ
このように、売主に契約不適合の事実を知らなかったことについて重大な過失があった場合に、民法572条によって免責特約の効力が否定されるかについては、最高裁判所の判例は見当たらず、下級審の裁判例では、民法572条の(類推)適用により、特約の効力を否定した裁判例も存在します。
したがって、相談例のように、契約不適合について「知らなかったのだから、特約により免責されるだろう」と安易に考えるのではなく、重大な過失があったといえるのかという点の判断も含め、専門家に相談されることをお勧めいたします。
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