「住宅セーフティネット法の改正」について
不動産に関して留意すべきこととして、今回は「住宅セーフティネット法の改正(令和6年)」をとりあげます。
1「住宅セーフティネット法」とはなにか。
(1)高齢等を理由に賃貸住宅の住居を断られたり、一人暮らしの不安を感じたりする「住まいに関する困りごと」があります。
低額所得者や高齢者など、住宅の確保が困難な方々(「住宅確保要配慮者」とか「要配慮者」といいます)が安心して賃貸住宅に入居できることを目的として制定された法律が「住宅セーフティネット法」です。
「住宅セーフティネット法」は「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」とも言われます。
(2)借りたいと願う低額所得者や高齢者などについて、賃貸住宅の確保が困難というのはどうしてなのでしょうか。
貸す側の不安として言われていることは次のとおりです。
① 賃借人が死亡してしまうと、死亡後に部屋に残置物があったり、借家権が残ると、次の人に貸しにくくなる。
② 賃借人が孤独死して、賃貸住宅が事故物件になったら困る。
③ 低額所得者や高齢者は、家賃を滞納するのではないか。
④ 入居後になにかあっても家族がいない要配慮者の場合、連絡や相談をする人がいない。
⑤ 住宅確保要配慮者は、他の住民とトラブルが生じるのではないか。
以上の①と②は「賃借人死亡」のリスク、③~⑤は「入居中のリスク」ですが、そのような貸す側の不安があるために、低額所得者や高齢者が、建物を借りたいと相談・内覧・契約などを希望してきても、貸す側が断わる実態があるのです。
他方、単身高齢者世帯の増加や持家率の低下等により要配慮者の賃貸住宅への円滑な入居に対するニーズが高まることが想定されます。
(3)まず、令和6年改正前の「住宅セーフティネット法」の概要は次のとおりです。
① 住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度
(i) 賃貸住宅の賃貸人の方は、「セーフティネット登録住宅」として、都道府県・政令市・中核市に賃貸住宅を登録することができます。
都道府県等では、その登録された住宅の情報を、住宅確保要配慮者の方々等に広く提供します。
その情報を見て、住宅確保要配慮者の方々が、賃貸人の方に入居を申し込むことができるという仕組みです。
(ii) 住宅確保要配慮者は、法律において、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯と定められています。また、省令において外国人等が定められているほか、地方公共団体が賃貸住宅供給促進計画を定めることにより、住宅確保要配慮者を追加することができます。
(iii) 登録の際には、住宅の規模、構造等について一定の基準に適合する必要があります。
(iv) 登録の際には、「入居を拒まない住宅確保要配慮者の範囲」を限定することが可能です。
例えば、「高齢者、低額所得者、被災者の入居は拒まない」として登録したり、「障害者の入居は拒まない」として登録したりすることができます。
② 「登録住宅の改修への支援」と「入居者の負担を軽減するための支援」の用意
(i) 「登録住宅の改修への支援」として、「改修費に対する補助制度」があります。
なお、改修費補助を受けた住宅については、10年間は入居者を住宅確保要配慮者に限定した登録住宅(セーフティ専用住宅)として管理していただく必要があります。
(ii) 「入居者の負担を軽減するための支援」として、「家賃と家賃債務保証料等の低廉化補助」及び「セーフティネット登録住宅への住替えに対する補助」があります。いずれも、セーフティネット登録住宅に低額所得者が入居する場合に、地方公共団体と国が協力して補助を行うものです。
③ 「住宅確保要配慮者に対する居住支援」
(i) 居住支援協議会
~住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅等への円滑な入居の促進を図るため、地方公共団体や関係業者、居住支援団体等が連携し、住宅確保要配慮者及び民間賃貸住宅の賃貸人に対し、住宅情報の提供等の支援を実施するものです。
(ii) 居住支援法人
~都道府県が、居住支援活動を行うNPО法人等を、賃貸住宅への入居に係る情報提供・相談、見守りなどの生活支援、登録住宅の入居者への家賃債務保証等の業務を行う居住支援法人として指定する制度を設けています。
(iii) 家賃債務保証業者登録制度
~家賃債務保証業については、適正に業務を行うことができる者として一定の要件を満たす業者を、国に登録する制度を設けています。さらに、家賃債務保証業者や居住支援法人が、登録住宅に入居する住宅確保要配慮者に対して家賃債務を保証する場合に、住宅金融支援機構がその保証を保険する仕組みを設けています。
2それでは「住宅セーフティネット法」の令和6年改正とはどのようなものでしょうか。その概要は次のとおりです。
(1)「大家」と「要配慮者」の双方が安心して利用できる市場環境の整備
① さきほど「貸す側の不安」として「賃借人が死亡してしまうと、死亡後に部屋に残置物があったり、借家権が残ると、次の人に貸しにくくなる」という貸す側のリスクを述べましたが、その対策として、改正法は、「賃貸借契約が相続されない」仕組みの推進を図りました。
すなわち、「終身建物賃貸借」(賃借人の死亡時まで更新がなく、死亡時に終了する賃貸借、相続人に相続されない賃貸借)の認可手続きを簡素化(住宅ごとの認可から事業者の認可へ)しました。
② また、改正法は、「残置物処理に困らない」仕組みの普及を図りました。
すなわち、入居者死亡時の残置物処理を円滑に行うため、居住支援法人の業務に、入居者からの委託に基づく残置物処理を追加しました。令和3年に策定した残置物処理のモデル契約条項の活用もできます。
③ また、改正法は、「家賃の滞納に困らない」仕組みを創設しました。
すなわち、要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者(認定保証業者)を国土交通大臣が認定したり、住宅金融支援機構の家賃債務保証保険による要配慮者への保証リスクの低減などです。
(2)「居住支援法人等が入居中サポートを行う賃貸住宅」の供給促進
「居住支援法人等が入居中サポートを行う賃貸住宅」とは、居住支援法人等が大家と連携し、①日常の安否確認・見守り、②生活・心身の状況が不安定化したときの福祉サービスへのつなぎを行う住宅(居住サポート住宅)の創設です。
(3)「住宅施策と福祉施策が連携した地域の居住支援体制の強化」
国土交通省・厚生労働省が共同して推進し、市区町村による居住支援協議会設置を促進(努力義務化)し、住まいに関する相談窓口から入居前・入居中・退去時の支援まで、住宅と福祉の関係者が連携した地域における総合的・包括的な居住支援体制の整備を推進します。
3以上の「住宅セーフティネット法の改正」(令和6年5月30日成立)は、令和7年10月から施行されます。
法改正や新制度の内容は把握しておくことが重要です。









