

不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
契約後決済前の自然災害と売主の責任
【Q】
私は、このたび、築30年の一戸建ての自宅を売却することになり、先日、買主の方との間で不動産売買契約書を調印、無事に手付金も受領いたしました。
そこで、私は、来月末の決済・引渡しに向けて、新居への引越しの準備を進めています。
私が署名押印した売買契約書には、以下の内容の条項がありました。
「本物件の引渡し前に、天災地変その他売主又は買主のいずれの責めにも帰すことのできない事由により、本物件が滅失又は毀損したときは、売主は自己の負担においてこれを修復して買主に引き渡すものとします。ただし、修復が不能又は修復に過大な費用を要し、本契約の履行が不可能となったときは、売主又は買主は本契約を解除することができます。」
ところが、契約書の調印から1週間後、記録的な台風が私の自宅を直撃し、強風によって屋根瓦が吹き飛び、そこから大量の雨水が室内へ吹き込んでしまいました。2階の天井や壁紙、床板まで水浸しとなり、そのままでは生活できないほどの被害を受けています。
買主の方からは、
「引渡しまでに売主の負担で修復してほしい。修復できないのであれば契約を解除したい。」
と言われています。
このような記録的な台風による被害であっても、売主である私が修復費用を負担しなければならないのでしょうか。また、このような場合、買主の方は契約を解除することができるものなのでしょうか。
【A】
1 引渡し前の自然災害のリスクは誰が負担するのか
まず、ご相談者がこのたびの台風による被害を受けられたことに、謹んでお見舞いを申し上げます。
そのうえで、ご照会に回答させていただきます。
不動産の売買では、売買契約が成立してから決済(引渡し)まで、通常1か月から2か月程度の期間が設けられます。
この間に、台風や地震など、売主・買主いずれにも責任のない自然災害によって建物が損傷してしまうことがあります。このような場合に、「その損害を売主と買主のどちらが負担するのか」という問題を、法律上は、「危険負担」と呼びます。
2 民法上の原則
現在の民法では、売主にも買主にも責任のない事由によって目的物が滅失又は損傷した場合、その危険は、引渡しが完了するまで売主が負担することとされています(民法536条1項、567条1項)。
例えば、3台の自動車を各100万円、合計300万円で売買する契約を結んだ後、引渡し前に落雷でうち1台が修復不可能なほど壊れてしまった場合、買主は、売主に対し、200万円だけを支払う義務を負うとともに、自動車2台の所有権を譲り受ける権利を有することになります。逆に言えば、売主は、自動車1台が壊れてしまったために、買主から200万円しか受け取ることができなくなります。
このように、引渡し前に発生した自然災害による損害については、まず売主がそのリスクを負担することが原則となります。
3 当事者間の合意による変更
もっとも、この危険負担に関する規定は、当事者間の合意(契約書上の条項、特約)によって変更することができます。
そのため、実際の不動産取引では、民法の規定だけでなく、売買契約書にどのような特約が定められているかが非常に重要になります。
今回のような「引渡し前の自然災害については売主が修復して引き渡す」といった条項は、不動産売買契約書でも比較的よく見られる内容です。
4 ご質問のケースについて
ご相談の契約書には、以下の条項が存するそうです。
「本物件の引渡し前に、天災地変その他売主又は買主のいずれの責めにも帰すことのできない事由により、本物件が滅失又は毀損したときは、売主は自己の負担においてこれを修復して買主に引き渡す」
今回のような屋根瓦や内装の損傷は、一般的には修復可能な損傷であることが多く、その場合には、この条項に従い、売主が修復した上で買主へ引き渡すことになると解されます。
もっとも、実際には損傷の程度や修復費用によって結論が異なる場合もありますので、まずは建物の被害状況について専門業者による調査を受けることが重要です。
5 買主は契約を解除できるのでしょうか
自然災害が発生したという理由だけで、買主が直ちに契約を解除できるわけではありません。
ご相談の契約書では、
「修復が不能又は修復に過大な費用を要し、本契約の履行が不可能となったとき」に売主又は買主は契約を解除できると定められています。
したがいまして、修復が可能であり、売主が修復した上で引渡しを行うことができるのであれば、原則として買主から一方的に契約を解除することはできません。
一方、建物が著しく損傷し、修復が現実的ではない場合(建て替えるほかないと解される場合)や、修復費用が極めて高額となる場合には、この特約に基づき契約解除が認められる可能性があります。
6 まとめ
引渡し前に自然災害による被害が発生した場合には、まず売買契約書の内容を確認することが重要です。
本件のように売主が修復して引き渡す旨の条項が定められている場合には、修復可能な範囲の損傷であれば、売主が修復を行った上で引渡しをすることになります。
また、自然災害が発生した場合には、被害状況を写真で記録するとともに、火災保険の適用を受けられないか確認することも重要です。
修復に時間を要することが見込まれる場合には、早めに買主へ状況を説明し、必要に応じて引渡日の変更について協議することで、不要なトラブルを防ぐことができる場合も少なくありません。
修復の可否や費用負担について当事者間で見解が対立する場合には、早めに不動産取引に詳しい弁護士へ相談されることをお勧めします。
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長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。






