

不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
離婚後に残された共有不動産を売却する方法
【Q】
私は、令和7年4月に元夫と離婚し、現在は都内の分譲マンション(ペアローンで購入した共有名義)に一人で住んでいます。離婚時に預貯金などの他の財産はすべて半分に分け終わっており、清算すべきはこのマンションだけです。
離婚当初は「私がローンの支払を継続し、当面は住み続ける」という約束をしていましたが、実家の両親の体調不良をきっかけに、マンションを売却してローンを完済し、残った利益を元夫と分けたいと考えています。
しかし、元夫に相談したところ、「今は仕事が忙しくて手続に関わる余裕がない」「もう少し高く売れる時期まで待とう」と非協力的な態度を取られ、不動産会社との媒介契約書の署名すら拒まれています。
元夫は、「急がなくても数年後に考えればいい」と言いますが、私は「離婚から2年」という財産分与の期限が迫っていることに焦りを感じています。
調べてみると、財産分与以外にも、共有物分割請求という選択肢もあるようですが、私のように、他に分ける財産がなく、家だけが残っている場合、財産分与と共有物分割請求のどちらの手続を取るのが良いでしょうか。
【A】
1 問題の所在
共有不動産全体を売却するには、民法第251条第1項に基づき、共有者全員の同意が必要です。そのため、共有者である元夫が売却に応じない場合、そのまま待っていても売却は一切進みません。
現状を打破するためには、法的手続として「財産分与」または「共有物分割請求」の手段を用いて、相手方を交渉の土俵に乗せることが考えられます。
2 財産分与による解決
⑴ 財産分与の特徴
財産分与は、夫婦の財産全体を包括的に清算する手続です。令和8年4月1日施行の改正民法により、財産分与の請求期限は「離婚の時から5年」となりました。ただし、令和8年3月31日以前に離婚した夫婦には改正前の民法が適用されます。そのため、ご相談者様のように令和7年4月に離婚された場合は、従来どおり「離婚の時から2年」以内に行う必要があります。
⑵ 具体的な方法
では、財産分与の請求は具体的にどのように行うのでしょうか。
実務上は、いきなり裁判所に審判(裁判官による決定)を求めるのではなく、家庭裁判所に「財産分与調停」を申し立てて、話し合いからスタートするのが通常です。
しかし、本件のように元夫が忙しさを理由に非協力的な態度を取っている場合、調停期日への欠席や手続の引き延ばしが懸念され、迅速な解決が困難になるおそれがあります。
3 共有物分割請求
⑴ 共有物分割請求の特徴
共有物分割請求は、夫婦関係の清算ではなく、単に共有者同士の財産関係の解消を求める手続です。財産分与のような期間制限はありません。共有物分割請求を行う場合、地方裁判所にいきなり訴訟を提起することができます。
⑵ 裁判による分割の方法と競売
裁判所は、共有物の現物を分割する方法、または共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法(代償分割)で分割を命ずることができます。
しかし、これらの方法で分割ができないとき、または分割によって価格が著しく減少するおそれがあるときは、裁判所は競売を命ずることができます。マンション等の場合は、現物分割が困難であるため、代償分割をしない限り、最終的にこの競売が命じられることになります。実際に判決がなされて、競売となれば、市場価格よりも大幅に安く売却されてしまうリスクがあります。
4 本件においてどちらの手続を選択すべきか
もし、他に預貯金などの財産があれば、全体を調整できる財産分与が適していると考えられます。他方、本件のように、他に財産がなく、ペアローン残債のある不動産が残っている場合は、どちらを選択すべきでしょうか。
| 比較項目 | 財産分与 (家庭裁判所) |
共有物分割請求 (地方裁判所) |
| 期限 | あり (離婚から2年 ※改正民法施行後は5年) |
なし |
| 手続の性質 | 話し合い重視 (実務上は調停からスタートし、時間がかかる) |
直ちに訴訟提起が可能 |
| 「競売」への プロセス |
審判で競売になる可能性もあるが、回避のための調整で長引く傾向 | 現物・代償分割が できなければ競売 |
財産分与の手続であっても、最終的には競売になる可能性はありますが、多くは調停から始まり、また、調停の場合、話し合いが重視されることから交渉に時間がかかります。交渉が長期化すると、将来的に不動産の価値が下落してしまうことも懸念されます。たしかに、昨今の不動産価格は上昇局面にあるため、元夫の言うように、待てば高く売れる可能性はゼロではありません。しかし、不動産市況がいつ下落に転じるかは予測が難しく、高値で売却できるとの保証はありません。
他方で、共有物分割請求は、共有物の分割について共有者に協議が調わないとき、又は協議をすることができないとき、直ちに訴訟提起が可能です。話し合いからスタートする財産分与と比較して、裁判所による最終的な判断が出るまでの期間が短くなりやすい特徴があります。そのため、交渉が長期化し、不動産の価値が下落してしまうリスクを抑えることができます。
最終的に競売がなされる可能性は、元夫を交渉の土台に乗せるための重要な切り札となります。元夫としても、最終的に、ローンを抱えた不動産を安価な価格で売却されるのは避けたいことでしょう。
したがいまして、本件のようなケースでは、共有物分割請求訴訟を選択されるのが、早期解決との観点からは適切です。
5 まとめ
共有物分割請求というルートを選択することで、財産分与の請求よりも早く、相手方を交渉の土台に乗せることが可能となり、結果的に早期解決を図ることが可能となります。
「数年後に考えればいい」との腰が重い元夫のペースに合わせて問題を先送りにしてしまうと、不動産価値下落のリスクを抱え続けることになります。
まずは、弁護士を介して、訴訟を見据えた交渉を早急に開始することが、ご相談者様にとって最も有利な解決につながります。
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長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。






