

賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
耐震改修工事ができません!賃借人の補修工事受忍義務
先日、ある事件の準備で、ある人の4件の預金口座の10年分の取引記録から10万円以上の金額がATMで引き出された日と金額をピックアップし、Excelの表にまとめなければならなくなりました。
従来であれば、事務スタッフが、一口座について何時間もかけてこの作業をやっていましたが。今回は、ある会社のAIのサービスを利用しました。
具体的にしたことと言えば、取引記録をPDFにして、このサービスのサイト内の指定された場所に保存し、上記の指示を文字でAIに入力しただけです。ところが、ほんの数分で、一つの口座の10年分の取引記録から、ATMで10万円以上の金額が引き出された日と金額が数十件、Excelの表にできる状態のデータとして出力されました。しかも、このサービスは、無料な上、保存した取引記録のPDFのデータは、外部から読み込まれる危険のないものでした。
もっとも、30件に1件くらいは、日付や金額の間違いがあり、確認作業が必要でした。
それでも、大幅な時間と労力の節約になり、もうAIが手放せないものになったことを実感しました。
さて、今回は、賃貸物件の耐震補修工事と賃借人の受忍義務のお話です。
私の知り合いの大家さんのAさんから、先日、こんな相談を受けました。
Aさんの経営する甲会社は、都内に3階建のビルを所有して、各フロアを賃貸していますが、ビルがかなり古くなっているため区の耐震診断を受けたところ、震度6強から震度7程度の地震があった場合、倒壊または崩壊する危険性が高いという診断がありました。
そこで、甲社は、耐震補修工事の計画を立てましたが、この工事(以下、「本件工事」といいます。)には2か月ほどの期間を要し、その間、賃借人は、賃借しているフロアの使用を制限されることになりました。
特に、1階に入っているBの経営する飲食店は、事実上、2か月間の休業をせざるをえないようでした。
甲社は、本件工事についてBに説明し、休業する2か月分の賃料は支払わなくても良いことを伝えましたが、Bは、2か月間の休業補償をしてもらえないのであれば、本件工事には協力できないと言い張り、上記の説明から3か月が経過した現在でも、本件工事の目途はたっていません。
そこで、甲社としては、Bとの賃貸借契約を解除したいと考えているが、このような解除は認められるかどうかを教えて欲しいということでした。
なかなか難しい問題です。
まず、民法の条文を見てみましょう。
(賃貸人による修繕等)
第六百六条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
(賃借人の意思に反する保存行為)
第六百七条 賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
これらの条文からすると、建物の賃借人は、賃貸人が賃貸建物に保存に必要な修繕をしようとするときは、拒むことができず、賃借人の対抗手段は、賃貸借契約の解除しかないことになります。
では、判例はどうでしょうか。
家屋の所有者が家屋の保存のために必要な限度で修繕等の工事をする場合、その家屋を使用する者は、賃借権を有するか否かに関わりなく工事を妨害してはならないとした最高裁判所の判例があります。
また、下級審の裁判例では、補修工事の足場の設置などにより賃借人の経営する飲食店で営業が妨げられたケースで賃借人の受忍義務を認めており、また、外壁修繕工事のための足場の設置のために、賃借人が設置した看板を撤去して協力しなければならないとしています。
さらに、建物の保存行為の受忍義務に違反したことを理由として、賃貸借契約の解除を認めた裁判例もあります。
上記のような条文や裁判例からすると、Bがこのまま本件工事を拒み続ければ、甲社は賃貸借契約を解除できるように見えます。
ただ、少し気にかかるのが、本件工事が対審補修工事である点です。
上記の裁判例は、いずれも具体的に補修の必要性(漏水の発生や外壁の損壊の危険)がある状態での補修工事であり、まさに保存行為と言えますが、耐震補修工事は、ある程度予防的な工事であり、少し性質が違うような気がします。
もちろん、震度6強から震度7程度の地震があった場合に倒壊または崩壊する危険性が高いという診断は、人命に関わることですから軽視できません。
また、最近の地震を見ると、震度7という地震が起こることは否定できません。
ですから、裁判所は、最終的には、耐震補修工事の場合を拒む賃貸人について、受忍義務違反による解除を認めざるを得ないと思います。
いずれにせよ、本件は訴訟になると思われますので、裁判所の判断を待ちたいと思います。
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大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。







