

賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
借地権の競売 地主の関与しないところで借地人が変わってしまうんですか?
このコラムが読まれる頃にはどうなっているかわかりませんが、現在、日経平均は、毎日のように最高値を更新しています。
その理由については、いろいろな意見がありますが、トランプ関税がそれほど高いものにならずに落ち着いたからということがあります。
こんな意見を聞いていると、トランプのやっていることは、弁護士が毎日やっている交渉に似ているなと思ってしまいます。
私も和解などの交渉時には、依頼者に最終的に許容できる金額を聞き、それにある程度上乗せして、相手方に伝えます。最終的に許容できる金額が500万円なら、700万円と言うわけです。その結果、600万円で合意すると、こちらは、許容できる金額より100万円多く手に入れて納得し、相手方も、最初に言われた金額から100万円減ったと納得します。
しかし、700万円というのは、別に確固とした根拠のある数字ではありません。それでも、その700万円から始まって、600万円で決まると、双方納得してしまうのですから、人間の心理というのは、面白いものです。
さて、今回は、借地権の競売のお話です。
私の知り合いの地主さん(Aさん)から、こんな相談を受けました。
Aさんの土地を借りている借地人Bが、知人の借金2000万円の連帯保証人になったのですが、その知人が借金を返済しなかったために、訴訟になってしまい、連帯保証人であるBに対して、2000万円の支払を命じる判決が出て、確定しました。
Bは、2000万円を払う資金がないため、判決が出ても支払をしなかったところ、Bの借地権及び借地上の建物が競売されてしまい、Cが競落し、CからAさんに対して、借地権の譲渡を認めて欲しいという連絡が来ました。
Aさんとしては、どこの馬の骨か分からないCから、突然借地人になったので借地権の譲渡を認めて欲しいと言われても納得がいかなかったので無視していたところ、裁判所から呼出しを受けました。
Aさんは、借地契約書では、借地権の譲渡は、地主の承諾が必要なことになっているので、勝手にCに借地権が譲渡された以上、借地権の無断譲渡を理由として借地契約を解除したいということで、私の事務所に相談に来られました。
実は、借地権は、独立した財産権ですから、競売の対象になります。正確には、借地権は、借地上の建物と一緒に、借地上の建物に附属する権利として、競売の対象となります。
本件では、債権者が、Bに対して2000万円の支払を命じた判決に基づいて、Bの所有建物とその敷地の借地権を対象として強制執行の申立を行い、建物と借地権が競売されたのです。
この競売の手続に、地主であるAさんが直接関与することはなく、また、Aさんは、この競売の手続を阻止することもできません。
この結果、借地契約書に、借地権の譲渡は、地主の承諾が必要であると書いてあっても、Aさんの承諾なしに、Cが借地人となってしまいます。
これは、法律が認めていることですから、Aさんは、借地権の無断譲渡を理由として借地契約を解除することはできません。
では、Aさんは、どこの馬の骨か分からないCを、借地人として認めるしかないのでしょうか。
実は、Cは、競売の手続によって借地上の建物と借地権を取得することができ、無断譲渡を理由に借地契約を解除されることありませんが、Aさんの承諾がなければ、Aさんに借地人であることを主張できません。
このため、CからAさんに対して、借地権の譲渡を認めて欲しいという連絡が来たのです。
Aさんが、Cを借地人と認めるならば、借地権譲渡の承諾料を払ってもらい、正式にCを借地人として認めることになります。
一方、AさんがCさんを借地人として認めることを拒否したり、無視したりしている場合は、Cは、裁判所に申立て(競売に伴う土地賃借権譲受許可申立て)をして、地主の承諾に変わる許可を出してもらうことができ、その際、裁判所が承諾料を決定します。
Cは、上記の申立を、裁判所に競売代金を納付した日から2か月以内にしなければなりません。
そして、この申立があると、Aさんには、裁判所から申立書とともに呼出状が送られてきます。
この競売に伴う土地賃借権譲受許可申立て事件では、裁判所は、特に問題が無ければCの申立てを認めてしまいますが、Aさんには、対抗手段として、建物及び土地賃借権譲渡の申立てが認められています。
この申立は、Aさんが、Cさんから建物と建物の敷地の借地権を買い取るという申立てです。
この申立てがあり、裁判所が認めると、Cさんは、折角競売で建物と建物の敷地の借地権を競落したのに、Aさんに建物と建物の敷地の借地権を買い取られてしまい、Cさんは、建物と建物の敷地の借地権を使用することができなくなってしまいます。
ちょっと話が難しくなってしまいました。
要するに、Aさんは、借地権の無断譲渡を理由として借地契約を解除することはできません。
Aさんにできることは、Cが申し立てた競売に伴う土地賃借権譲受許可申立て事件において、Cが借地人となること受け入れ、Cから裁判所の決めた承諾料の支払い受けるか、対抗手段である建物及び土地賃借権譲渡の申立てをして、Cから建物と建物の敷地の借地権を買い取るかのいずれかです。
Aさんとしては、釈然としないところですが、仕方のないところです。
この記事を読んだあなたにおすすめの記事
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。







