

相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
ちょっとだけ困った遺言書 2 『書き直されなかった遺言書』
今後の相続のためにも、「早めのお手続きを」というのが先月のテーマでした。
そういえば、遺言の場合にも同じようなことがあったなあ。と思い出しました。
蓋を開けてみないとわからない遺言書。
作成したときと、遺言の効力が発生するつまり相続が開始したときの状況が必ずしも、一致していないことがしばしばあります。
【ケース1】 財産状況が変わってしまった場合
お母様の遺言書
1 遺言作成時 土地6,000万円 金融資産ほか6,000万円 合計1億2,000万円
長女 A土地2,000万円+金融資産の2/3 (計 6,000万円)
次女 B土地4,000万円+金融資産の1/3 (計 6,000万円)
お母様の遺言作成時のお気持ちは、概ね1/2ずつ相続させようという内容であることは明らかだと思われます。
2 相続開始時 土地2,000万円 金融資産ほか9,000万円 合計1億1,000万円
長女 A土地2,000万円+金融資産の2/3 (計 8,000万円)
次女 金融資産の1/3 (計 3,000万円)
ご推測の通り、B土地を生前中に売却してしまったからです。
遺産の合計額は、税金や生活費の支出で少し減っているようです。
お嬢様方には、お母様が生前に「半分ずつ遺産を分割するように」と常々お話しされていたそうです。
遺言作成の後、土地を売却した当時は、お母様はお元気で、所得税の確定申告をご自分でなさるほどだったと伺いましたが、遺言書はそのままになっていました。
しばらくして、入院や認知症の症状のために遺言書を作成しなおすことは難しくなってしまったのです。
遺言書に従うと、次女様の相続額は
3,000万円 > 1億1,000万円×法定相続分1/2×1/2=2,750万円 (遺留分)
となり、この遺言のままでも、遺留分を侵害していません。
とはいえ、このまま分割してしまうと、いかがでしょうか。やはり、姉妹の間にわだかまりが少し残ってしまいそうな気が…。
最終的には、お母様の本来の思いに沿うようにしたいというお二人のお考えから、遺産分割協議書を作成し金融資産を調節して、次女様が5,500万円の金融資産を相続して、1/2ずつにすることになりました。
めでたし、めでたし。
とはいえ、いつもハッピーエンドになるわけではありません。
【ケース2】 家族関係に変化があった場合
お父様の遺言書
早くに奥様を亡くされて、次男家族と同居、体調を崩されてからはご次男の奥様が介護をされていました。
1 遺言作成時 土地8,000万円 金融資産ほか1億2,000万円 合計 2億円
長男 金融資産6,500万円
次男 金融資産5,000万円+同居自宅5,000万円
長女 金融資産 500万円+自宅敷地3,000万円
ご長男は、賃貸物件に居住されており独身、体調が万全ではないことから、金銭的に厚めにされたとのこと。ご次男は、現在同居しているご自宅を相続させ祭祀関係も引き継ぐように遺言するとともに、介護などの感謝をこめる意味で上記のように遺言されました。
もし、お父様より前にご長男が亡くなられた場合は、ご次男がご長男分の6,500万円を併せて相続する予備的な記載もされていました。
ご長女は嫁がれており、お父様の土地にご自宅を建てて居住。「介護は、弟の奥さんにまかせっきりでごめんなさいね。私は、住んでいる土地を相続できれば十分」と言っていたもののせめて遺留分程度の額(2億円×1/3×1/2=3,333万円)の遺産は受け取ってもらいたいとして上記の内容になったそうです。(もしもご長女死亡の場合は、お孫さんがこの額を相続するとの予備的遺言になっていました。)
2 相続開始時 2億円
次男 金融資産1億1,500万円+同居自宅5,000万円(計1億6,500万円)
孫(長女代襲相続) 金融資産500万円 +自宅敷地3,000万円 (計 3,500万円)
遺言作成時には思いもよらなかったのですが、ご長女が遺言書作成後急死されてしまったのです。その後は、ご長女のご家族との行き来はなくなってしまったとのことでした。代襲相続人はお孫さんがおひとりおられますが、この時点では、「長女⇒孫」と置き換わっただけなので特に遺言の内容とあまり変化はないのかもしれません。
それではなぜこんな分割になってしまったのか。
その後、ご長男の体調も思わしくなく、とうとうお父様より先に亡くなられてしまいました。そのことがショックだったのかお父様も後を追うように亡くなってしまわれたのです。
相続開始時点での相続人は、とうとうご次男とお孫さん(長女代襲相続人)のお二人になってしまいました。
遺言執行の手続きが始まるや否や、ご次男宅に、弁護士が何の前触れもなくやってきたとのことです。
「「遺留分を侵害している」ため、今後は長女代襲相続人ではなく弁護士を通して対応させていただきます。」と。
3,500万円 < 2億×法定相続分1/2×1/2=5,000万円 (遺留分)
ご次男にとって、1,500万円を渡すことは何も抵抗はなかったものの一度も本人と話し合うこともなく、ひどく敵対的だったことがショックだったとおっしゃっていました。
親戚付き合いをすることは、二度とできないだろうとも。
もちろん、遺言書作成時のいきさつを代襲相続人のお孫さんは知る由もなかったでしょうし、1億6,500万円と3,500万円の違いに憤慨されたことも想像に難くないとは思います。
ただ、ボタンの掛け違いとしかいいようがないのですが、ご長男が亡くなられた時点で相続人の構成が変わったのですから、それにあわせて遺留分を考慮して、遺言を新たに作成していたとしたら、こんなにも関係がこじれることはなかったかもしれません。
遺言書を書き直すタイミング
〇 財産状況が変化した場合
ケース1のように、遺言書に記載した財産に大きな変化があった場合です。また、遺言書作成後に増えた財産について記載が漏れてしまっていると、その財産には遺言の効力が及びません。見直しをしてみましょう。
〇 家族関係に変化があった場合
ケース2のように、相続人が減ってしまう場合もあれば、結婚や出産で変化する場合も考えられます。また、離婚した場合も同様です。自分の意に沿わない遺言になっていないかチェックが必要です。
〇 遺言者の気持ちが変化した場合
遺言は、遺言者の意思表示なのですから、その気持ちが変わったのであれば新しく作成するのは当然です。
遺言は、法律行為ですから、公正証書遺言や自筆遺言によっても、一部変更や破棄など内容によっても書き換えの手続きが異なる場合がありますので、注意が必要です。
また、遺言書は、新しい日付のものが優先されますが、新しい遺言書が法律上無効になるようなものであれば、旧遺言書がそのまま有効となることさえあります。
それに、新しい遺言書の存在に気付いてもらえなければ、旧遺言書が執行されてしまう可能性もあります。
もしも、新しい遺言書に書き換えたのであれば、旧遺言書は破棄するなど処分しておいたほうが良いと思います。
せっかくの「遺言」が、「争族の原因」になるなんて残念すぎます。
節目ごとに、ご自身とご家族の生活や将来を想う時間を取っていただきたいと思います。
あわせて、遺言の内容についても書き換えの必要がないかを是非検討してみてください。
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