

相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
そんな書類を渡していたら、なんともできない。受任前の依頼者の不用意な行為
先日、長野県の山荘に宿泊したとき、窓辺に鳥用の餌台が置いてありました。縦20センチ横30センチくらいの長方形の木製の平らな器に、ヒマワリの種がたくさん置いてありました。
その餌台を、離れたところからじっと見ていると、次から次へと鳥がやってきて、ヒマワリの種を啄んで飛び去って行きした。
よく見ていると、どうも鳥の間にもルールがあるようで、1羽の鳥が餌台の上にいると、次に飛んできた鳥は、直ぐには餌台には行かず、先に来ている鳥がいなくなるまで、待っているようでした。このため、餌台には、いつも1羽しか鳥がいないという状態でした。
さらによく見ていると、確かに1羽ずつ餌台に上がるのですが、先に来た鳥が、まだヒマワリの種を啄んでいないのに、次の鳥が後ろに来たと同時に飛び立ってしまうことが何度もありました。
勝手な推測ですが、先に来た鳥は、次に来た鳥が自分より格上の鳥だと、逃げてしまうのではないでしょうか。鳥の世界も、なかなか上下関係が厳しいのかもしれません。
さて、今回は、受任前の依頼者の行為によって、その後の対応が難しくなるというお話です。
最近、こんな相談がありました。
Aさんの父親が脳梗塞で突然亡くなり、相続が開始しました。Aさんの母親はすでに亡くなっていましたので、相続人は、Aさんと弟のBの2人で、遺産としては、父親が居住していた自宅の土地及び建物と預貯金です。
この事件では、Bには弁護士がつき、Aさんと事前交渉をしていましたが、Aさんは、Bの弁護士から、「生前、お父様から多額の生活費の援助受けていませんでしたか。」という質問を受けました。
Bの弁護士は、亡くなった父親の複数の預金口座を取り寄せ、引出の記録から、父親が亡くなる2年前に600万円、また、同じく1年前に500万円の使途不明な引出があるのを把握して、Aさんに上記の質問をしたのです。
この質問に対して、Aさんは、Bの弁護士の指摘した使途不明金を父親から受領したことを認める回答書を渡してしまいました。
Bの弁護士は、当然のことながら、Aさんが貰ったお金は特別受益であると主張し、その特別受益を持ち戻して遺産分割をするように主張してきました。
困ったAさんは、この時点で、私の事務所に相談に来たのですが、Aさんの出した回答書の控えを見ると、Bの弁護士の指摘した使途不明金を父親から受領したことを認めていました。
ただ、幸いなことに、この書面では、お金を受け取ったことを認めてはいるものの、そのお金は、父親の生活費と成人の孫に対する小遣いや援助に使い、自分が貰ったわけではないと書いてありました。
Aさんの話としては、本当に父親の生活費と父親に言われて孫の小遣いや援助として孫に渡したので、何も嘘は言っていないということでした。
一応、実務的には、亡くなった被相続人の生活費として、毎月10万円程度は認められています。
ですから、毎月10万円は、受領したお金の中から父親の生活費として支出したという説明は、認められるのではないかと思います。
これに対して、成人の孫に対する小遣いや援助という説明を、裁判官に認めてもらうのは、なかなか困難です。
そもそも、本当に孫への小遣いや生活費の援助に使われたのか自体、立証することが困難です。孫から陳述書を書いてもらって提出することは可能ですが、孫はあくまでAさん側の人間ですので、その陳述の信用性は低いと言えます。
それでは、Aさんとしては、どうすればよかったのでしょうか。
Aさんの父親は、脳梗塞で突然亡くなったのですが、亡くなるまでは、自分だけで外出できるような状態だったそうです。
このように、被相続人が亡くなるまで自分だけで外出できるような状態だったのですから、Aさんは、「そんな引出しは知らない。」と回答すればよかったのです。
使途不明金が争点となっている場合、まず、最初の問題は、誰が引出したかです。そして、その立証責任は、使途不明金を追及する側、この事案では、Bにあります。
Aさんが、使途不明金について、「そんな引出しは知らない。」と回答すると、その引出をAが行ったこと、あるいは父親が引出したお金をAに渡したことは、Bが立証しなければなりませんが、そのような立証は、ほぼ不可能です。
一方、Aさんが、使途不明金について、「父親から受け取った。」と回答すると、今度は、Aさんは、Aさんが父親から受け取ったお金を父親の生活費に使い、あるいは孫に渡したことを立証しなければなりません。
もちろん、父親の生活費の部分は立証することは困難ですが、先程説明したとおり、裁判所は、月額10万円程度は、認めてくれます。
これに対して、孫に渡したことを立証するのは、かなり困難です。
このように、自分が弁護士に依頼する前に、相手方に弁護士がつき、いろいろと質問されたときは、不用意に回答すると、その後弁護士がついても、どうにもならないことがあります。
弁護士に依頼するかどうかは別として、弁護士に相談してから回答するのが賢明です。
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