

不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
借地権付き建物の売買に関するトラブル
【Q】
私は、A所有の本件土地を借地し本件建物を建築して生活していましたが、今回、本件建物をBへ売却することになりました。私は、地主Aとの間でBへの借地権譲渡承諾の合意書を結び、承諾料として金550万円を地主Aに支払い、又、買主Bとの間で借地権付き建物の売買契約を結びました。ところが、買主Bが決済期限までに売買代金を支払わなかったため、Bとの借地権付建物の売買契約は買主Bの違約により解除となりました。
私は、Bとの本件売買契約が解除された以上、地主Aとの借地権譲渡承諾の合意を撤回して、Aから承諾料550万円を返還してもらうことができるでしょうか。
【回答】
地主Aとの借地権譲渡承諾の合意書において、Bとの借地権付き建物の売買契約が解除された場合には承諾料を返還する旨の合意がされている場合には、あなたは地主Aに対して承諾料の返還を求めることができますが、その旨の合意がない場合には承諾料の返還を求めることは難しいと考えられます。
1 借地権譲渡の承諾
借地権者が借地上に建築した建物を第三者に売却する場合、売主(借地権者)と買主との売買契約では、建物所有権の譲渡の他に、土地の利用権である借地権の譲渡(ないし転貸)の合意を結ぶことになります。この借地権の譲渡には、原則、土地の賃貸人(借地権設定者)の承諾が必要となり、これに反して、賃貸人に無断で借地権の譲渡・転貸を行った場合には、借地契約の解除事由となる可能性があります(民法612条)。
借地権者が借地権設定者に対して借地権譲渡の承諾を求めた場合、借地権設定者は、新たな譲受人の信頼性、資力、使用用途、賃料、賃貸期間、承諾料、建替えの有無等について検討の上、譲受人との借地条件が調った場合に借地権譲渡を承諾します。借地権設定者が借地権譲渡を承諾するまでに時間を要することもあるため、借地権付き建物の売買契約では、借地権者が借地権設定者から借地権譲渡の承諾を期限までに取得することを条件とし、期限内に譲渡承諾を取得できない場合の解除条項等を定めて売買契約を締結することが行われています。
2 借地権設定者の承諾に代わる許可
借地権者と借地権設定者との任意交渉によっても、借地権譲渡の合意が調わない事態も想定されますが、借地借家法では、借地権が譲渡されることにより、借地権設定者に特段不利となる事情がないにも関わらず、借地権設定者が借地権譲渡を承諾しない場合、借地権者の申立てにより、裁判所が借地権設定者の承諾に代わる許可を与える借地非訟手続きを設けています(借地借家法19条1項)。
同手続きでは、賃借権の残存期間や借地に関する従前の経過、借地権の譲渡等を必要とする一切の事情を考慮し、当事者の利益の衡平を図るため必要があるときは、借地条件及び財産的給付を定めて、借地権設定者の承諾に代わる許可をする決定を行います。
これに対し、借地権設定者は、これを阻止し自己に優先的に建物及び借地権を譲渡するように申し立てる「譲受申立」をすることができます(借地借家法19条3項)。裁判所は、譲受申立の要件を満たしている場合、建物と借地権の相当の対価を定めて、借地権設定者に建物及び借地権を譲渡することを借地権者に命じます。この制度により、借地権設定者は借地の利用権を取り戻すことができ、また、借地権者も建物や借地権価格の回収を図ることができます。
3 裁判例
(1)借地権付き建物の売買に関する裁判例として、東京地裁・令和元年11月27日判決では、本件設例と同様に、借地権者(原告)が買主との間で借地権付き建物の売買契約を締結し、借地権設定者(被告)から借地権譲渡の承諾を得て承諾料を支払った後、買主の売買代金の不払いにより売買契約が違約解除された事例において、借地権者(原告)は、借地権設定者(被告)に対して、売買契約の解除により借地権譲渡承諾の合意も解除された等として、承諾料の返還を求めました。裁判所は、「借地権設定者(被告)に対して承諾料の支払いをしたとしても、後に、売買契約が解除される可能性があることも想定することができ、そのような場合に支払い済みの承諾料の返還を求めるのであれば、あらかじめ借地権設定者との間でその旨の合意をするなどの対応も可能であった」として、売買契約が解除されたことをもって、直ちに承諾料を支払う合意の効力に消長を来すものではないとし、原告の請求を棄却する判断をしました。
(2)また、東京地裁平成30年7月4日判決では、借地権付き建物の売買契約において、売主(借地権者・被告)が、買主業者(原告)に対して、借地権譲渡の承諾書を取得する義務に加えて、建物に抵当権等の設定登記をすることの承諾する金融機関に対する融資承諾書面の発行について事前承諾を取得する義務を負っていたか否かについて争われた裁判において、裁判所は、「借地権譲渡についての承諾は、借地権付建物の売買契約において、売主が目的物引渡債務を履行する上で必須の手続きであり、地主の承諾が得られない場合の承諾に代わる許可を得るという代替手続も存在するが、融資承諾書面の発行について地主の事前承諾を取得することは、売主の目的物引渡し債務を履行する上で必要となるものではないし、代替手段も存在せず、売主においてあらかじめ取得を確約できる性質のものでもないから、このような事前承諾を取得すべき債務を一方的に負担させるのは酷である。また、借地権譲渡承諾については取得できない場合の解除条項があるが、融資承諾書面について事前承諾が得られない場合に解除できる旨の説明もない、以上によれば本件売買契約において、地主から借地権譲渡承諾書を取得すべき債務を超えて、融資承諾書面の発行について事前承諾を取得すべき債務を負担することまでの合意がされていたものとは認めらえない」と判断しました。同裁判例は、売主が個人、買主が宅建業者の消費者契約であり、当該事案の具体的事情における判断ですが、参考になります。
4 まとめ
借地権付き建物の売却を行う場合、売主・買主間との借地権付き建物の売買契約の他の他、借地権者・借地権設定者間の借地権譲渡の承諾合意書を結ぶことが必要となり、双方の契約において、一方が不履行となった場合を想定した解除条項等を設ける必要があります。また、前記裁判例(2)のように、借地権譲渡承諾の他、融資承諾書に関する事前承諾書の取得が問題となる等、各売買契約により様々な合意が盛り込まれることが想定されますが、後のトラブルとならないように、合意内容を具体的に明確にする必要があります。
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