

不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
特約によって「不可分の関係」となった土地
【Q】
私はこのたび、所有している土地(以下「本件土地」といいます)を売却することになりました。
売却を依頼している不動産会社を通じて、買主の方との交渉を進めていたところ、買主の方から、私の本件土地だけではなく、隣の方が所有している土地(以下「本件隣地」といいます)も一緒に買いたいという希望があり、隣の方もちょうどいいタイミングとその希望に応じられたため、私と隣の方がそれぞれ同じ買主に土地を売ることになりました。
その際、仲介の不動産会社から「2つの土地をセットで売る契約にしておいた方がよい」との説明を受けたので、不動産会社に契約書案を作成してもらいました。
契約書案には、「特約」として、以下の内容が入っていました。
1.本契約は、買主が別途、B〔※隣の方です〕と●年●月●日までに締結する予定の下記の土地〔※本件隣地です〕に係る売買契約(以下「隣地契約」といいます)と不可分の関係にあり、隣地契約が締結に至らなかった場合又は解除された場合、本条第2項から第4項に従い、本契約も効力を失うものとします。
2.買主が隣地契約を手付解除した場合、本契約についても、買主が第14条第1項〔※手付解除の条項です〕により解除したものとみなし、買主は、同条第2項に基づき、売主に対する支払済みの手付金の返還請求を放棄します。
3.隣地契約が買主の債務不履行により解除された場合、本契約についても、第15条第1項〔※違約解除の条項です〕により解除されたものとみなし、売主は、同条第2項本文に基づき、買主に対し、違約金の支払を請求することができます。
4.隣地契約が締結に至らなかった場合、隣地契約がBにより手付解除された場合又はBの債務不履行によって解除された場合、本契約は当然に効力を失うものとします。この場合、売主は、買主に対し、速やかに受領済みの金員を無利息にて返還するものとします。
私には、この特約の意味がよく分からないので、質問させてください。
仮に契約をした後になって、隣の方が突然「やっぱり売りたくない」と言い出し、本件隣地の売却を拒んでしまった場合、①隣の方が本件隣地を売らないことになると、私の土地の売買契約までなくなってしまうのでしょうか。②私は契約どおり本件土地を売るつもりなのに、買主から違約金や損害賠償を請求されることもあるのでしょうか。③また、契約がなくなった後は、私の土地だけを別の人に売ることはできるのでしょうか。
【A】
1 本件隣地の売買契約が解除されると、本件土地の売買契約も効力を失います
まず、いったん売買契約を締結してしまえば、隣の方(B氏)も、手付解除ができる場合などを除き、単に「売りたくなくなった」という理由だけで契約から離脱できるわけではありません。
売主が正当な理由なく土地の引渡しを拒んだ場合には、債務不履行(契約に基づき負っている義務(債務)を契約どおりに履行しないことを指します)となり、買主は、一定の場合に契約を解除することができます。特に、売主が土地を引き渡さない意思を明確に示した場合には、買主は催告をすることなく契約を解除することができる場合もございます(民法542条1項2号)。
今回のポイントは、ご相談者様と買主との売買契約と、隣の方と買主との隣地の売買契約が、それぞれ別個の契約でありながら、特約によって「不可分の関係」にあると定められていることです。
ご相談いただいた売買契約の特約では、本件隣地の売買契約が締結に至らなかった場合や解除された場合には、その原因に応じて、ご相談者様と買主との売買契約も効力を失うものとされています。
隣の方が「売りたくない」と言い出しただけでは、本件隣地の売買契約が解除されるわけではありませんので、ご相談者様と買主との売買契約も当然に効力を失うわけではありません。
その一方で、隣の方が手付解除をした場合(手付解除につきましては、本コラムの2019年9月号をご参照ください)や、隣の方の債務不履行を理由として買主が本件隣地の売買契約を解除した場合(違約解除。立場は売主と買主とで異なりますが、違約解除につきましては、本コラムの2022年7月号をご参照ください)には、特約の第4項により、ご相談者様ご自身は予定どおり本件土地を売却するご意思があったとしても、ご相談者様と買主との売買契約も当然に効力を失ってしまうことになります。
このように、本来は別々の売買契約について、一方の契約の成否や効力を他方の契約と連動させる内容の特約を、一般に「不可分一体特約」などと呼ぶことがあります。
2 ご相談のケースではご相談者が違約金や損害賠償を支払う必要は原則ありません
それでは、隣の方が契約に違反(違約)したことによってご相談者様の売買契約まで効力を失った場合、ご相談者様も買主に対して違約金や損害賠償を支払わなければならないのでしょうか。
この点につきましては、「売買契約が効力を失うこと」と「ご相談者様自身が債務不履行責任を負うこと」とを分けて考える必要がございます。
今回の特約では、隣の方の債務不履行によって本件隣地の売買契約が解除された場合には、相談者と買主との売買契約は当然に効力を失い、ご相談者様は、買主から受領していた手付金などを無利息で返還するものとされています(特約第4項)。
裏返しとして、この場合、ご相談者様は、手付金等既に買主から受領されていたお金を返還すればよく、それを超えて、違約金や損害賠償を支払う必要がないと読むことが自然です。
したがいまして、ご相談者様自身には契約違反がなく、隣の方の債務不履行によって売買契約が終了しただけであれば、ご相談者様が受領済みの金員を返還する必要はあるものの、それに加えて買主に違約金や損害賠償を支払う必要は、原則としてないと解されます。
これに対し、ご相談者様自身が本件土地を引き渡さないなど、ご相談者様にも契約上の義務違反があった場合には、別途、買主に対する違約金や損害賠償の問題が生じる可能性がありますので、ご注意ください。
なお、今回の特約では、反対に、買主の債務不履行によって本件隣地の売買契約が解除された場合には、ご相談者様と買主との売買契約についても買主の債務不履行によって解除されたものとみなし、ご相談者様は、買主に対し、違約金を請求できる旨が定められています。
このように、不可分一体特約を設ける場合には、一方の契約が終了したときに他方の契約をどうするのかだけでなく、「誰の責任で契約が終了したのか」に応じて、手付金や違約金をどのように処理するのかまで定めておくこと及びその内容がとても重要になります。
3 契約が終了した後は、原則として別の人に売却できます
隣の方の債務不履行によって本件隣地の売買契約が解除され、それに伴って不可分一体特約に基づきご相談者様と買主との売買契約も効力を失ったのであれば、ご相談者様は、原則として本件土地を別の第三者に改めて売却することができます。
もっとも、当初の買主との契約関係が終了したことを確認しないまま別の人への売却を進めると、新たなトラブルにつながるおそれがあります。
そのため、実際には、本件隣地の売買契約が解除されたこと、それによってご相談者様と買主との売買契約も特約に基づき終了したことを確認するとともに、手付金等を受領している場合には、特約に従ってこれを返還した上で、新たな売却を進めるのが適切です。
また、当初の買主が「本件隣地を取得できないのであれば本件土地も購入しない」というのであれば以上のとおりですが、事情が変わり、「本件隣地は取得できなくても、本件土地だけなら購入したい」と希望することも考えられます。
その場合には、ご相談者様と買主の双方が合意すれば、改めて本件土地のみを対象として売買契約を締結することも可能です。
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長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。






