

家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
これからの注文住宅をつくる人へ
誰に依頼する
建築業界は2000年4月に施行された、住宅品質確保促進法(品確法)を始めとし、耐震及び省エネの改正などさまざまな法律の見直しによって、住まいの性能の底上げと高性能の標準化が進みました。
その結果、同質化された住まいが多く見受けられるようになった印象があります。
さらに昨年度の住宅着工数は81万6千戸で、直近の住宅着工数は2020年代に入ってからは明確に減少傾向にあります。空き家問題もありますが、住宅の供給が過剰であり、さらに 家を建てる世帯の割合そのものが少なくなってきたことなども主な理由に挙げられるでしょう。
一方でそんな社会的状況を抱えながらも、建築家に依頼して住まいを求める施主はある一定数いて、大きな増減の傾向は見られません。
その背景として、自分たちでこだわりを持ち長く愛するものを建てたいという唯一無二の住まいを求めているからなのです。一概に注文住宅といっても、誰に、どこに依頼するかによって予算も機能ももちろん、考え方や取り組み方も大きく違います。
今回は「建築家に依頼するならこんな考え方で、取り組んでみてはいかがでしょうか」
という視点を提案します。
建築家に依頼することとは
建築家の仕事は自然と人との接点をデザインすることです。 例えば自然素材を採用したいのであれば、その素材に対して自分の経験値や感性を活かして寸法を与えることができます。 これが商品となると寸法は決まっていてあまり自由度がありません。 経験値や感性は生き方から生まれてくるものです。したがって「建築家」という職業は抽象的な言葉になりますが、努めて良く生きることを常に考えていなければなりません。
それ以外で良い建築をつくる方法はないのではないでしょうか。 デザインや空間にはその人の「人となり」が出てしまうのです。したがって建築家を選ぶ時はそんな人となりをきちんと観察しておくことがとても重要です。
そして施主も「お客様と建築家」という関係ではなく、お互いに「良い建築とは何か」を目指して「同志」のような気持ちを持ってつくりあげていくことも、心持ちとしては大切です。
そういった関係性がつくれると、信頼感が生まれ、「基本的なことは理解しました。あとはお任せをしても大丈夫」という気持ちにもなっていくのです。任せられた建築家は責任もありとても大変です。しかし、そこにはその人の生き様が表現され、詩(うた)が生まれ、その詩は永く愛される建築となっていくのです。
なかには「自分達の家なのだから、建築家個人の思いや表現は必要ない」という人もいるでしょう。それは施主が「お客様」という立場にいるからです。ですから始めに「同志」となることが大切なのです。同志であればこそ、その建築に誇りをもって大切に使っていけるのです。「商品」としての家づくりでは誇りを持つことはできません。
施主の心構え
最近の施主はネットでたくさんの情報を集めていますので、設計案に対して様々な質問や希望を言います。それはとても良いことですが、質問や希望をある程度まとめ、建築家に依頼する意味を理解し、最大限その建築家の魅力を引き出してあげることもお互い「同志」の役割です。
たとえば家事ラクの動線計画、サニタリースペースの充実さ、使い勝手のよい収納と工夫等はお願いしても良いと思います。 また、温熱環境や省エネルギー耐震化など住まいの基本性能となる項目は数値化できますのでそういったことは尋ねてみて下さい。
建築家に依頼する価値は「感性のデザイン」です。いわば情緒的な心地良さの表現です。こういった項目にはあまり口を出さない方が良いのです。たとえば四季の変化を味わう空間や空間のもつ柔軟性、そして素材感を活かした空間や陰影のある光空間等です。なかにはこれらの空間は分かりづらいので、CGやパースで表現する建築家もいます。でも空間は分かりづらいからこそワクワク感が生まれるのです。
そしてそこににじみでる空気感は、住まう人の心に届くように言葉で説明する必要があるでしょう。そこで使われる言葉はまさに建築家の生き方や経験値から勝ちとった言葉なのです。
施主にとってはCGやパースの方がわかりやすいかもしれませんが、そこは想像を楽しんでほしいのです。それが気に入った建築家に依頼する醍醐味なのだと感じてほしいのです。
一生に一回の大きな買い物です。だからこそ「信頼」という目には見えないものを見るには繰り返しになりますが、建築家の生き方をみるしかないのです。
現場職人の仕事
建築家がまとめた設計図面は思考を伴う仕事です。一方で職人は肉体を使った感覚的な仕事です。感覚的な仕事なので、その瞬間、瞬間が勝負なのです。それは人には伝えられない自分だけの感覚かも知れません。
職人は人間性がそのまま出てしまうので、言葉で誤魔化すことはできません。だから出来あがるものは瞬間の芸術といっても良いのです。
しかし商品化された部材等は伸びも縮みもしません。何の工夫もなく単に切って貼りつけるだけの単純作業だけです。
水も必要としません。建築において水を使った材料は施工がとても難しいのですが、近年は出来るだけ水を使わない建材が多く出回っています。そのため現場では真剣勝負の必要がなくなり、単なる「作業員」になってしまいます。
商品は出来た時には美しいかも知れませんが、家づくりにおいてもっとも大切なことは「長く時間をかけて、美しくなるようなものをつくっていく」ことです。
建築において最高の価値は、「いかに長く建っているか」にあります。長く建つには、そこに職人の心を込めた「手作業」があることです。
かつての日本家屋や民家などがそうです。時代は変化し、そういった非効率なことは今の時代では無理という人もいるかも知れません。しかし、そうして拘った家づくりをしている施主はまだまだいます。
施主・建築家・職人が三位一体となり、注文住宅を一緒につくりあげていくことが大切です。建築家は一般にお節介が好きな人が多いです。建築家が見つかれば、きっと腕の良い職人を連れてくると思います。
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佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。






