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やっと勝ったよ!建築条件付き土地売買の説明義務
先日、長女の家族と一緒に、原宿にあるスマホメーカーのショールームで行われたイベントに行ってきました。
そのイベントは、プロジェクションマッピングで室内に映し出される恐竜をそのスマホメーカーが販売しているスマホにインストールされているアプリを使ってゲットするというものでした。
入り口でスマホを渡され、アプリの使い方の簡単な説明を受けた後、恐竜が映し出されている部屋に入るのですが、私が初めて使う機種のスマホや説明を受けたばかりのアプリにちょっと戸惑っている横で、もうすぐ6歳になる孫は、あっという間に使いこなして、恐竜をゲットしていました。
子供は、飲み込みが早いなあと感心するとともに、ついて行けなくなりつつある自分を自覚しました。
さて、今日は、2022年2月のコラムに書いた建築条件付土地売買を巡るトラブルの後日談です。
どんな事案であったか、もういちど概略をお話しします。
私の依頼者のAさんは、千葉県内にある土地を気に入り、その土地の売主の不動産会社Bの指定する建築業者C社を訪ね、C社の担当者と一級建築士Dから、B社が販売用に作成したパンフレットに記載されている建物なら5000万円で建築可能であるという説明を受けました。
そこで、Aさんは、B社との間で、この土地(以下、「本件土地」といいます。)を建築条件付きで、代金5000万円で購入する売買契約を締結しました。
また、Aさんは、上記売買契約後、すぐにC社との間で、販売用パンフレットに記載されていたとおりの建物の建築を内容とする建築請負契約を締結し、同時に、Dとの間で、この建物について、設計・監理委託契約を締結しました。
ところが、上記の各契約の締結後にDが構造計算をしたところ、法令上、基礎工事に追加工事が必要となり、その費用として、2000万円の追加費用が必要であることが分かりました。
このため、Aさんは、パンフレットに記載されていた建物を5000万円で建築することは不可能となったのであり、それは、C社及びDの債務不履行であるとして、C社との建築請負契約とDとの設計・管理委託契約を解除しました。
また、本件土地の売買は、建築条件付きですので、建築請負契約が解除されたため、当然、B社との土地売買契約も解除となりました。
本件土地の売主であるB社は、すぐAさんに売買代金を返還してくれたのですが、Aさんには、既に支払った設計料の一部、銀行融資を受けた際の保証料、土地の決済から売買代金の返還を受けるまでの銀行利息、不動産取得税、土地の決済から売買契約が解除されるまでの固定資産税、3通の契約書に貼った印紙代など、さまざまな損害が発生し、その総額は数百万円になりました。
そこで、Aさんは、B社、C社及びDに対して、これらの損害の賠償を求めました。これに対して、B社は非を認めたのですが、C社及びDは自分達には責任はないと言い張り、賠償請求に応じません。
このため、Aさんは、C社及びDを被告として、損害賠償請求訴訟を提起しました(B社を被告に加えなかった理由については、割愛します)。
これに対して、C社及びDは、請求棄却を求め、さらに、Dはまだ支払いを受けていない設計料の残金を請求する反訴を提起してきました。
Aさんの言い分は、次のとおりであり、ごく当たり前の内容でした。
「C社は、この土地の売買契約の前から、この土地に建物を建築する業者として指定されており、また、Dもその建物の設計及び監理をすることが決まっており、C社及びDは、この地位に基づいて、Aさんに対してプレゼンテーションを行ったのであるから、Aさんに対して建築プランを説明する際に、基礎工事の追加工事によって追加費用が必要となるかどうかを調査し、少なくともその可能性があるかどうかを、AさんとB社の土地売買契約に先だって説明する信義則上の義務があった。
ところが、C社及びDは、この調査及び説明義務に違反し、単にB社が販売用に作成したパンフレットに記載されている建物なら5000万円で建築可能であるという説明をした。
このため、Aさんは、C社及びDとの各契約を解除せざるを得なくなり、この結果、B社との建築条件付き土地売買契約も解除となって損害を受けたので、その賠償を請求する。」
これに対する、C社及びDの言い分は、次のとおりです。
「パンフレットに記載されていた建物を5000万円で建築可能と説明したのは、一応の提案であり、この段階では、構造計算をしておらず、また、その義務もない。構造計算は、基本設計ができた後に行うもので、構造計算の結果、追加の基礎工事が必要となり、追加の費用が発生した場合には、買主の負担となる。このことは、重要事項説明書にも明記してあり、Aは、土地の売買契約に当たって、仲介業者から説明を受けて理解しているはずだ。」
この訴訟の訴え提起は、令和3年5月であり、審理が終わったのが今年の4月ですから、約4年の時間をかけて審理されたことになりますが、今月、やっと判決が出ました。
判決では、原告であるAさんの主張が認められ、C社及びDに請求どおりの損害賠償を命じるとともに、Dの提起した設計料の残金を請求する反訴については、請求を棄却するというものでした。
C社及びDの「5000万円で建築可能と説明したのは、一応の提案であり、この段階では、構造計算をしておらず、また、その義務もない。構造計算は、基本設計ができた後に行うもので、構造計算の結果、追加の基礎工事が必要となり、追加の費用が発生した場合には、買主の負担となる。」という主張について、参考プランが暫定的なプランであっても、住宅の安全性確保は基本的かつ必要不可欠な事項であるから、参考プランの設計に当たっても、当然そのために必要な工事は考慮に入れて費用を計上すべきであるとし、また、土地の形状からみて、構造計算を行わなくとも、被告らにおいて、追加工事の必要性について検討、調査することは可能であったと判断しました。
また、C社及びDの「このこと(構造計算の結果、追加の基礎工事が必要となり、追加の費用が発生した場合には、買主の負担となること)は、重要事項説明書にも明記してあり、Aは、土地の売買契約に当たって、仲介業者から説明を受けて理解しているはずだ。」という主張については、契約書上、法令の文言を指摘した具体的な説明はなく、また、通常、土地の形状を考慮して住宅の安全性を確保したプランが提案されると考えるのが自然であることから、Aさんが住宅の安全性のために多大な追加費用が必要となると認識し、あるいは認識し得たとは認められないと判断しました。
C社及びDは、当然控訴してくるでしょうから、まだ終わりではありません。控訴審の結末については、後日お伝えいたします。
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大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。







