

相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
相続登記を省略したばっかりに、大損したお話
「一文惜しみの百知らず」ということわざをご存知でしょうか。目先のことに心を奪われて、後で大損することに気付かないというたとえです。
【A子さん】税理士さん、母が昨年令和7年に亡くなりました。令和8年になってから、相続した実家を売却したのです。是非、3000万円の特別控除が受けられる空き家特例について教えてください。
【税理士】いくつかの条件があります。国税庁HPにもチェックシートがありますから一緒に確認していきましょう。一つ目のチェック項目から。
| 1 あなた(売却した方)は、売却した家屋及びその敷地の両方を、令和5年1月2日以降に亡くなった方(被相続人)から、相続、遺贈又は死因贈与(以下「相続」といいます。)により取得しましたか。 |
「家屋のみ」又は「家屋の敷地のみ」を相続により取得した場合は、特例はうけられないのですが両方を相続されましたか?
【A子さん】もちろんです。もちろん、母は昨年亡くなりましたから令和5年1月2日以降で間違いはないです。
【税理士】次は、建物の登記の状況を確認したいので、登記事項証明書を出してください。拝見しますね。
この登記内容で間違いありませんか?
確かに相続登記ではありますが、20年も前に亡くなられたお父様からA子さんが相続されたという登記になっていますよ。
【A子さん】ええ、父が亡くなった時、相続税がかからなかったし、相続登記もしないでそのままにしてしまっていました。
今回、一度で私の名義にできるとの説明がありました。登記が1回で済むので、その方が経費も安くなるとのことでしたから司法書士の先生にそのように依頼しました。
【税理士】そうだったのですね。相続登記の費用は抑えられたかもしれませんね。
でも、この手続きでは、お母様から取得したことにはなっていません。これでは、お父様からの相続ですから、チェックシートの1つめの項目で、「特例の適用は受けることはできません。」という判定になってしまいます。本当に残念なのですが。
【A子さん】そんな…。税理士さん、なんとかならないのですか!! だって、父が亡くなった以降も20年間ずっと母がひとりで実家に住んでいたんですよ。
ほら、チェックシートにある昭和56年5月31日以前に建築された一戸建ての住宅だし。売却金額も1億円以下ですし。
【税理士】残念ですが、既に売却されて所有権も移っていますから、登記をやり直すことも難しいでしょう。「特例」は、あくまで特別な取り扱いですので要件を満たす必要があります。
特に、この空き家特例は、登記の内容が重視されるので手続きは慎重にしていただく必要があるのです。相続のお手続きの前に、ご相談いただけましたらお力になれましたが、特例の適用はできません。
今回のようなケースでは、相続登記の費用だけでなく、お父様から直接相続したとなれば、お母様の相続財産にはなりませんので、お母様の相続税申告に関しては有利かもしれません。ですから、ある意味では相続税とその後の譲渡所得税を天秤にかける必要もあります。
また、お母様が亡くなられても、20年前にお父様からお母様が相続したという登記は可能な場合が多いです。そして、この度お母様からA子さんが相続した形を取っていれば、そのほかの条件はクリアしているようですので、空き家特例の適用はできたと思われます。
そもそも、ご家族の皆さんにとって、気持ちの上では、お母様が相続したことになっていたことでしょう。その通りに、お母様の名義とする登記をしていればと悔やまれるばかりです。(ただ、そのころには空き家特例もありませんでしたが。)
コスパやタイパが新しい価値のように言われるこの頃ですが、税法は変わりやすい法律でもあります。事前の調査や税理士など専門家にご相談するなど、少し時間や費用をかけて、広角的な視点をもつことは大切ではないでしょうか。
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