

相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
知らなかったは、通用しない?
小規模宅地等の特例による評価と時価について
ここのところ、どんよりした曇りの日が多く、じめじめした梅雨らしい日が続いています。
本来、こんなじめじめした気候は、嫌なものですが、昨年の6月を思い出すと、そうは言っていられません。
昨年の6月は、まだ真夏でもないのに暑い日が続き、とても大変だったのを覚えています。調べてみると、私の住む練馬区の昨年の6月の気温は、30日中16日で30度を超えており、そのうち5日で、35度を超えていました。
昨年の6月と比較すると、「梅雨らしいじめじめした気候でよかった。」と言えるのかもしれません。
さて、今回は、遺産分割における不動産の評価のお話です。
先日、こんな相談がありました。
Aさんのお父様が亡くなり、相続が開始しました。遺産は、都内にあるお父様の自宅土地及び建物と金融資産であり、相続人は、AさんとAさんのお兄さんのBの2人でした。
Aさんのお兄さんが、税理士に相談したところ、その税理士が、相続税申告書の原案を作ってくれました。
Aさんは、お兄さんからこの相続税申告書の原案をもらい内容を確認しましたが、この相続税申告書の原案では、自宅土地及び建物の評価額が約3000万円、金融資産の評価額が約3000万円であり、自宅土地及び建物と金融資産は、ほぼ同じ評価額でした。
そこで、Aさんとお兄さんは、Aさんが金融資産を取得し、お兄さんが自宅土地及び建物を取得するという遺産分割協議書を作成し、お父さんの遺産の分け方を決めました。
また、この内容に合わせて、税務署に相続税申告書も提出しました。
ところが、その後、Aさんが調べたところによると、自宅土地及び建物の評価額が約3000万円というのは、税法上の小規模宅地等の特例を適用した上での金額であり、実際の時価は、6000万円近いことが分かりました。
このため、Aさんが、お兄さんに対して、遺産分割協議のやり直しを求めましたが、お兄さんは、「一度決まったことだから」ということで、やり直しに応じてくれませんでした。
そこで、Aさんは、なんとか遺産分割協議をやり直せないかと思い、私の事務所に相談に来たのです。
税法上の小規模宅地等の特例を知らなかったので、税理士が作る相続税申告書に記載されている不動産の評価額が時価であると思い込み、この評価額に基づいて遺産分割をしてしまったという相談は、何度か受けたことがあります。
しかし、「税法上の小規模宅地の特例を知らなかったので、税理士が作る相続税申告書に記載されている不動産の評価額が時価であると思い込んだ。」という理由で、一度成立した遺産分割協議を無効にするのは、なかなか困難です。
このような場合、錯誤により遺産分割協議を成立させた意思表示を取り消したから遺産分割協議は無効であるという主張します。
錯誤とは、簡単に言うと、意思表示の内容や動機に勘違い(意思表示をした人の認識と客観的な事実とが一致しないこと)があり、この勘違いが、契約等の重要な部分に関するものであるときは、意思表示を取り消すことができるという民法の制度です。この錯誤によって意思表示が取り消されれば、契約等は無効となります。
ただし、勘違いをしたことについて、意思表示をした者に重大な過失があるときは、取消はできません。
しかし、そもそも、税理士に相続税申告書を作ってもらった場合、当然のことながら、その申告書には、自宅土地及び建物に特例を適用して相続税評価額を計算したことが記載されており、その計算の内容も明記されています。税理士は、その申告書を依頼者である相続人に見せて説明をした上で申告書を税務署に提出します。
また、小規模宅地等の特例の適用を受けると、時価とはかなり異なる金額となりますので、そのことに気付かないというのも不自然です。
こうした事情から、「税法上の小規模宅地の特例を知らなかった」という主張は、なかなか認められません。
Aさんとしては、「提出前に申告書をよく読んでいなかった。」とか「素人なので、申告書を見てもよく分からなかった。」と言いますが、これだけでは、主張としては不十分であり、なかなか認められないでしょう。
もっとも、お兄さんが、相続税申告書の小規模宅地等の特例が記載されている部分をAさんに渡さなかったというような事情があれば、結論は変わってくるかもしれません。
因みに、小規模宅地の特例を知らなかったことを理由として遺産分割協議を無効とした裁判例について、AIに聞いてみましたが、2件の裁判例が出てきました。
そのうちの1件は、的外れの裁判例でしたが、残りの1件は、遺産分割の重要な部分に関して錯誤があったことは認められたものの、意思表示をした者に重過失があるとされて、無効の主張は認めらなかった裁判例でした。
いずれにせよ、税理士の作る相続税申告書における不動産の評価額は、あくまで相続税法上の評価額であって、時価ではないことに注意して、遺産分割をするときは、不動産業者等に不動産の査定をさせて、時価を把握することが重要です。
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