

不動産を中心とした資産活用及び相続対策について、税理士のアドバイスです。
よくある質問
令和5年に税制改正があって、相続開始前3年内の贈与加算が7年に延長されたと聞いています。
今までだったら、相続開始日から3年遡って見直したらよかったのですが、今年(令和7年)中に亡くなった場合は、正確な日付としていつ迄遡って贈与の有無を調べたら良いのでしょうか。
設問:遡及期間について正しい答えはどれでしょうか
1. 令和5年に税制改正があり令和6年1月1日が施行日なので、令和6年の相続開始までは、相続開始日から遡って3年、令和7年からは遡及期間が7年になっている。
2. 確か激変緩和措置が施されたはずだから、次のとおり、毎年1年ずつ延長され、完全に7年遡及するのは、令和10年相続開始の分からだ。
相続開始 遡及期間
① 令和6年以前 3年
② 令和7年 4年
③ 令和8年 5年
④ 令和9年 6年
⑤ 令和10年 7年
3. いえいえ、税法改正と激変緩和措置を甘くみてはいけません。
もっと複雑で、次のとおりなのです。
① 令和8年12月31日までに相続が開始した場合の遡及期間は相続開始日から3年
② 令和9年1月1日から令和12年12月31日までに相続が開始した場合の遡及期間は相続開始日から令和6年1月1日まで
③ 令和13年1月1日以降に相続が開始した場合の遡及期間は相続開始日から7年
答え
正しい答えは、3です。よくある質問の答えとしては、「令和7年中の相続なら遡及期間は従前どおり亡くなられた日から遡って3年以内の贈与」ということです(因みに遡及日は相続開始日の応当日です。)。
令和5年の税制改正で相続開始前3年内の贈与加算の期間が3年から7年に延長されました(令和6年1月1日施行)。
「今年亡くなった場合は、何年前までの贈与が加算されるのか?」という質問をよく受けます。
単純に以前は3年だったけど、いまは7年になったと思い込んでいる方が少なくありません。
上の正解は3ですから、実務的に注意しなくてはならないのは、令和9年以降だということです。それも、令和9年から突然、遡及期間が7年になるのではないのです。
皆さんが混乱なさる原因の一つに国税庁のHPやパンフレットに現れる次の表のわかりにくさにあるようです。
| 贈与の時期 | 加算対象期間 | |
| ~令和5年12月31日 | 相続開始前3年 | |
| 令和6年1月1日~ | 贈与者の相続開始日 | |
| 令和6年1月1日~令和8年12月31日 | 相続開始前3年 | |
| 令和9年1月1日~令和12年12月31日 | 令和6年1月1日~相続開始日 | |
| 令和13年1月1日~ | 相続開始前7年間 | |
(注)なお、加算される贈与財産ですが、今回の改正により延長された期間(相続開始前3年超7年以内)に贈与を受けた財産の価額については、相続税の申告の際に確認すべき生前贈与の記録・管理に要する事務負担を軽減する観点から、総額100万円までは(注:110万円ではありません。)、相続税の課税価格に加算されないこととされました。
この図のわかりにくさの原因は、相続税法の規定のせいなのです。相続税法19条の規定では、相続開始前7年以内の贈与について、相続開始前3年以内の財産以外については100万円を控除した残額を加算すると規定しているのに、改正法附則19条1項では、前述の改正は、令和6年1月1日以降に贈与により取得する財産について適用し、同日前に贈与により取得した財産に係る相続税については、従前どおりとしているのです。
加えて、法令の規定とは別に、令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間に相続又は遺贈により財産を取得する者については、相続開始前3年以内の贈与が加算対象となるとしているのです。
税法が「一読難解、二読誤解、三、四がなくて五読誤解」と言われるゆえんです。
以下、直接条文をお読みになりたいという方向けの参考法令です。
相続税法
(相続開始前七年以内に贈与があつた場合の相続税額)
第十九条 相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前七年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産(第二十一条の二第一項から第三項まで、第二十一条の三及び第二十一条の四の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの(特定贈与財産を除く。)に限る。以下この条及び第五十一条第二項において同じ。)(以下この項において「加算対象贈与財産」という。)の価額(加算対象贈与財産のうち当該相続の開始前三年以内に取得した財産以外の財産にあつては、当該財産の価額の合計額から百万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし、第十五条から前条までの規定を適用して算出した金額(加算対象贈与財産の取得につき課せられた贈与税があるときは、当該金額から当該財産に係る贈与税の税額(第二十一条の八の規定による控除前の税額とし、延滞税、利子税、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税に相当する税額を除く。)として政令の定めるところにより計算した金額を控除した金額)をもつて、その納付すべき相続税額とする。
2 前項に規定する特定贈与財産とは、第二十一条の六第一項に規定する婚姻期間が二十年以上である配偶者に該当する被相続人からの贈与により当該被相続人の配偶者が取得した同項に規定する居住用不動産又は金銭で次の各号に掲げる場合に該当するもののうち、当該各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める部分をいう。
一 当該贈与が当該相続の開始の年の前年以前にされた場合で、当該被相続人の配偶者が当該贈与による取得の日の属する年分の贈与税につき第二十一条の六第一項の規定の適用を受けているとき同項の規定により控除された金額に相当する部分
二 当該贈与が当該相続の開始の年においてされた場合で、当該被相続人の配偶者が当該被相続人からの贈与について既に第二十一条の六第一項の規定の適用を受けた者でないとき(政令で定める場合に限る。)同項の規定の適用があるものとした場合に、同項の規定により控除されることとなる金額に相当する部分
相続税法 附則(令和五年三月三一日法律第三号) 抄
(相続税法の一部改正に伴う経過措置)
第十九条 第四条の規定による改正後の相続税法(以下「新相続税法」という。)第十九条第一項、第二十一条の十五第一項及び第二項並びに第二十一条の十六第二項及び第三項の規定は、令和六年一月一日以後に贈与(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を除く。以下同じ。)により取得する財産に係る相続税について適用し、同日前に贈与により取得した財産に係る相続税については、なお従前の例による。
2 令和六年一月一日から令和八年十二月三十一日までの間に相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与及び当該相続に係る被相続人からの贈与により取得した財産で相続税法第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるものに係る贈与を含む。以下この条において同じ。)により財産を取得する者については、前項の規定にかかわらず、新相続税法第十九条第一項の規定を適用する。この場合において、同項中「七年」とあるのは、「三年」とする。
3 令和九年一月一日から令和十二年十二月三十一日までの間に相続又は遺贈により財産を取得する者に係る新相続税法第十九条第一項の規定の適用については、同項中「当該相続の開始前七年以内」とあるのは、「令和六年一月一日から当該相続の開始の日までの間」とする。
4 新相続税法第二十一条の十一の二の規定は、令和六年一月一日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用する。
5 新相続税法第二十一条の十二第一項及び第二十一条の十三の規定は、令和六年一月一日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用し、同日前に贈与により取得した財産に係る贈与税については、なお従前の例による。
6 新相続税法第二十八条第一項及び第二項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、令和六年一月一日以後に贈与により財産を取得する者が提出する贈与税の申告書について適用し、同日前に贈与により財産を取得した者が提出する贈与税の申告書については、なお従前の例による。
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田中 耕司Kouji Tanaka税理士
JTMI税理士法人日本税務総研 https://tax365management.com/
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税理士法人日本税務総研 代表 大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。






