住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法ガイドラインについて
不動産売買に際し、留意しなければならない事項として、今回は、令和8年7月に国土交通省が作成した「住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法ガイドライン」をとりあげます。同「ガイドライン」は、令和8年10月1日から施行されます。
01 「住宅のリースバック」とは
「住宅のリースバック」とは、
① 住宅の所有者がその所有する住宅を売却して売却代金を得て、
② 売却後は当該住宅の所有者となった者(以下「事業者」という)に毎月賃料を支払うことで、
③ それまで住んでいた住宅に引き続き住む
という契約形態をいいます。
以上の契約形態の説明からもおわかりのとおり、「住宅のリースバックに関する取引」は、(A)「居住用宅地建物の売買」と(B)「その賃貸借」が契約関係として不可分一体となっています。
02「住宅のリースバック」の主な特徴
「住宅のリースバックに関する取引」(以下「リースバック取引」という)の主な特徴としては、住宅の所有権が従前の所有者から事業者に移転することにより、
(ⅰ)従前の所有者は、固定資産税や大規模修繕費等の負担が不要となる場合がある一方、当該住宅に引き続き賃借人として居住することから毎月の賃料負担が生じること、
(ⅱ)従前の所有者は賃借人であるから、従前と異なり住宅の改変や設備設置等について制限を受けること、
(ⅲ)賃貸借契約の内容によっては、従前の所有者が希望する期間にわたり居住を継続できない可能性があること、
(ⅳ)契約条件次第では、当該住宅を買い戻せることもあるが、買い戻し条件や買戻し価格等に留意する必要があること等が挙げられます。
03「住宅のリースバック」の相談・苦情・紛争
近年、全国の消費生活センター等において、リースバック取引に関する相談が増加傾向にあり、取引内容の理解不足や、将来の居住可能性に関する認識の相違等に起因する苦情・紛争が指摘されています。
例えば、売主が契約を締結した後になって、賃料が高額で支払賃料の合計額が短期間で売却価格を超えることに気付いたり、売主が売買契約の解約を申し出たら高額な違約金を請求された事例等が報告されています。
04「住宅のリースバックに関するガイドブック」(令和4年)
国土交通省は、令和4年に「住宅のリースバックに関するガイドブック」を策定・公表しています。
この「ガイドブック」は、住宅リースバックの主な特徴、リースバックの利用例及び苦情・紛争の例並びにリースバックを利用する際のポイント等が整理されています。
この令和4年の「ガイドブック」のほか、さらに、消費者庁とも連携し、令和7年には消費者に向けた啓発資料の公表もあります(独立行政法人国民生活センター プレスリリース等)。
05 令和8年に策定された「住宅のリースバックに関するガイドライン」
(1) 令和4年の「ガイドブック」は存在したのですが、国土交通省は、令和8年7月に「住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(リースバックに関するガイドライン)」を策定しました。
(2) 令和8年7月の「リースバックに関するガイドライン」(以下「リースバックガイドライン」ともいう)策定の「背景」と「ねらい」は、次のとおりです。
①【現状】
「住宅のリースバック取引」は、近年、住み替え円滑化や老後の資金需要で注目される一方、賃料・契約期間・違約金等の相談が高水準で推移しています。
高齢者を狙った「押し買い」も発生しています。
②【課題】
「住宅のリースバック取引」は売買と賃貸借が不可分一体という複雑な契約形態であり、売主である一般消費者にとって取引内容の理解が不十分なまま契約に至ってしまうケースがあります。
③【対応】
以上の【現状】【課題】をふまえ、「住宅のリースバックに関するガイドライン」を策定することで、宅建業者から一般消費者への適切な情報の告知等によるリースバック取引の適正化を図るため、宅建業法の解釈を明確化しようというのが、今回の【対応】、すなわち、ガイドライン策定なのです。
(3) リースバックガイドラインの対象について
リースバックガイドラインは、リースバック取引に係るもの以外の宅地建物取引業を対象とするものではありません。
そして、このガイドラインの対象は、リースバック取引のうち、宅建業者の相手方等の居住の用に供されている宅地建物の「売買」とその「賃貸借」が契約関係として不可分一体となっており、かつ、当該売買の買主が宅建業者であるもの又は当該売買を宅建業者が媒介若しくは代理するものとされています。
なお、売買と賃貸借の各契約の締結の時期や、買主と貸主が同一でない場合等であっても、相手方等の居住の用に供されている宅地建物の売買後も相手方等が当該宅地建物を賃借し、引き続き居住の用に供することを目的とするものについては、本ガイドラインの対象となります。
(4) ガイドラインの施行により、不動産業者が守るべき宅地建物取引業法の解釈基準や違反時のペナルティは、たとえば、次のようになります。
① 業者が契約時に事実を告げない「事実の不告知」の禁止対象に、売買の内容に加え、売却後の賃貸借契約の内容も含まれるようになりました。
家賃の金額や支払方法、契約期間、契約更新の有無、修繕費用の負担区分など賃貸借の条件は、消費者が家を売るかどうかを決める重要な情報です。業者がこれらの情報を故意に隠した場合は、宅建業法47条違反となり、過失による説明漏れであっても宅建業法31条の信義誠実義務違反に問われる可能性があります。
② 業者が消費者の意に反して契約を迫る悪質な勧誘行為は、宅建業法47条の2によって禁止されています。
消費者が「売るつもりはない」と断った後に勧誘を続けたり、自宅に長時間居座って強引に契約を結ばせる行為は法違反となります。
また、消費者がじっくり考えるための十分な時間を与えずに即決を迫る行為も禁止されました。
相手方等に対し、利益を生じることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供することや、当該契約の目的物である宅地又は建物の将来の環境又は交通その他の利便について誤解させるべき断定的判断を提供することも、勧誘等をするに際し、禁止されています。
③ ガイドラインに違反し、宅建業法違反の業者に対しては、行政が厳正な対処を行います。
国や都道府県は違反が認められた業者に対し、業務改善指示、業務停止命令、免許取消しなどの監督処分を下します。さらに悪質な事実不告知や悪質な勧誘が行われた場合は、拘禁刑や罰金刑などの刑事罰が科される仕組みが整えられました。
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