外国人買主に対する重要事項説明
1 相談例
当社は国内の不動産売買に仲介業者として関わっておりますが、日本語が理解できない外国人のお客様から、外国語の重要事項説明書を用意してもらえないかと聞かれています。宅建業者として外国語で作成された重要事項説明書をお渡しすることは法律上の義務なのでしょうか(お客様が手配した通訳の方がおります)。
2 裁判例
宅地建物取引業者(仲介業者)が行う重要事項説明については、宅地建物取引業法に定めがありますが、同法には、日本語を理解できない外国人に対して外国語で重要事項説明を行うことを義務付けた規定はありません。
この点が問題となった裁判例として、本コラム2025年11月号(外国人に不動産を販売する際に注意すべきこと)で、東京地方裁判所令和3年3月11日判決の結論をご紹介いたしましたが、今回は、同判決と、東京地方裁判所平成30年11月27日判決の事案と内容についてご紹介いたします。
なお、裁判例は本コラムに関連する部分についてご紹介するものであり、また、読みやすいように適宜改行等を行っております。
(1)東京地方裁判所平成30年11月27日判決
【事案の概要】
・原告(買主)は日本に永住権を有しておらず、日本語を理解できなかった。
・原告は、融資を申し込んだ銀行から紹介された通訳(宅地建物取引士の免許あり)を通じて、被告会社ら(売主)から新築マンション3戸を購入する売買契約を締結し、手付金を支払ったが、融資の審査が通らなかった。
・売買契約書等では外国人については提携住宅ローンを利用することができず、融資を受けられない場合には手付金の返還が受けられない定めとなっていたところ、原告は売買契約等の約定または契約全体が無効であると主張し、被告会社らに対し、手付金の返還を請求した。
・また、原告は、被告株式会社(仲介業者)に対し、外国語(中国語)の重要事項説明書を交付する義務があったのにこれを交付しなかったのは説明義務違反であるなどと主張して、損害賠償を請求した。
以上の事案において、裁判所は、
・原告は、被告会社(仲介業者)には、宅地建物取引業法35条の趣旨に照らし、原告が重要な判断材料を理解するために、中国語の重要事項説明書を交付すべき義務があったとも主張するが、原告独自の主張であって採用できない。
と述べて、外国語の重要事項説明書を交付する義務があるとの原告の主張を認めず、結論として説明義務違反を否定しました。
(2)東京地裁令和3年3月11日判決
【事案の概要】
・原告ら(買主、法人(不動産業)とその代表者)は、代表者の家族と原告通訳とともに被告会社(売主、法人(不動産業))が分譲した居住用高層マンションのモデルルームを訪れた。
・買主代表者及び家族は日本語を話すことができなかった。
・被告会社では、外国語を話すことができない者(被告担当者)が対応した。
・買主法人らがマンションの各1室を、買主法人・代表者が共同して別の1室を購入し、それぞれ手付金を支払った。
・いずれの売買契約も、原告通訳が同席し、被告担当者による重要事項説明は通訳を介して行われた。
・引渡日に残代金の支払がなかったことから、被告会社は原告らに対し契約解除の意思表示を行い、手付金を違約金として没収する旨通知した。
・原告らは、被告会社が、日本語を理解しない原告に対し、外国語(英文)の書式の売買契約書や重要事項説明書を用意せず、通訳も原告通訳に一任していたのは、情報提供義務違反であると主張して、手付金相当額の損害賠償等を請求した。
以上の事案において、裁判所は、
・買主が外国人である場合に、日本語を理解できず自ら通訳を同行して重要事項説明を受ける事態も生じ得るところ、宅地建物取引業者においては、当該通訳の資質や翻訳内容の正確性、さらには通訳内容が買主に理解できる説明がされているか否かを判断することは困難であるといわざるを得ない。
そうすると、重要事項説明を受ける買主においては、その手段の選択やその選択結果としての通訳の正確性等に関して、その危険については自ら引き受けるべきものと解するのが相当である。
・その上で、宅地建物取引業法においては、日本語を理解しない外国人に対して重要事項説明を外国語で行うべきことまでは規定されておらず、これが法的義務であると解することもできない。
・以上によれば、通訳を通じて重要事項説明を行った以上、重要事項説明内容や程度を充足しているものと認められ、情報提供として欠けるところはない。
と述べて、重要事項説明を外国語で行うことが法的義務であるとの主張を否定し、結論として、情報提供義務違反を否定しました。
以上の裁判例によれば、相談例のような場合に、仲介業者に外国語の重要事項説明書を用意する法的義務があるとまではいえないことになると考えられます。
もっとも、いずれの裁判例も、買主側で用意した通訳がいた事案であり、事案が異なれば結論が異なりうることに注意が必要です。
なお、国土交通省が、外国人との不動産取引に関して、ウェブサイト上で、マニュアル(『不動産事業者のための国際対応実務マニュアル~宅地・建物取引におけるトラブル防止に向けて~』)を公開しています。
同サイトでは、重要事項説明における留意点(対面での説明を要すること、外国の不動産法制度との違いを意識した説明をすることがトラブル防止に重要であること)、売買契約の締結における留意点(合意裁判管轄は日本の裁判所とすることが望ましいこと、重要事項説明書等の書類は日本語を正本とすること等)、通訳を介した契約の際の注意点などについて、それぞれ情報提供されています。
3 まとめ
外国人のお客様との取引は、言語や法制度の違いから、日本人のお客様との取引以上にトラブルが生じやすいところです。ご紹介した裁判例や国土交通省のサイト等を参照され、また専門家に相談されるなどして、トラブル防止策を講じた上で慎重に進めることをお勧めします。
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