外国人に不動産を販売する際に注意すべきこと
インバウンド需要の増加や円安の影響もあり、外国人による日本国内での不動産購入が加速しています。現行法上、日本では外国人による不動産購入に大きな制限や規制はありません。日本人と同様に、外国人も日本国内の土地・建物を購入できます。外国人が不動産を購入するにあたり、トラブルを避け、円滑な取引を行うことができるよう国土交通省は、日本の不動産取引に関連する法律や不動産登記制度等についての英語での説明や日本の不動産市場を英語で紹介するパンフレット、不動産事業者向けの対応マニュアルを公表しています。
今回は、外国人が不動産を購入する際に販売業者や仲介業者として注意すべき点について取り上げます。
1 販売業者や仲介業者が取引時に確認すべきこと
不動産の販売業者や仲介業者(宅地建物取引業者)は、宅地・建物の売買契約の締結又はその代理若しくは媒介を行う場合、契約締結に先立って購入者の「本人特定事項」等の確認をする必要があります。
これは、マネー・ロンダリングやテロへの資金供与を防止・摘発するための「犯罪による収益の移転防止に関する法律」に基づき義務付けられているものです。購入者が個人のときは、本人特定事項(氏名・住所・生年月日)、取引目的及び職業を、購入者が法人のときは、本人特定事項(名称・本店等所在地)、取引目的、事業内容及び実質的支配者を確認する必要があります。外国人個人の場合、具体的には、パスポート、乗員手帳、外国政府や国際機関の発行書類を確認することとなります。日本に住居を有する外国人については、その他、在留カード、特別永住者証明書、個人番号カード、住民基本台帳カード等でも確認することができます。外国法人の場合には、外国政府や国際機関が発行した書類等を確認することとなります。
2 媒介契約締結、重要事項説明、売買契約締結の際の注意点
宅地建物取引業者が、外国人を購入者として国内に所在する宅地や建物の売買契約の締結又はその代理若しくは媒介を行う場合、宅地建物取引業法(宅建業法)が適用されます。したがって、媒介契約成立後の書面の交付、売買契約締結前における購入者への重要事項説明及び重要事項説明書の交付、売買契約成立後の書面の交付など、宅建業法上のルールに従って取引を行うことが必要です。
外国人と媒介契約を締結する場合、「一般媒介契約」、「専任媒介契約」、「専属専任媒介契約」の相違、報酬額の計算方法、契約の期間など、契約の内容を分かりやすく説明することが必要です。また、海外においては、いわゆる両手媒介・片手媒介について、日本と異なる商慣習を持つ国もありますので、その違いを説明して、予め理解を得ておくことがトラブル防止の観点から重要です。
重要事項説明は、従来、相対で説明しなければならないとされていましたが、現在では、テレビ会議等のITを活用した重要事項説明も認められるようになりました。さらには、従来、書面での交付が要求されていた、媒介契約、重要事項説明書及び売買契約書についても、法令等の改正により、電子的方法による提供も認められるようになり、購入者が、外国にいる状態で不動産の売買契約を進めることも可能となっています。
媒介契約書、重要事項説明書及び売買契約書については、宅建業法に基づき交付が義務付けられています。日本には公用語を定める法律はなく、宅建業法上も日本語での作成が明記されているわけではありませんが、日本の法律で義務付けられている書面であり、裁判では法律により日本語を用いるとされていますので、これらの書面も日本語で作成されるべきと考えられています。
なお、購入者が外国人の場合であっても、外国語で重要事項説明を行う義務はないとした裁判例があります(東京地方裁判所令和3年3月11日判決)。
3 売買代金の支払い、物件の引渡しに関する注意点
売買代金の支払いについて、外国人購入者が国内の銀行に口座を有していない場合は、海外送金に拠ることになります。具体的には、国内の売主の口座がある銀行に対して「被仕向送金」(海外からの送金を受け取ること)を依頼し、購入者から国外の銀行に送金依頼をしてもらうという手続を取ることになります。
海外の口座と売買代金のやりとりをする際には、振込みに要する時間(期間)を確認しておくことが必要です。送金依頼から着金までに2営業日から3営業日かかることも一般的であり、契約上の決済日に着金が遅れないよう注意しなければなりません。
物件の引渡しと決済の安全性を担保するために「エスクロー」というサービスを利用することも考えられます。エスクローとは、物品などの売買に際し、信頼の置ける「中立的な第三者」が契約当事者の間に入り、売買代金、登記費用、仲介手数料などを信託させて保全し、売買条件が成就した段階で代金決済をするように取り計らうサービスです。日本では、エスクローについての法整備はされていませんが、一部金融機関で行っていますので、エスクローを利用することも可能です。
4 外国為替及び外国貿易法(外為法)による事後届出
日本国内に住居を有しない非居住者が日本国内の不動産を取得した場合には、外為法に基づき、「権利の取得に関する報告書」を取得後20日以内に、日本銀行を経由して財務大臣に提出する必要があります。ただし、この報告書は、いわゆる投資目的で取得した場合に提出が求められるものであり、次のいずれかの場合には、提出は不要です。
① 居住用目的での取得(別荘やセカンドハウスは、「居住用目的」には該当しません。)
② 国内で非営利目的の業務を行う非居住者が、当該業務遂行のために取得する場合
③ 非居住者本人の事務所用として取得する場合
④ 他の非居住者から取得する場合
5 登記に関する手続
不動産を購入した者が所有権移転登記手続をするためには、住民票や印鑑証明書が必要となりますが、外国人の場合には、それらに代わる書類が必要となります。
(1) 購入者が国内居住の外国人の場合
ア 住民票について
中期在留者や特別永住者など、日本に在留できる一定の資格を有する外国人であれば、その居住地を届け出た市区町村の窓口に申請することにより、外国人用の住民票を取得することが可能です。
イ 印鑑証明書について
国内居住の外国人であれば、その住居を届け出た市区町村に印鑑を登録することにより印鑑証明書を取得することができます。
(2) 購入者が非居住者の場合
ア 住民票の代わりに
あらかじめ購入者から本国の住所を聞いておき、これを宣誓供述書の形式にして、それにその国の所属公証人の認証を得て、所有権移転登記の際の住所証明書の代わりとすることができます。当該外国の在日大使館領事部で認証された宣誓供述書でも住所を証する書面とすることができます。国や地域によっては、日本と同様の住民登録の制度を有している場合や、戸籍が住所を証する書面を兼ねている場合もあります。こうした場合は各国の公的な住民登録証明書等を利用することもできます。
イ 印鑑証明書の代わりに
台湾、韓国には日本と同様の印鑑証明制度がありますので、その公的な印鑑証明書を利用することができます。それ以外の国及び地域の出身者については、購入者が来日していれば、当該外国の在日大使館でサイン証明書を発行してもらい、これを印鑑証明書に代えることができます。購入者が来日しなかった場合は、司法書士が宣誓供述書を作成し、それを当該外国人の住所宛に郵送し、現地の公証人の面前で署名を認証してもらい、それを日本に返送してもらうことにより、登記申請の添付書類として用いることができます。
6 税務上の注意点
日本国内に所在する不動産を取得するにあたっては、購入者が外国人であるか否かにかかわらず、印紙税、登録免許税、不動産取得税の納付が必要です。
非居住者又は外国法人が不動産を購入した場合、不動産の保有や売却にかかる税金の申告や納税の手続を代わりに行う納税管理人を選任する必要があります。納税管理人は、確定申告書の提出や税金の納付等、購入者の納税義務を果たすために選任されるものであり、納税管理人を定めたときは、不動産の所在地を管轄する税務署長に「納税管理人届出書」を提出することになります。この届出書の提出以降、税務署は発送する書類は納税管理人に送付されるようになり、購入者は納税管理人を通じて税金を納付することになります。
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