

不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
埋設地役権に関するトラブル
【Q】
私は住宅を建築するために本件土地を売主Aから購入しました。建築に向け準備を進めていたところ、本件土地を含む周辺の土地の地下には、50年以上前から、近隣のB工場が使用する工場用水を河川から引水するための送水管が埋設されていることが分かりました。
B工場は、本件土地の従前の所有者との間で、送水管埋設の地役権設定契約を結んでいると主張していますが、本件土地に地役権の登記は設定されていません。
また、本件土地売買契約の重要事項説明において、土地の地下に送水管が埋設されていることの説明はありませんでした。
本件土地の地下に送水管が埋設されていることで、本件土地上の建築行為への制限や転売の際の影響が懸念されます。
本件土地に埋設地役権の登記がない場合にも、B工場の主張する地役権は認められるのでしょうか。
【回答】
B工場が本件土地に埋地役権を有することをあなたに対抗するためには、原則、本件土地に埋設地役権の設定登記を備える必要があります。
もっとも、あなたが承役地を取得した時点で、本件土地に送水管が埋設され、B工場によって継続的に使用されていることが客観的に明らかであったと認められ、かつ、あなたがそのことを認識し又は認識することが可能であったとの事情がある場合には、あなたは登記の欠缺を主張することはできず、B工場の主張する地役権が認められる可能性があります。
1 埋設地役権
(1)地役権の設定
自己の土地(要役地)の便益に供するために、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地(承役地)を利用する権利を地役権といいます。袋地から道路へ出るために隣地の一部を通行する通行地役権や給排水管やガス管等のライフラインを地下に埋設する埋設地役権等が利用されています。
地役権は、要役地及び承役地の各所有者間において、利用目的・存続期間・対価の有無等について合意することにより成立しますが、明確な地益権設定契約がない場合でも、土地分譲に伴い通路が開設された等の事情がある場合に、通行地役権設定の黙示の合意による成立が認められています。
(2)地役権の対抗要件
地役権は物権であり、原則、地益権の設定登記をしなければ、承役地の譲受人等の「第三者」に対して地役権を対抗することができません(民法177条)。ここで「第三者」とは、登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する者をいい、第三者に登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事由がある場合には、その第三者は登記の欠缺を主張することができません。
この登記の欠缺について、最高裁(平成10年2月13日判決)は、地役権が黙示的合意に基づき成立し、地役権の登記をしないまま長年の間利用されているケースが少なくないこと、通行地役権による利用の場合に通行利用の事実が客観的に明らであり、承役地譲受人の受ける不利益は小さいこと、通行地役権者の利益を保護する必要性が高いこと等の事情から、「譲渡の時に、承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として利用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から明らかであり、かつ、承役地譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、承役地譲受人は、通行地役権が設定していることを知らなかったとしても、特段の事情のない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者にあたらない」とし、承役地譲受人は登記の欠缺を主張することができず、通行地役権を承役地譲受人に対抗できるとの判断をしています。
(3)埋設地役権に関する裁判例
本件設例では、B工場は、工場用地(要役地)に工場用水を引水するための送水管を本件土地(承役地)の地下に埋設・利用するための埋設地役権の存在を主張しています。
しかし、本件土地に埋設地役権の設定登記がされていないため、本件土地の譲受人(あなた)に対して、埋設地役権を対抗できるのかが問題となります。
本件設例と同様の事案(大分地方裁判所・令和5年3月17日判決)において、工場側(被告)は、埋設地役権は地下に埋設されており通行地役権よりも利用状況が外見上明らかでないため、登記の欠缺を主張することができない者の範囲を前記平成10年の最高裁の判断よりも緩和して解釈すべきと主張しました。
しかし、同裁判所は、「地益権設定登記の欠缺を主張することが信義則に反する事由があると認められるのは、譲受人が承役地を取得した時点で、承役地が要役地の所有者によって継続的に使用されていることが客観的に明らかな場合に限られると解するのが相当であるとして、同事情のもとでは、本件土地の地下に送水管が埋設されていることが客観的に明らかであったと認めることはできないとして、工場側(被告)の主張を退け、被告は一部の原告に対しては埋設地役権を対抗できない」と判断しました。
なお、同事案では、原告は被告に対して、①埋設地役権の対抗の可否の問題の他、②送水管の撤去請求と③地下利用に伴う損害賠償請求を行いましたが、同裁判所は、②送水管の撤去請求について、原告らの被る不利益は一定の程度に留まる一方で、送水管を撤去することにより被告は被る損害が甚大であるとして、送水管の撤去請求は権利の濫用にあたるものとして、原告の請求を棄却しました。また、③損害賠償請求については、一定の損害賠償を認めています。
2 まとめ
本件設例は、送水管の埋設地益権に関する近年の裁判例を参考にした事例です。送水管に限らず、給排水管やガス管等のライフラインが地下に埋設されているケースでは、利用状況が一見明らかではないため、設定登記がされていない場合にはトラブルに発展する可能性があります。売買契約に際しては、登記がない場合においても地役権等に関する利用実態の調査を行い、重要事項説明を行う必要があります。
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