

不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
通行権付きの土地の売買
【Q】
私の住居(土地付き建物)は、隣接地に囲まれた袋地であるため、これまで公道に出る際には、囲繞地通行権に基づき、隣地所有者Bの土地の一部を徒歩で通行利用してきました。この度、私はこの住居を買主Aに売却する予定です。
しかし、今回の売買契約を行うに際し、買主Aが車を所有しているため、私(売主)の責任において、隣地所有者Bから、この隣地の一部を車両通行できるように承諾を取得することを求められています。
そもそも、囲繞地通行権には車両で通行する権利もあるのでしょうか。
また、この売買契約において、私(売主)が車両通行の承諾を得る責任を負担する場合、どのような点に注意をする必要があるでしょうか。
【回答】
囲繞地通行権は、隣接地に囲まれた袋地状態の土地に対し、法律上の要件を満たす場合に当然に認められる法定上の権利ですが、通行権の内容・方法については制約があり袋地(本件土地)の周辺事情や通行利用の実態によって車両の通行まで当然に認められるとは限りません。
もし、囲繞地通行権に基づく車両の通行が認められない場合には、あなたは、隣地所有者Bとの間で車両の通行を内容とする通行地役権の設定契約をする方法が考えられます。
しかし、こうした通行地役権の設定をするか否かは隣地所有者Bの自由意思に委ねられ、隣地所有者Bの承諾が得られないことも想定されます。
そうした場合のあなたの責任を回避するためには、隣地所有者Bから車両の通行権を取得したことを売買契約成立の条件とする等の対応が必要となります。
1 囲繞地通行権
隣接する周囲の土地(囲繞地)に囲まれて公道に通じていない状態の土地を袋地と言いますが、袋地の所有者には、袋地から公道に出るために周りの囲繞地を通行できる囲繞地通行権が認められます(民法210条1項、213条)。
但し、囲繞地通行権によって認められる通行は、通行権者にとって必要であり、かつ、囲繞地のために「損害が最も少ない」方法による通行であり、また、通行権者は、通行による損害に対し、償金を支払わなければならないとされています(民法212条)。
なお、分割により袋地となった場合には、分割残地を通行し償金の支払いは不要です(213条1項)。
あなたの本件土地は袋地であり、囲繞地通行権に基づき、隣地所有者Bの土地の一部を徒歩で通行することが認められていたものと考えられます。
しかし、今回、徒歩による通行を超えて、車両による通行についても囲繞地通行権として認められるのかについては、自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、囲繞地の所有者が被る不利益等を総合考慮して判断する必要があります(最判平成18.3.16)。
袋地の利用状況や周辺環境、利用する通路の幅員、自動車による通行の必要性に鑑み、隣地所有者の不利益が大きくないと認められる場合には囲繞地通行権に基づく車両の通行が認められる可能性はあると考えられますが、車両による囲繞地通行権が争われた裁判では、車両通行の必要性や周辺の地理的状況、周辺地域の車の利用状況、従前の通路の利用形態等の具体的事案により判断は分かれています。
本件土地(袋地)については、従前の通行利用が徒歩である実態を考慮すると、囲繞地通行権に基づく車両の通行が認められない可能性があり、改めて車両の通行を内容とする通行地役権の承諾を隣地所有者Bから得る必要があります。
2 通行地役権
通行地役権とは、自己の土地(要役地)の便宜に供するために、設定行為の定めに従い、他人の土地(承役地)を通行する権利をいいます。
通行地役権は、通常、承役地所有者と要役地所有者との設定契約により、通行の内容、通行地役権の期間、通行の対価等を定めて設定されます。明確に通行地役権設定契約が交わされていない場合においても、長期間に渡り通行を認めている実態がある場合には黙示による通行地役権や通行地役権の時効取得が認められるケースもあります。
本件ケースでは、新たに隣地所有者Bとの間で、車両の通行を内容とする通行地役権設定契約を結ぶことが必要になります。
3 通行権取得を条件とする必要性
売買契約において、隣地所有者Bから車両の通行を内容とする通行権の取得を売主の義務と明記した場合、隣地所有者Bから承諾を得られなかったことは、売買契約上の債務不履行に該当します。
本件売買契約において、車両の通行を内容とする通行地役権を取得することが契約の重要な要素となっており、この不履行により売買契約の目的が達成できないと認められる場合には、通行権取得義務の不履行を理由として売買契約の解除や違約金の請求が認められる可能性も考えられます。
したがって、本件売買契約において、売主の通行地役権の取得義務を明記する場合には、隣地所有者Bの承諾が得られないことも想定し、通行地役権の取得を条件(停止条件又は解除条件)として売買契約を成立させる必要があります。
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