

不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
都市計画道路予定地の規制に関する説明義務
【Q】
私(宅建業者)は、本件土地と土地上にある本件建物をB(宅建業者)に売却しました。本件土地は一部に都市計画道路予定区域(以下「同予定区域」)が含まれているため、計画決定段階における同予定区域内での建築行為には、都道府県知事の許可が必要となり、許可取扱基準(下記①から④の要件)を満たす必要があります。そのため、買主Bに建物再築の予定があるか事前に確認したところ、「建物を再築する予定はなく、本件建物をそのまま利用する」との意向を示していました。
本件土地のうち同予定区域外の部分は五坪程度の三角形状であり、同区域外の部分に独立した建物を建築することは不可能であり、許可取扱基準④(建築物が同区域の内外にわたり存する場合は、将来的に同区域内に存する部分を分離できるよう配慮して設計する)の適用の受けることは事実上想定されません。
以上の経過から、私は、本件売買の重要事項説明において「本件土地の一部に都市計画道路予定区域に含まれ土地収用の対象となること、都市計画決定段階における同予定区域での建築行為には都道府県知事の許可を得る必要があること、許可取扱基準のうち下記①から③を満たす必要があること、事業認可を受けた場合には同予定区域の建物を収去する必要があること等」を説明しましたが、取扱基準④の説明はしませんでした。
しかし、売買契約締結後、買主Bから、取扱基準④の説明をしなかった説明義務違反を理由として、本件売買契約を解除するとの通知がきました。私は、買主Bからの解除要請に応じる必要があるでしょうか。
〔許可取扱基準〕
①市街地開発事業等の支障にならないこと
②階数が3、高さが10メートル以下であり、かつ地階を有しないこと
③主要構造部が木造・鉄骨造・コンクリートブロック造・その他これらに類する構造であること
④建築物が都市計画道路区域の内外にわたり存することになる場合は、将来において、都市計画道路区域内に存する部分を分離することができるよう、設計上の配慮をすること
【回答】
本件売買対象地に同予定区域が含まれる場合、売買契約では、売買対象地に都市計画道路の同予定区域が含まれていること、これに伴い、将来的に土地収用が行われる可能性のあること、同区域内での建築行為や売却に規制が課されること、都市計画決定段階における建築行為の許可取扱基準として要件①~④があることを重要事項として説明する必要が原則あります。したがって、これらの重要事項の説明を一部懈怠した場合には、重要事項の説明義務違反となり、当該事項が契約の主要な要素にかかわる場合には、売買契約の解除も認められる可能性があります。
一方で、本件売買契約において、同予定区域外の部分の面積や形状、土地の利用計画等の事情から、明らかに適用されない許可要件がある場合には、当該要件は本件売買契約における重要事項には該当せず、同要件の説明義務違反を理由とした売買契約解除の主張は認められない可能性があります。
1 都市計画道路
都市計画道路とは、都市計画法に基づき位置・構造等を決定された道路をいい、交通利便性の向上や防災・環境上の観点から、道路の拡幅や新設工事が行われます。
都市計画道路は、都市計画決定がされた後、認可権者の事業認可を受け、その後、用地取得が行われ、道路工事が施工されます。都市計画道路の都市計画決定が行われると、事業の円滑な遂行に向け、同予定区域内の土地の所有者等は様々な制約が課されます。
(1)建築行為等への制限
都市計画決定の段階に入ると、同予定区域内での建築行為には都道府県知事の許可が必要となります。その後、事業認可を取得すると、同予定区域内での新たな建築行為は原則認められません(都市計画法53条、54条、65条)。
都市計画道路事業では、都市計画決定後、実際に事業化されるまでには、長期間を要する場合も少なくないため、同予定区域内の所有者等に課される負担を考慮し、東京都の都市計画道路事業では、同予定区域内での建築行為の許可に際し、緩和した取扱基準(①市街地開発事業等の支障にならないこと、②階数が3、高さが10メートル以下であり、かつ地階を有しないこと、③主要構造部が木造・鉄骨造・コンクリートブロック造・その他これらに類する構造であること、④建築物が都市計画道路区域の内外にわたり存することになる場合は、将来において、都市計画道路区域内に存する部分を分離することができるよう、設計上の配慮をすること)を設けており、①~④の全ての要件を満たし、かつ、容易に移転・除去できる場合に許可するものとされています。
なお、許可要件の緩和基準は自治体により異なるため、建築行為に際し各自治体の基準を確認する必要があります。
(2)売却への制限
同予定区域内の土地は、都市計画決定から事業認可取得前までの間は、自由に売買することが認められていますが、事業認可取得後(公告日の翌日から十日経過後)は、金額や売却先等を自治体へ届出する必要があり、自治体が優先的に買取ることが認められています(都市計画法67条)。
(3)用地取得
認可権者から事業認可を受けると、同予定区域の用地取得手続きが開始されます。用地取得では、自治体と土地所有者等との間で、補償金額や移転時期等の条件面の合意がされた場合には、売買契約が締結され、任意による用地買収が行われます。一方、補償金額等の条件面で合意に至らなかった場合には、土地収用法に基づく収用手続きにより強制的に用地買収が行われます。
2 説明義務
売買対象地に同予定区域が含まれる場合、売買契約では、売買対象地に都市計画道路の同予定地が含まれること、これに伴い、将来的に土地収用が行われる可能性のあること、同予定区域内での建築行為や売却に規制が課されること、建築規制の許可取扱基準①~④の内容を重要事項として説明する必要が原則あります。
一方で、東京地裁令和2年11月19日判決では、本件設例と同様の事案のもと、売買対象地のうち同予定区域外の部分は5坪程度で、三角形状であり、要件④の適用を受ける分離可能な建物を建築することが事実上不可能であること、買主は本件建物を解体し・再築する意思がないと説明していたこと、買主は現地確認も行わず購入を決定したこと、買主も宅建業者であったこと等の事情のもとでは、要件④の規制について説明する実質的意味は乏しいと言わざるを得ないとし、本件売買契約において、要件④の規制の説明を受けることは、買主にとって重要事項に該当であったとまでは認められないとして、買主からの契約解除の主張を退けています。
3 まとめ
売買対象地に同予定区域が含まれる場合、これに伴い土地所有者に課される制約は、原則として重要事項として買主に説明する義務があります。
前記2でご紹介した裁判例は、売主・買主双方が宅建業者であったこと、買主が建物を解体・再築せず本件建物を利用する意向であったこと、本件土地の同予定区域外の面積・形状から要件④の適用を受けることが想定されなかった等の特殊な事情のもとにおいて、要件④の規制内容は当該売買契約における重要事項には該当しないと判断したものです。したがって、前記裁判例の判断を他の売買契約に安易に用いることはできませんが、契約における様々な事情を考慮した上で、重要事項の該当性を判断している点で参考になります。
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