

家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
あいまいな日本語から住まいをデザインしてみる
日本語の文体豊かな空間をつくる
建築雑誌や住まいのカタログをみると空間を伝える言葉が数多く並びます。「安らかな空間」、「溶けあう空間」、「おおらかな空間」、「にじみのある空間」などです。
言葉としては素敵な印象を受ける一方、「あいまいな言葉」の表現に感じるかもしれません。
しかしこのあいまいな言葉こそが、英語と異なる日本独自の豊かで心地良い空間をつくっていると感じます。日本語の文体と住まいがもつあいまいな空間との関係性をひも解いていきます。
英語と日本語の文体の違い
英語は動詞が主語の次に出てきて、重要なことが早い段階で明らかになります。日本語は主語と述語の間にさまざまな情報をはさみ、動詞は最後にきて文体が完成します。
「どうする」にたどりつく前に、「こんなようで」「あんなふうな」といった具合に細かいところまで感じとります。日本人にとってそうした「ニュアンス」はとても大切で、ニュアンスのまわりに意味が余韻として存在したり、あるいは膨らみを持たせてくれるのです。
おそらくこの感覚の違いこそが物の見方や表現に影響を与えてきたのです。
これを住まいに置き換えて考えてみると、一般的な現代の家は機能的に空間がつながっていくので、主語の次に動詞がくる英語の文体のような関係ではなく、主語と述語の間にさまざまな情報が挟まる日本語の文体は緩衝帯や調整帯が入り込む様な関係と捉えられる気がします。つまりはっきりとした空間の衝突は避け、やわらげてくれる効果が期待できます。建築的な言葉で言い表すと「中間領域」です。
中間領域とは
建築における中間領域とは室内と屋外のあいだにある、「緩衝帯(バッファゾーン)的な空間」で、部屋の中でも外でもない場所です。具体的には「土間」、「中庭」、「軒下空間」、「テラス」、「ピロティ」などです。これらの空間は人と人を繋げたり、内から外への小さな空間が環境を変える役割をもち、心地良い空間となっているのです。「小さな余白」と言っても良いのかも知れません。
前にも触れたように、英語は物事を明確にはっきりさせようとする文体です。一方で日本語の文体は極めてあいまいです。そのあいまいさの連続によって柔らかで流動的な空間が生まれているのです。そして日本語はその余韻をつないでいき、その意味を伝えていく言語です。
これまでの日本建築の魅力も同様で、「主和室→次の間→廊下→縁側→軒下→庭」といった具合に流動的に空間をつなげていきました。少しずつ内から外へ意識をむけて、心地良さを演出していったのです。
中間領域を現代の住まいで活かす
住まいの設計で基本的なことは、「家を建てようとする場所に立つこと」から始めて下さい。そこで見える風景、敷地周辺を歩いて時には遠くからその土地を眺めることです。そして設計者と話しながらお互いどんなことを感じたかを話してみることです。そういった中で「一番居心地の良い場所はどこか」、「静かで落ち着ける高さはどこなのか」が少しずつ見えてくるはずです。まずは敷地の魅力を引き出すことが中間領域をつくり出すヒントになるはずです。事例を4つ紹介します。
1.街並みに参加していく
道路の角を曲がると、正面30m先に丸窓が見えます。
さらに敷地境界には花壇、玄関入口にはアーチがあります。道行く人に圧迫感を与えず、街に少しでも潤いを与え、街並みに参加していく気持ちを表現しています。
2.内と外をつなぐ
内外を明確に区分するのではなく、土間や土庇(どびさし)といった内とも外ともいえない中間領城が緩衝帯のような働きをします。室内と庭との関係性もより深くさせてくれます。
3.小さな庭で空間をつないでいく
南側の庭にこだわる必要はありません。小さな庭をつくりながら、家の周りを流れるようにつなげていく方法もあります。室内のさまざまな場所から緑や光を楽しむことができます。
4.小さな住まいは奥をつくる
小さな住まいは見通せない部分をつくることで手前と奥が生まれ、奥には「さらにその先が続く」というイメージをつくることができます。緩衝帯で小さなスペースであっても、中庭などの立体的な空間を感じさせることで余白を感じます。
壁と中間領域
建築設計の仕事は、一言でいえば「壁を建てること」かもしれません。しかしこの壁の建て方ひとつで空間は均質になり、時には「管理社会」をつくってしまうこともあります。
一方でワクワクする空間や溶け合う空間は、壁を上手に活かしながら空間の連続性をつくっていきます。中間領域は壁の力を緩めたり、建具を使ったりすることで人と自然を近づけ、居心地の良い場所を提供してくれます。
あらためて日本語は「~のような」「~かもしれない」など、あいまいな表現で断定を避けたりする言語です。これは空間でいう「間(中間領域)」と同じです。はっきり決めないことで、やわらかな言葉が生まれます。
間(中間領域)をつくるということは空間のやわらかさと、管理社会ではなく人と自然のつながりをつくることです。
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佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。






