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舟運と塩の町・行徳

戦国時代から盛んだった行徳の塩の生産は、江戸時代に入ると徳川家康が生産を推奨したことから一層活発化した。その後、塩を江戸へと運ぶ航路の独占権を得た本行徳村には船着場が作られ、塩はもちろん、人や物資の運搬も盛んになった。物資を運搬する「行徳船」が頻繁に行き交い、市川に人の流れが生まれた。江戸末期に「成田山詣で」が流行すると、大勢の人が集まりはじめ、宿が次々に建てられて活況を呈した。


行徳と製塩業 MAP __

行徳の塩業は300年以上前から始まっていたといわれ、先の「国府台合戦」で里見氏の勢力が退いてからは、北条氏が行徳で生産された塩を年貢として取り立てていたという。江戸時代に入ると、規模はさらに拡張されていく。最大の要因は、「塩は軍用第一の品、領内一番の宝である」と考えた徳川家康の政策にあった。家康は行徳を幕府直属の天領として、塩業を保護・推奨したため、東国第一の「行徳塩業」としての特色を発揮するようになった。塩がきっかけとなって、船着場周辺に人の流れが生まれ、街が整備されていった。塩業や塩焼きの風景は『江戸名所図会 七巻』にも描かれている。図は『行徳 塩竃之図(しおがまのず)』。【図は1836(天保7)年】

図は同じく『江戸名所図会 七巻』の『行徳汐濱(しおはま)』。【図は1836(天保7)年】

写真は有力塩問屋であった加藤家の住宅主屋跡。明治後期に建設されたもので、「旧行徳街道」に東面している。

江戸と行徳をつないだ「行徳船」 MAP __

徳川家康は、行徳の塩田から採れる塩を江戸へ輸送するために、「行徳川」と呼ばれる水路を整備した。その後、1632(寛永9)年には幕府の承認を得た本行徳村が、行徳・江戸間に航路を開いた。これが「行徳船」の始まりである。江戸の日本橋小網町三丁目から、下総の本行徳村の間、約12.6kmを定期船も往来するようになった。塩を運搬するための「行徳船」はやがて江戸と行徳をつなぐ架け橋となり、「成田山詣で」に訪れる庶民や商人たちで賑わうようになった。この水路を利用して往来した人物の中には松尾芭蕉や十返舎一九、渡辺崋山などがいる。【画像は1836(天保7)年】

1812(文化9)年、「成田山詣で」の信者が「行徳船」航路の安全祈願のために「常夜灯」を設置。2009(平成21)年に「常夜灯」周辺は「常夜灯公園」として整備された。

「行徳船」の利用客に愛された「笹屋」のうどん MAP __

「成田山詣で」の客でにぎわった行徳河岸に建つ「笹屋」のうどんは、行徳の名物として広まり、お土産として干しうどんを持ち帰ることも流行したという。当時の川柳にも、「音のない滝は笹屋の門にあり」「さあ船がでますとうどんやへ知らせ」「行徳を下る小舟に干しうどん」などと歌われ、人気のほどがうかがえる。行徳を代表する名物グルメだったといえよう。「笹屋」には源頼朝が立ち寄ってうどんを食べたという由来譚を記した六曲屏風が残されていた。【図は江戸時代】

図は六曲屏風に描かれた「笹屋」の店舗拡大図。図中に描かれたケヤキの大看板も六曲屏風とともに「市立市川歴史博物館」に展示されている。【画像は江戸時代】

営業は終えているが、1854(安政元)年に建てられた「笹屋」の建物(部分)は現存している。


行徳の神輿と祭り

3年に一度開催される「行徳五ヶ町祭り」の様子

3年に一度開催される「行徳五ヶ町祭り」の様子

「旧浅子神輿店店舗兼主屋」

「旧浅子神輿店店舗兼主屋」 MAP __

戦国時代、土地の開墾・開発を行いつつ教化に尽力した山伏の金海法印は、『徳』が高く『行』も正しい人物で、『行徳さま』として讃えられたという。これが行徳の地名の起こりとなった。行徳には数多くの高僧が訪れ、信仰の種を蒔いてきた。そのため、町内に数多くの寺院があり、「戸数千軒、寺百件」といわれる寺の町として発展した。

江戸時代には全国的に社寺への参詣が流行。「成田山詣で」を行う人々は「行徳船」に乗って行徳を訪れ、この先は陸路経由で「成田山」に向かった。また、「行徳街道」ができる前からある「権現道」には中世建立の寺院が多く、寺の町らしい景色が広がっている。

寺院が多く建ち、交通の便にも恵まれた行徳には、次第に仏師や宮大工たちが集まり、生活するようになった。仏師の本業が仏像の彫刻であるのは言うまでもないが、神輿の製作にも腕を揮っていたという。江戸時代中期には、行徳で製作された神輿は品質の良さで評価されるようになり、現在に至るまでその知名度は高い。市内では「中台製作所」が現在も神輿の製作と販売を一貫して行っているほか、「旧浅子神輿店店舗兼主屋」の建物が残る。

神輿は周辺地区の祭礼で使用され、「行徳担ぎ」という独特の担ぎ方とともに地域の伝統として継承されている。


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