

不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
不安をあおる勧誘行為に基づく売買契約の取消し
【Q】
私は、転職活動でA社の就職面接をうけた際、採用担当者Bから、マンションを購入して生活の足場を固めた方が採用に有利になるとの説明を受けたことから、採用担当者Bが紹介するY社からマンションを購入しました。A社への就職の内定は決まりましたが、購入した物件の引渡しを受けた後、購入価格が相場より異常に高額な価格の物件であることを知り、購入を後悔しています。私はY社とのマンションの売買契約を取り消すことができるでしょうか。
【回答】
あなたとY社とのマンションの本件売買契約は消費者契約に該当します。採用担当者Bによる採用面接の際のあなたに対する説明と売主Y社のマンション購入の勧誘過程に売主Yが関与していると認められる場合には、本件売買契約に消費者契約法上の不当な勧誘による違法性があるとして、あなたはY社との売買契約を取消すことができる可能性があります。
1 消費者契約法
(1)消費者契約法
消費者契約法は、事業者と消費者の間で結ばれた消費者契約について、事業者による不当な勧誘行為等により誤認や困惑した状態で結ばれた契約を消費者が取消すこと、消費者の利益を不当に害する条項を無効とすること、事業者の努力義務等を定め、消費者の保護を図っています。消費者法は令和4年に改正され、取消対象や無効条項の範囲を拡大し、事業者の新たな努力義務も規定されています。
消費者契約法の適用を受ける「消費者契約」とは、事業者と個人(事業として又は事業のために契約当事者となる場合を除く)の間で結ばれた契約であり、事業者間の契約や消費者間の契約には適用されません。
不動産取引についても、当該取引が消費者契約に該当する場合には同法を適用受け、不当な勧誘行為や契約条項の適法性が問題となります。不動産取引では、仲介業者に仲介行為を委託することがありますが、委託した仲介業者が不当な勧誘行為を行った場合、売主(事業者)自身に消費者契約法の違反事由がなくとも、当該契約は同法違反による契約取消しの対象となります。
本件設例では、Y社との間で結ばれた契約が消費者契約に該当する場合、Bの面接時の説明と売主Y社のマンション購入の勧誘行為には消費者契約上の違法性があるのか、又、その勧誘行為へのY社の関与があるのかにより、本件売買契約の取消しが認められるのかが問題となります。
(2)不当な勧誘による契約の取消権
消費者契約法は、取消権の対象となる不当な勧誘行為(取消事由)を下記の通り規定しています。
〔取消事由〕
ア 誤認類型
ⅰ不実告知、ⅱ断定的判断の提供、ⅲ不利益事実の告知
イ 困惑類型
ⅰ不退去、ⅱ退去妨害、ⅲ退去困難な場所への同行、ⅳ威迫する言動を交えて相談の連絡を妨害、ⅴ社会生活上の経験不足の不当な利用(就職セミナー商法等の不安をあおる告知)、ⅵ社会生活上の経験不足の不当な利用(デート商法等の好意の感情の不当な利用)、ⅶ判断力の低下の不当な利用、ⅵ霊感等による知見を用いた告知、ⅶ 契約締結前に債務の内容を実施、ⅷ契約を目指した事業活動の実施による損失補償請求等
ウ 過剰契約
〔取消権の行使期間〕
不当な勧誘行為による取消権は、追認することができるとき(消費者が誤認に気づいた時や困惑を脱した時等)から1年間(霊感商法等の場合は3年)、又は、契約締結時から5年(霊感商法等による場合は10年)の間に行使する必要があります。
(3)裁判例
東京地裁令和4年1月17日判決では、本件設例と同様に、原告(買主)がA社の就職の採用面接を受けた際に、採用担当者からマンションを購入してでも入社したいとの意欲を示す必要がある旨の説明を受け、被告(売主)の販売するマンションを紹介され、不安をあおられ困惑した状況下において相場より高額な価格で被告からマンションを購入した事案において、裁判所は、原告は社会人経験が3年程度しかなく、自動車や住宅の購入経験がなかったこと、就職に対し過度な不安を抱いていたこと、直接の勧誘行為を行ったA社らと被告の間には関連があること、被告の法的責任を回避する公正証書をあらかじめ作成していたこと等を認定した上で、事案を総合的に考慮すると、被告もA社らとともにマンション購入の不当な勧誘行為(消費者契約法4条3項3号イ)に関与していたものとして、被告との売買契約の取消しを認めています。
本件設例においても、前記裁判例と同様に、採用担当者Bのマンション購入の勧誘過程に売主Yが関与していると認められる場合には、消費者契約法上の違法性がありY社との売買契約を取消すことができる可能性があります。
2 まとめ
令和4年消費者契約法の改正では、契約の取消権の対象行為や無効となる契約条項の範囲が拡大された他、事業者に向けた努力義務として、契約勧誘時に消費者の知識・経験・年齢・心身の状態を総合的に考慮した情報提供を行うこと、契約解除権の行使に必要となる情報提供、解除料の算定根拠の概要説明、定款約款の表示請求権の情報提供等を定めています。判断の能力の低下した高齢者や社会人経験の乏しい消費者との契約トラブルが増加しており、相手方の理解力に沿った情報提供・説明を行い、契約を締結する必要があります。
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