

不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
未成年の子と親が共有する不動産を売却する場合に親が子を代理することの可否
【Q】
私は、東京都の多摩地域の一戸建て(以下「自宅」といいます)に住んでいる者です。
私たちは、元々、夫と現在3歳の息子の3人家族で、自宅も夫が住宅ローンを組んで5年前に購入した分譲住宅でした。
ところが、1年ほど前、夫が急病になり、わずか数か月の闘病の末、私と息子を残して亡くなってしまいました。
住宅ローンは「団体信用生命保険」という保険を掛けていたために私や息子に引き継がれることはなく、周囲の方々のサポートもあり、自宅の土地建物について、私と息子とで2分の1ずつの所有する形とする登記も終えています。
他方で、自宅を多摩地区に構えたのは、夫の仕事が理由であり、私の実家も、夫の実家も西日本にあります。
親族のサポートも容易に受けられない中、私と息子の2人だけで自宅に住み続けるのは限界があります。
そこで、私は、夫との思い出の詰まった自宅を手放すのは辛いところではありますが、自宅の土地建物を売却し、私の実家に戻ろうと考えています。
自宅の購入時にお世話になった不動産業者の方を通じて買主を探してもらったところ、幸い、自宅として購入を希望されている方が見つかりそうなのですが、不動産業者の方から、1つご指摘がありました。
具体的には、不動産業者の方から、「今回のご売却は、奥様〔※私のことです〕ご自身も売主様、ご子息も売主様になります。もっとも、ご子息はまだ保育園に通われていますので、親権者である奥様が代理人として契約をすることになります。ご自身も売主様である奥様が、ご子息を代理してよいのか、確認する必要がありますね」と言われました。
不動産業者の方でもお調べになられるようなのですが、私にはよく分からないところなので、不動産業者の方のご指摘の意味と、自宅の売却に当たって支障になってしまうことなのか、教えていただけますでしょうか。
【A】
1.何が問題か~利益相反行為~
ご主人様がお亡くなりになられたご相談者様のお悲しみ、いかばかりかとお察しいたします。
心からご冥福をお祈りいたします。
そのうえで、ご相談に回答させていただきます。
不動産業者の方は、親権者であるご相談者様と、ご子息の「利益相反」を懸念されているのだと拝察いたします。
不動産業者の方もご指摘のとおり、ご子息は3歳と未成年者の方ですし、ご自宅を売却される契約(売買契約)を行うだけの判断能力をお持ちではないでしょうから、契約に当たっては、ご相談者様がご子息の代理人として、代わりにご署名、ご捺印などの手続を進められることになります(民法5条、818条1項、824条本文)。
このように、ご子息の親権者であるご相談者様は、ご子息が契約を始めとする法律行為(細かい定義は割愛いたします)をされる際に、ご子息を代理する権限をお持ちなのですが、常に代理権をお持ちというわけではありません。
その1つが、「利益相反行為」となります。
民法では、「親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為」については、親権者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならないと定めています(民法826条1項)。つまり、このような行為については、親権者は、その子の代理人となることはできず、家庭裁判所に特別代理人を選任してもらい、その特別代理人がその子の代理人となって活動をすることとされているのです。
不動産業者の方のご指摘は、このたびのご相談者様とご子息とが2分の1ずつ共有しているご自宅の土地建物を売却することが、上記の「利益が相反する行為」(以下「利益相反行為」といいます)に該当してしまうことを懸念されているのだと拝察いたします。
2.親子で共有する不動産を売却する場合の利益相反行為該当性
では、相談のケースが先ほどの「利益相反行為」に該当するかと申しますと、結論から申しますと、該当しないと解されています。
「利益相反行為」に該当するかどうかは、その行為の外形から客観的、形式的に判断されると解されています(最高裁昭和48年4月24日判決など参照)。逆に申しますと、その行為における親権者の意図や実質的な効果など個別のケースの具体的な事情を考慮して判断される(ある類型の行為でも、事情次第で「利益相反行為」に当たるか当たらないか結論が変わる)わけではない、ということです。
そのうえで、「利益相反行為」に該当する類型の典型例は、ご相談者様が買主、ご子息が売主となる不動産の売買契約や、お亡くなりになられたご主人の相続に当たってご相談者様とご子息とで遺産分割協議を行う場合など、ご相談者様がご子息との間で契約、合意などをなされる場合です。
この場合、ご相談者様がご子息を代理することは、(ご子息の不利益にならない意図をご相談者様がお持ちであったとしても)利益相反行為に該当するために許されないと解されています。
これに対し、ご相談のケースは、第三者である買主の方に対し、ご相談者様はご自宅の土地建物の2分の1の持分(所有権割合)を、ご子息も同じく2分の1の持分をそれぞれ売却されるものです。
この場合、契約の当事者は、飽くまでご相談者様と買主の方、ご子息と買主の方ですから、ご相談者様とご子息との間で契約、合意をする場合とは異なります。
そうした事情もあり、ご相談のケースは、「利益相反行為」には該当せず、ご相談者様は、ご子息の代理人として、買主の方との間で、ご自宅の土地建物を売却する契約を締結することができると解されています。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。






