

家づくりの「心」を「かたち」に、具体例を交え心の家づくりを解説した一級建築士のアドバイスです。
これからのキッチンは「ラウンジキッチン」?
住宅設備機器開発の共通テーマは「時短」
厚生労働省の調査で、2000年~2020年にかけて共働き世帯が942万世帯 → 1262万世帯に増加しました。一方、専業主婦世帯は916万世帯 → 539万世帯に減少し、共働き世帯の占める割合は50.6% → 70.0%へと上昇しました。
このような傾向を受け、家事をそれぞれが分担して行う傾向が強い時代になってきています。
それに伴い住宅設備メーカーは「時短」をテーマに家事にかかる時間や手間を削減できる機能を都度、打ち出しています。キッチンのコンロでは、汚れが溜まりにくくするために継ぎ目をなくした構造にしています。さらにこれらを防汚コーティングし、付着した汚れを簡単に落とせるような製品に仕上げています。
キッチンは毎日使うものですから汚れやメンテナンスが容易なことは当然重要なポイントではありますが、家づくりの目的は「家族の団らん」にあります。
共働き世帯、あるいは単身者世帯が増える傾向にある現代社会において、家族団らんの在り方を検討する上でも、キッチンはとても重要な役割をはたします。これからのキッチンについて考えていきましょう。
昨今の住まいの傾向は
ここ10~15年の住宅の傾向はキッチンとダイニング、さらにリビングが一体化した間取りが定着しています。その理由としては、
1 家事動線の効率化
2 家族同士のコミュニケーションの向上
3 インテリアとしての見せ場
などがあげられます。
「1 家事動線の効率化」はキッチンとダイニング、リビングを一体化することで、料理の準備から配膳、片付けまでの動線が短くなり、家事の効率が大幅に向上するからです。
「2 家族同士のコミュニケーションの向上」においては、料理をしながらダイニングに座る家族と会話ができるので、家族団らんの時間が増え、賑やかで楽しい食事の時間が期待できます。子育て世帯の場合でもキッチンに立ちながら子供の様子を確認することが出来るので、安心感が得られます。
「3 インテリアとしての見せ場」の役割も大きいです。これまでダイニングとリビングは「団らんの場」と位置づけられてインテリア空間をつくってきました。しかし近年は、キッチンも含めて統一感のある一体的なデザインが多くなってきました。特に「アイランドキッチン」などは高級感のある素材、カップボードではオーブンをビルドインできる「ウォールオーブンストッカー」など、スッキリとした仕様のものを選べるようになってきています。
キッチンからダイニング、そしてリビングと同じコンセプトでデザインすることで、より個性のある空間を手に入れることが可能となってきたのです。
ただ、キッチンは「憧れ」や「おしゃれ感」だけで計画をすると、いざ生活する段階で「自分達のライフスタイルには合っていなかった」という後悔もあります。
そこでここ数年における住まいに関する資料や雑誌などから、「キッチンに関する不満や後悔」を調べてみました。主に次の10項目にまとめることができます。
1.キッチンのレイアウトを「憧れ」だけで決めてしまった
2.収納が少なくて使いにくい、収納から物を取り出しにくい
3.想定したコンセントの位置や数量に差があった
4.作業スペースが足りなかった(スペースにゆとりがない)
5.オープンにしたため、見せたくない部分まで見えてしまうのが気になる
6.キッチンと一体としたため、リビングにいるとキッチンの音や臭いが気になる
7.キッチンと背面にあるカップボードとの幅が狭く、動きにくい
8.掃除が楽なレンジフードを選択するべきだった
9.夫婦間で身長の低い方にキッチンの高さを合わせたために、高い方が作業しにくくなってしまった
10.冷蔵庫とは別で、専用の冷凍庫を置くスペースも考慮しておくべきだった
アドバイスとして
キッチンの計画で見落としやすいことは「目には見えないもの」です。つまり「臭い」や「音」、そして「視線」です。これらは図面ではわからないので、つい忘れがちになり後悔することが多いのです。
例えばキッチン、ダイニング、リビングと連続した空間であれば、レンジフード以外に天井換気扇を設けて臭いの広がりを抑える方法があります。
シンク作業の水音が気になる方は、最近だとシンクの裏側に振動を軽減する素材を貼り、水はね音を抑えた静かなシンクもあったりします。キッチンメーカーそれぞれのショールームなどに行って確かめてみると、「こんなものまであったのか」と驚かされます。
視線に関しては、調理中の手元を隠したいのであれば、キッチン天板から15~20cm程度の立ち上げを設けることで解決できます。
不満や後悔は事前の準備や打ち合せで解決することができます。しかし住まいは少なくとも30年~40年と使われていきますので、その間にライフスタイルにも変化があるでしょう。
したがって、年数が経過することでリフォーム工事が必要になってくるかも知れません。家族の変化に対応できるようなスペースの在り方も心構えとして持っておくと安心です。
これからのキッチンは「ラウンジキッチン」?
ラウンジとは「会社員の休憩」、あるいは「待合」といった意味ですが、リフレッシュを目的として設けられたスペースのことです。キッチンは住まいの中で「働く場」、「何かをつくり出す場」ですから「ラウンジ」の印象と差があります。
しかし近年は冷凍食品や加工品の豊富さ、フードデリバリーなど、以前よりも料理に手間をかける時間を減らせる手段が充実してきています。共働き世帯が増えれば、尚更その頻度は上がってくるでしょう。
キッチンスペースはあくまでも料理をつくり出す場に変わりありませんが、これからは「ラウンジ的な要素」もとり入れ、時にはキッチンカウンターを囲んでの団らんや、リフレッシュができるインテリア空間としての工夫なども考えられます。
「ラウンジ感」を演出するものとして、レンジフードの代わりに、換気扇を天井の中に埋め込める「天井スリットファン」があります。存在感のあるレンジフードが天井に埋め込まれることで、キッチン周りが開放的になり、まさにラウンジ的な雰囲気が演出できます。
この記事を読んだあなたにおすすめの記事
佐川 旭Akira Sagawa一級建築士
株式会社 佐川旭建築研究所 http://www.ie-o-tateru.com/
「時がつくるデザイン」を基本に据え、「つたえる」「つなぐ」をテーマに個人住宅や公共建築等の設計を手がける。また、講演や執筆などでも活躍中。著書に『間取りの教科書』(PHP研究所)他。






