明治初期、横浜の中心部と根岸・磯子を結ぶ「堀割川」が開削された。この人工の水路は横浜の治水に寄与し、水運にも利用され、根岸・磯子に住む人々に大きな変化をもたらした。また長浜には明治時代に「長濱検疫所」が誕生し、日本の伝染病予防・研究の拠点となった。昭和初期には湘南電気鉄道（現・京浜急行電鉄）が開通し、杉田・金沢方面への交通網の整備が進んだ。
「堀割川」は、1870（明治3）年から1874（明治7）年にかけて開削された人工の河川（運河）。この川の誕生は治水と水運に大きく寄与し、川岸には桜が植えられ、桜の名所としても賑わった。1923（大正12）年の「関東大震災」では大きな被害が出たが、復興事業により護岸工事などが行われた。また、「堀割川」沿いには「横須賀街道」（現「国道16号」）が通り、横浜市電のルートともなった。【画像は明治後期】
往来する舟の姿が消えた今は、静かな流れをたたえる川となっている。
写真は明治後期の「堀割川」で、中央の橋は「八幡（やはた）橋」。右奥に見える森は「滝頭（たきがしら）八幡神社」の社叢で、その手前に門前にあった洋館の「大竹屋」が写っている。「大竹屋」は外国人のための休憩所として開設された茶店で、「掘割川」河口部の築堤で獲れる天然の牡蠣を提供し、繁盛したという。MAP __（八幡橋）【画像は明治後期】
「八幡橋」は、1927（昭和2）年、「関東大震災」後に震災復興橋として架け替えられており、この橋が現在も使用されている。「大竹屋」の跡地は「八幡橋幼稚園」とマンション（右手のビル）になっている。
1895（明治28）年、三浦郡長浦村（現・横須賀市箱崎町）の「箱崎半島」（現「吾妻島」)にあった「長浦消毒所」が長浜の地に移転され、「長濱検疫所」となった。外国から来る船舶の乗員などの検査を行い、伝染病の蔓延を防ぐ役目を果たしていた。1899（明治32）年に「横浜海港検疫所」に改称され、同年5月より当時22歳だった野口英世が5か月の短い期間ではあるが、同検疫所に勤務した。写真は「長濱検疫所」の施設のひとつである「細菌検査室」。「関東大震災」で倒壊するも、翌年に再建された。【画像は1970（昭和45）年】
1952（昭和27）年、「横浜検疫所」は「横浜港」の「大桟橋」のそばへ移転し、長浜の施設は検疫措置を行う「長濱措置場」となった。1968（昭和43）年度より、この一帯では海の埋立事業が始まり、現在は1.5kmほど内陸の立地となっている。その後、「長濱措置場」は、改組・改称を経て、現在は「横浜検疫所 輸入食品・検疫検査センター」となった。野口英世ゆかりの「細菌検査室」は、1993（平成5）年、横浜市の要望により払下げられ、1997（平成9）年に「長浜野口記念公園」が開園、園内で「旧細菌検査室」として保存・公開されている。
1904（明治37）年、横浜初の路面電車「横浜電気鉄道」は最初の路線を開通させた。1912（明治45・大正元）年に、磯子線が「堀割川」沿いに南下して、「八幡橋」に至り、滝頭付近には車庫・車両工場が設置された。1921（大正10）年に横浜市が買収、横浜市電となり、その後、杉田まで延伸された。1930年代には多くの女性車掌を採用。張りめぐらされた路線は、市民に親しまれたが、1972（昭和47）年までに全線が廃止された。【画像は1934（昭和9）年頃】
「滝頭車庫」は、市電廃止後の1972（昭和47）年から、横浜市営バスの車庫（「滝頭営業所」）となった。廃止の翌年には、敷地内に「横浜市電保存館」も開館、現在も人気の展示施設となっている。
「湘南電気鉄道」は、1925（大正14）年に設立された。1930（昭和5）年に「黄金町駅」を起点に「浦賀駅」に至る本線と、途中の「金沢八景駅」から分かれて「湘南逗子駅」（現「逗子・葉山駅」）に至る支線（逗子線）が開通。1917（大正6）年の発足当初は、「三浦半島」を一周して、「桜木町駅」に乗り入れる計画も存在したが、資金不足などで断念し、1931（昭和6）年に「黄金町駅」～「日ノ出町駅」間の延伸で、「京浜電気鉄道」と接続、横浜方面への直通運転が行われることとなった。図は1933（昭和8）年に作成された案内冊子内の路線図の一部。駅以外にも周辺の名所が描かれている。1941（昭和16）年に「京浜電気鉄道」と合併、会社は解散した。現在は「京浜急行電鉄」となっており、金沢区内には5つの駅が設置されている。【図は1933（昭和8）年】
