「明治維新」後の伏見は、京都と異なる町（市）となったものの、その間を結ぶ交通などの整備はさらに進められた。1894（明治27）年に「琵琶湖疏水」の延長である「鴨川運河」が完成。続いて、翌年には、日本初の路面電車で京都市電の前身である京都電気鉄道が開業した。その後、伏見には陸軍の「第十六師団」などが置かれ、軍事施設も誕生する。
「琵琶湖」から京都に水を送る「琵琶湖疏水」は、1885（明治18）年に着工され、1890（明治23）年に「第一疏水」の最初の工事が完成した。その後、「鴨川」合流点から伏見の「濠川」に至る「鴨川運河」が1892（明治25）年に着工、1894（明治27）年に完成した。この「鴨川運河」は、大津（「琵琶湖」）から京都市内を経て伏見に至る運河として、物資輸送（舟運）において大きな役割を果たした。
「蹴上インクライン（傾斜鉄道）」と同様に、伏見の墨染にも1895（明治28）年に「濠川」と結ばれる落差15mの「伏見（墨染）インクライン」が設けられた。写真はインクラインが「濠川」に接続する部分。【画像は明治後期】
「伏見インクライン」は1940（昭和15）年前後まで使用されたのち、1959（昭和34）年に撤去された。現在跡地には「国道24号」が通っている。「濠川」側から「鴨川運河」方面の坂を見上げるとその落差を感じることができる。
平安遷都1100年の記念事業の一環として、1895（明治28）年2月に日本初の電車である京都電気鉄道が開業した。このとき開通した最初の路線が東洞院塩小路下ル（「七条停車場」、現「京都駅」前）・伏見下油掛（しもあぶらかけ、現・京橋）間の伏見線であり、その後は中書島まで延長された。1918（大正7）年に京都市に買収されて、京都市電伏見線となった。写真は明治中期、「京都駅」付近を走る京都電気鉄道の様子。【画像は明治中期】
京都市電伏見線は1970（昭和45）年に廃止された。開業当初、起終点となる停留場が置かれていた和菓子店「駿河屋本店」の角には、「我国に於ける電気鉄道事業発祥の地」の石碑（写真中央下）が立てられている。「駿河屋本店」は、豊臣秀吉が「伏見城」を居城とした際、羊羹を献上した「鶴屋」を発祥とする「駿河屋」より、江戸後期の1781（天明元）年に暖簾分けされた老舗。
現在の「京都府立大学」の前身の一つ、「京都府簡易農学校」は1895（明治28）年に設置され、翌年、葛野郡桂村（現・左京区桂上豆田町付近）に校地を構えた。同時に「京都府農会農事試験場」（1892（明治25）年設立）も同所へ移転してきた。当時の「京都府簡易農学校」は、2,250坪の敷地に12棟の校舎が建ち、農業、畜産、林業、病虫害といった科目があり、1898（明治31）年に「京都府農学校」（のち「京都府立農林学校」）へ改称。「京都府農会農事試験場」は1900（明治33）年に「京都府農事試験場」へ改称した。画像は1908（明治41）年の「京都府立農林学校」の様子。【画像は1908（明治41）年】
1918（大正7）年、「京都府立農林学校」と「京都府農事試験場」は愛宕郡下鴨村（現・左京区）、現在の「京都府立大学下鴨キャンパス」の場所へ移転した。写真は桂時代の「京都府立農林学校」跡地付近の様子で、現在は阪急嵐山線が通るほか、周辺は住宅地となっている。「京都府農事試験場」は、さらに移転、改組・改称を経て、現在は「京都府農林水産技術センター」（亀岡市）となっている。
陸軍の「第十六師団」は、「日露戦争」中の1905（明治38）年、大陸に動員された師団を補う形で、国内の四師団の一つとして、京都で編成された。司令部は、1908（明治41）年より紀伊郡深草村（現・京都市伏見区）に置かれた。その後、練兵場や陸軍病院などの施設のほか道路も整備され、農村地帯であった深草一帯は軍都として栄えた。画像は1908（明治41）年に竣工した「陸軍第十六師団司令部庁舎」。赤煉瓦造りの2階建てで、戦中は目立たぬように外壁を黒くした時期もあったという。【画像は昭和戦中期】
司令部庁舎は戦後、「聖母女学院」に払い下げられ、現在は本館として使用されている。広い敷地のあった兵器支廠は現在の「龍谷大学」や「京都府警察学校」の一部となった。そのほか「師団街道」など道路の名前にも当時の名残をとどめている。
