

賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
こんなに違っていいの? 不動産鑑定への疑問
先日、ある会合で、隣に座っていた初対面の高齢の男性から、「今度の選挙は、どうなりますかね?」と話しかけられました。
前回の選挙は、与党敗退が容易に予想できましたが、今回の選挙は、どうなるか予想がつきません。このため私は、「どうなるか、予想がつきません。」と答えました。
すると、その男性は、「首相は、私が首相でよいかどうかの選挙と言っていますが、何をしたいのかよくわかりません。白紙委任状をだせということでしょうか。」と意見を述べられ、首相にやや批判的でした。
新聞やテレビのニュースでは、各党の意見をちょっとずつ切り取るので、新聞やテレビのニュースだけを見ていると、確かにこの男性の言う通り、「首相は何をしたいのかわからない。」となるかもしれません。
しかし、SNSでは、首相や野党の政策をじっくり聞くことができますので、それぞれ何をしたいのか、おおよそ理解できると思います。
そう考えると、情報をどのような手段でとるかによって、投票行動が左右されることになり、オールドメディア民とネット民とでは、意見が分かれるような気がします。
さて、今回は、不動産鑑定のお話です。
最近、こんなことがありました。
私の担当している訴訟事件(これをA事件とします。)で、ある建物について、裁判所が不動産鑑定士に依頼して価格を鑑定してもらったところ、5000万円と出ました。私の依頼者は、この鑑定による価格に基づいて、相手方に和解金1000万円を支払いました。
ところが、その依頼者は、別の訴訟事件(これをB事件とします。)を抱えていて、B事件でも、同じ建物について、裁判所が不動産鑑定士に依頼して価格を鑑定してもらったのですが、こちらの方は1億円と出ました。
私は、A事件を担当しているだけで、B事件は、私とは全く関係のない他の弁護士が担当していたので、依頼者から、B事件の鑑定評価書を見せられたときには、少しびっくりしました。
A事件でも、B事件でも、依頼者にとっては、鑑定評価額が低い方が有利な結果となるので、依頼者は、A事件での5000万円という鑑定価格には不満はなく、この鑑定価格に基づいて1000万円の和解金を支払ったことについて、私が責められることはありませんでした。
ただ、もし逆の結果であったらと考えると、ぞっとします。
A事件で1億円という鑑定価格が出て、この鑑定価格に基づいて依頼者が2000万円の和解金を支払った後に、B事件で5000万円という鑑定価格が出たならば、私は、依頼者に激しく責められ、場合によっては、損害賠償請求をされていたかもしれません。
もっとも、ここでの問題の本質は、私が責められるかどうかではなく、裁判所の依頼した不動産鑑定士が、同じ建物の価格を鑑定したにもかかわらず、A事件の鑑定とB事件の鑑定で、100%もの違いが出たということです。
A事件の鑑定時点(いつの時点の価格を鑑定するか)は、令和4年5月であり、B事件の鑑定時点は、令和5年6月でしたので、鑑定時点が1年ほど違うのですが、その1年の間に、この建物の価格が2倍に跳ね上がるような事情は、この建物自体にも、地価等の経済事情にも、見当たりません。
そもそも、裁判所の行う不動産の鑑定は、訴訟や調停などの手続きの中で、不動産の価格や賃料額が争点となっているときに、裁判所が、当事者と利害関係のない中立の不動産鑑定士に依頼して、不動産の価格や賃料額を評価してもらうという手続きです。
たとえば、建物の賃料増額請求訴訟では、賃貸している建物の賃料額について、当事者間に対立がありますので、その建物の賃料の鑑定を行うことになります。
また、土地の共有物分割請求訴訟において、共有者の1人が、他の共有者の持分を買い取りたいと主張しているときに、他の共有者の持分の価格に対立があり、代金額が決まらない場合は、他の共有者の持分の価格の鑑定を行うことになります。
この不動産の鑑定を行うのは、不動産鑑定士ですが、不動産鑑定士資格というのは、国家資格であり、かなり難しい試験を合格しなければ、不動産鑑定士にはなれません。
また、不動産の価格や賃料の鑑定評価は、それぞれの不動産鑑定士が、自分の独自のやり方によって行うのではなく、国土交通省が発表している不動産鑑定評価基準に定められた評価基準に従って行います。
このように、裁判所の行う不動産の鑑定は、国家資格を有する不動産鑑定士が、裁判所の依頼を受けて、中立の立場で、不動産鑑定評価基準というルールに従って、不動産の価格や賃料を行うものなのです。
このため、裁判所の行う不動産の鑑定によって出された不動産の価格や賃料は、不動産鑑定士という専門家が、確立されたルールに従って算定したものだから、合理的で客観的なものだという共通認識があります。
従って、裁判官は、ほとんどの事件で、鑑定により出てきた価格や賃料をそのまま採用して判決を書きます。
また、遺産分割調停などでは、不動産の価格の鑑定を行うときは、鑑定で価格が出たら、その価格に異議を述べないという約束をさせられることもあります。
しかし、今回のケースのように、裁判所の依頼した不動産鑑定士が、同じ建物の価格を鑑定したにもかかわらず、A事件の鑑定とB事件の鑑定で、100%もの違いが出てしまうと、上記の共通認識は揺らいでしまいます。
不動産鑑定士という専門家が、確立されたルールに従って算定したものであれば、多少の違いがあっても、ほぼ同じ価格が出なければならないはずであり、100%もの違いは出ないはずです。
なぜ、こんなことになってしまったのか。
実は、A事件の鑑定評価書は、不動産鑑定評価基準に定められた評価基準どおりの鑑定を行っていたのに対して、B事件の鑑定評価書は、不動産鑑定評価基準に定められた評価基準を採用していませんでした。
そして、これが、A事件の鑑定とB事件の鑑定で、100%もの違いが出てしまった原因でした。
なぜ、B事件の鑑定評価書は、不動産鑑定評価基準に定められた評価基準を採用しなかったのか。対象となった不動産に、不動産鑑定評価基準に定められた評価基準を採用できない特殊な事情があったのか。
これらのことが問題となるとは思いますが、それにしても、鑑定結果が100%も異なるのは、裁判所の行う不動産の鑑定に対する信頼を、少なからず損なうような気がします。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。







