

賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
何が本当か、もう分からない! AI時代の証拠作り
今年の初めころ、ある株式評論家が、今年の年末には、日経平均が50,000円になると豪語していました。
しかし、今年の1月から3月ころまでの日経平均は、ぱっとしない値動きが続き、さらに、トランプ関税ショックで、4月には大幅に下落しました。
このとき、その株式評論家は、今は一時的に株価が下落しているが、必ず回復するので、日経平均が50,000円になるという予想は変えないと言っていました。
そして、今、今年も残すところ2週間となったところで、日経平均は50,000円を上回っており、現時点では、この予想は、見事に的中しました。
その株式評論家は、今後、日経平均は上がり続け、6万円突破も近いと言っていますが、本当にそうなるか、興味津々です。
さて、今回は、AIと裁判のお話です。
先日、大家さんと入居者とのトラブルについての事件で、大家さんが、入居者との話し合いの録音があるというので、その録音の文字起こしと大家さんの主張の裏付けとなる部分のピックアップをお願いしました。
1週間くらいして、大家さんから、「準備ができました。」という連絡があったので、打ち合わせをしたところ、録音は2時間近いものが4つあり、それぞれの録音を文字起こししたペーパーは、いずれもA4用紙で20枚以上になっていました。
大家さんに対して、「よく短時間に、これだけ文字起こしをしましたね。」というと、「アプリを使えば簡単ですよ。」と言われました。
さらに、大家さんに対して、「それで、こちらの主張の裏付けとなる部分は、どの部分ですか。」と聞くと、大家さんは、別の書類を出してきました。
この書類は、録音の中の特定の時間(たとえば、3時間26分18秒のところ)に、どんな発言があるかをピックアップしたものでした。大家さんは、「Chat GPT」に文字起こしをしたペーパーを読み込ませ、ある言葉について発言しているところをピックアップさせたと説明しました。
いくつか確認してみると、確かに、指摘されている特定の時間に、大家さんの主張に一致する発言がありました。
最初は、「証拠づくりも便利になったもんだな。」と思いました。
しかし、よく考えてみると、反訳アプリの正確性には限界があり、発言者の発音によって、実際に発した言葉と違う言葉となっていたり、漢字を間違っていたりしていて、そのまま使うことはできません。
また、Chat GPTにピックアップさせた部分についても、確かに、その部分だけ切り取って見ると、こちらの主張に一致する発言がありますが、会話の中での言葉の意味の解釈というのは、前後の流れによって変わってきますので、Chat GPTがピックアップした部分だけを鵜呑みにすることはできません。
しかも、Chat GPTがピックアップしたのは、あくまで「こちらの主張に一致する発言」ですので、相手の主張と一致する発言の確認もしなければなりません。
35年前、私が弁護士になったばかりのとき、先輩弁護士から、「証拠として提出する書類は、隅から隅まで読め。こちらに有利なことだけではく、相手方に有利なことが書いてあり、それが決定的な証拠になることがあるから」と言われたことがあります。
そんなことをいろいろ考えていると、結局、大家さんが持ってきた録音の文字起こしを使うには、さまざまな確認作業が必要になるという結論になりました。
このように、AIの普及は、まだ弁護士の作業をそれほど楽にしてくれないようですが、さらに、AIの普及は、写真や動画などの信用性を失わせ、弁護士の作業を面倒にしている面もあります。
今までは、写真や動画などは、証拠の価値としては、鉄板と言ってもいいものでした。例えば、不倫の証拠としては、特定の2人がホテルから出てくる写真や動画は決定的なもので、これが提出されたら、ゲームオーバーでした(ホテルの中で「打ち合わせをしていた」と言っている人もいますが、誰も信じません)。
しかし、AIの普及した今、よくYouTubeやInstagramなどのSNSを見ていると、「これ、本当なの?」という画像がたくさん出てきます。
例えば、先日見たInstagramでは、銀座の街角で、いろいろな人に、同じ質問をして答えを聞く動画がありましたが、その動画の最後の部分で、質問に答えていた人たちは、全てAIが作った動画で、実在の人ではないという説明がありました。
こんな動画が作れるとすると、もはや何でも作れるということですので、写真や動画の信用性は、どんどん失われていくことになります。
イタチごっこかもしれませんが、今後は、写真や動画が本物かどうかを見極める技術やその鑑定士というのが、出てくるのではないでしょうか。
また、弁護士も、こうした新しい技術についての知識に追いついていかなければなりません。
新年度からは、全ての裁判が、原則としてWebで行われ、また、弁護士は、訴状、準備書面、証拠などを、Webで提出しなければならないことになります。
もちろん、既に顧問先企業との打ち合わせは、全てWebですし、書類のやり取りも、ほぼセキュリティのかかったクラウドを使って行っていますので、上記の裁判制度の変化は、当たり前のことであり、むしろ遅いのかもしれません。
このように、これからの弁護士は、IT化への対応に加え、AIなどの新しい技術の習得も必要となりますので、60代後半のおじいちゃん弁護士としては、なかなか辛いところです。
今年は、このコラムが最後となります。
1年間ありがとうございました。
よいお年を!
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。







