

賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
勝手に捨てたら違法? マンション共用部のゴミの放置と大家の対応
先日、家内の実家の庭の落ち葉掃除をしていたところ、家内が、「こんなに沢山の落ち葉があると、捨てるのが大変。落ち葉が全部食べられるものなら良かったのに。」と言っていました。
「またよく分からないことを言っているなぁ」と思って聞いていましたが、エコの時代ですので、こういう発想も大事なのかもしれません。
そういえば、15年くらい前に担当した事件に、豆腐屋が捨てるおからと土木業者が捨てる木材を粉砕したおがくずを混ぜて有機肥料を作っていた男性が、廃棄物処理法違反事件に問われた事件がありました。
捨てるおからと捨てるおがくずを合わせて有機肥料を作るというのは、素晴らしい発想ですが、廃棄物処理業者の許可を受けていないのに、廃棄物であるおからを、対価を得て受け取った(簡単に言うと、お金をもらってゴミを受け取った。)ということで、廃棄物処理法違反となってしまったのです。
ユニークな発想は大事ですが、それを現実化するのは、なかなか難しいものです。
さて、今回は、共用部にあるゴミの廃棄の問題です。
先日、知り合いの大家さんであるAさんから、こんな相談がありました。
Aさんの所有する3階建のマンションの階段に、2階に入居者のBが、いらなくなった家具等を置きっ放しにしているので、何度もBに片付けるように言ったが、なかなか片付けてくれない。
他の入居者が階段を通行するときに邪魔になるし、災害時に避難の障害にもなるので、もう一度注意してもBが片付けなかったら、Aさんが捨ててしまってもよいか。
我が国では、自力救済は禁止されています。
自力救済というのは、民法その他の法律で権利を有する者が、裁判等の司法手続をとらないで、自己の権利を実現することです。
このケースの場合、Aさんの所有するマンションの階段はマンションの共用部ですから、Aさんに建物所有者として管理権限があり、また、Aさんは、賃貸人として、賃貸借契約に基づいて、Bに対して、共用部である階段に放置しているゴミを撤去するよう請求する権利があります。
しかし、Aさんが、Bが階段に放置している家具を強制的に捨てるには、原則として、裁判等の司法手続をとらなければならず、Aさんが司法手続を取らずに勝手に捨てると、自力救済として違法行為になってしまいます。
ですから、このケースでも、Aさんは、原則として、Bを被告として、階段にある家具を撤去するように請求する訴訟を起こし、判決を得て、この判決に基づいて家具を撤去しなければなりません。
しかし、よく考えてみると、悪いのはBであり、Aさんが、再三注意していることや階段に物を置くと災害等の際に避難の障害となり、場合によっては重大な結果を招く恐れがあることを考えると、裁判を起こさなければ撤去できないというのも、一般常識からすると腑に落ちないところがあります。
そこで、過去の裁判例を調べてみたところ、昭和63年の横浜地方裁判所の判決に、次のようなものがありました。
この事件の事案は、アパートの賃借人が、2か月以上にわたって賃貸人に断りもなくアパートの廊下に荷物を放置し、賃貸人が口頭や書面で何度も荷物の整理を要求したのに、これに応じず、最終的には、賃貸人が猶予期限付きで荷物の整理を求め、応じない場合は賃貸人が片付ける旨を警告した書面を送り、この猶予期間が経過した後に、賃貸人が荷物を撤去したというものでした。
また、この事案で、賃貸人が撤去した荷物は、不要といってよいものであり、その量もそれほど多いものではありませんでした。
この賃貸人の行為について、横浜地方裁判所は、「以上のような共用部分たる本件動産設置場所についての原告ら(入居者)側による違法な使用状態、これを是正するために催促ないし警告を重ねた被告(賃貸人)の行為態様及び右警告後に片付けられた対象物件の価値の乏しさと量の少なさ等を勘案すると、被告(賃貸人)による本件持去行為は自力救済禁止の原則に形式的には反する面があるものの、実質的には社会通念上許容されるものとして違法性を欠くと解するのが相当である。」
このように、賃借人の行為があまりに悪質で、賃貸人が再三警告をした上で自ら共用部の荷物を撤去した場合には、撤去した荷物が少量で価値のないものであるときは、例外的に、自力救済に該当しても違法性がないと判断されることもあります。
こういうとき、弁護士としては、「それは違法ですが、こういう裁判例もあるので、最終的には、Aさんが判断してください。」とアドバイスすることになります。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。







