

相続の税務や贈与について、遺産を分割する場合に注意すべきこと、法人税など他の税法との関連、税務署の調査官の考え方などにも言及した実務アドバイスです。
相続税の対策と効果
―どうしよう。力を貸してほしいの。相続税の対策をしなきゃならないみたい。あなたしか、頼れないのよ。
―突然、どうしたの?
―インターネットで調べても、やれ「土地を売れ」、なんて書いてあったかと思うと、「タワマンを買え」とか、「精算課税をしなさい」とか、「借金をする方がいい」とか。
もう、何が何だか混乱しちゃって。
―節税対策はいいけど、どの方法が良いかは、まず相続税の仕組みを知ってからでないと効果は期待できなくてよ。
―1円でも早く減らせれば、それでいいんじゃないの…?
―むやみに財産が減ればいいってものじゃないからなの。財産を同じ額減らせたとしても、それによる相続税の税額への効果は全然違うの。
大きな税額を減らせるのなら、大掛かりな対策も出費も検討する意味はあると思うわ。でも、減税効果よりも弊害の方が大きいこともあるから、手あたり次第っていうのは、お勧めできないわ。
「相続税」がかからないように。
これを目標にしておられる方も時々いらっしゃいます。
でも、理想を言うと、人生100年だとすれば蓄えもあるほうがいい。自宅も、施設入居費も温存しておきたい。
これらを合計すると、相続税の基礎控除額である『3,000万円+600万円×法定相続人の数』なんて、あっという間に超えてしまいます。
それでは何を目指しましょう。
基礎を理解していなければ、作戦の立てようもありません。
将棋の戦法はいろいろありますが、まずは、駒の動かし方を知らなければなりません。
居飛車も振り飛車も角換わりもはじまらないのです。(私、実は「観る将」です。)
まず、上のチャートになっている図から。左から右に矢印に従って進んでいきます。
1 相続税は、相続財産を把握するところから始まります。
遺産+みなし相続財産(*死亡保険金や死亡退職金)+贈与加算分-債務・葬式費用
*法定相続人数×500万円の非課税を控除したあとのもの
2 1の金額が基礎控除額を超えるかどうかの判定をします。
基礎控除以下の場合は、非課税です。相続税はかかりません。原則、申告も不要。
基礎控除を超えた部分が「課税遺産総額」となります。
3 次に、相続税がかかる場合は、まず基準となる「相続税の総額」を計算します。
遺産に対して、全員で負担すべき税金を決めるためです。
2の「課税遺産総額」を法定相続分で分けるのですが、これは、「相続税の総額」を計算するための公式のようなものですので、実際の分け方とは違う仮のものと思ってください。
各人の金額に対して、定められた税率により税金を計算します。
上図の場合は、配偶者1/2、子供1/4で2人分、3人分の税額を各々計算します。
その3人分の算出された税額を合計したものが「相続税の総額」になります。
やっと「相続税の総額」が決まりました。
4 今までの計算は、「相続税の総額」を決めるためだけのものでした。ここからは、切り替えて各人の納付税額を計算していきます。
各人の相続税は、実際に遺産を相続した割合で、「相続税の総額」を負担することになります。
遺産を全部一人で相続したら、「相続税の総額」を全額負担します。もちろん法定相続人であっても、なにも相続しなければ相続税は「0」になります。
遺贈された受遺者もここから、登場して相続税の割り当て分を計算します。
5 更に、税額控除である「配偶者の税額軽減」や「障害者控除」「未成年者控除」などを個別に受けることができます。
また、兄弟姉妹や甥・姪、相続人でない受遺者などは、2割の税額が加算されます。
特例などがありますが、概ねこの流れで各人が納付する税額が決まるのです。
一度にこの仕組みを全部理解するのは難しいですが、相続税の流れを知ることで、その対策がどの部分に効くのかも理解しやすくなります。
次のポイントは、下側の図です。
上記の3で「相続税の総額」を計算するために、法定相続分で分けた後の税額計算の税率を図にしたものです。
この図を積み木(札束かも?)と思ってみてください。
赤い部分が相続税なのですが、10%から55%まで、すごい「超過累進税率」であることがわかります。
もう一つ分かることがあります。
たとえ、6億を超えている人でも、すべての財産に55%が課税されているわけではないということです。
その中には、10%の部分も、15%の部分もあり、それを合計した赤い部分が相続税なのです。
相続対策で、減っていくのは、上の積み木からです。
ということは、ご自分の積み木がどこまであるかで、節税の効果は全く違うことがお分かりになるでしょう。
同じ、1,000万円の対策でも、税金に換算すれば、550万円(55%)もの節税になる場合もあれば、100万円(10%)しかないこともあります。
もちろん、相続対策を合法的に進めていくことは重要なことだと思います。特に富裕層の方々は。
けれども、大多数の普通の人々が、その富裕層のためのネットにあふれる情報に、手あたり次第に飛びつくのはいかがなものでしょう。
多くの対策には、費用が必要なものや、リスクがあるもの、生活のスタイルを変えなくてはならないものまであります。
本当にそこまでする必要があるのか。どれだけの効果があるのか。ご自分やご家族の今の生活はもちろん、将来を見据えて考える必要があります。ライフスタイルによっても大きく違いますから、オーダーメイドで考えなくてはならないことなのです。







