2025年路線価から読み解く不動産市場の現状と今後
4年連続で全国平均の地価が上昇し、上昇幅が拡大
国税庁から発表された2025年の路線価では、標準宅地の変動率が全国平均で前年比2.7%の上昇となりました。上昇は4年連続となり、上昇幅は前年の2.3%から0.4%拡大しています。
路線価は毎年1月1日時点で調査される公示地価に基づいて国税庁が発表するもので、相続税や贈与税を算定する基準とされます。道路に面する一連の宅地の地価を算出するため、道路ごとに1㎡当たりの土地の価格を定めています。
都道府県別の平均値では東京都の上昇率が8.1%で最も高く、上昇幅は前年より2.8%拡大しました。昨年1位の福岡県は上昇幅が0.2%拡大しましたが、上昇率では沖縄県にも抜かれて全国3位でした。全国では昨年より6県増えて35都道府県で上昇しています。
今回の路線価の動向について、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の髙橋雅之さんは以下のように分析しています。
「全国的に地価の上昇傾向は続いていますが、特に富裕層やインバウンドのニーズが高いエリアで上昇が強まっている印象です。人口増加が今後も続く東京都心部や、万博を契機に開発が進む大阪中心部などが典型的でしょう。一方で札幌市をはじめ、仙台市や広島市などこれまで地価の上昇が進んでいたエリアで割高感が強まり、インバウンド需要も限られることから上昇が鈍化する動きも見られます」
神奈川県と千葉県は4%台の高い上昇率に
首都圏では平均上昇率が全国1位の東京都のほか、神奈川県と千葉県が4%台の高い上昇率となり、いずれも上昇幅が拡大しました。埼玉県は2.1%の上昇で前年と同じ上昇率です。
都道府県庁所在地の最高路線価では東京都中央区の銀座中央通り(鳩居堂前)が40年連続で全国トップとなり、前年比プラス8.7%と3年連続で上昇しました。さいたま市の大宮駅西口駅前ロータリー(11.9%)と千葉市の千葉駅東口駅前広場(11.2%)は、ともに2年連続で二桁の上昇率です。
「東京にヒト・モノ・カネが集まる流れを受けて、周辺3県の地価も上昇しやすい状況です。地価に割安感がある千葉県ではインバウンド(訪日外国人)効果で成田空港やディズニーランド周辺の住宅地などで大きく上昇しており、神奈川県は湘南エリアなど西部エリアで居住ニーズが高まっています。一方、埼玉県はマンションよりも一戸建てのニーズが比較的高い傾向があり、上昇率の高まりは限定的です」(髙橋さん)
大阪市や京都市の中心部はインバウンドが地価を押し上げ
近畿圏では大阪府が4.4%上昇したほか、京都府が3.7%、兵庫県が2.0%といずれも上昇し、上昇率が拡大しました。大阪府と京都府は4年連続、兵庫県は3年連続の上昇です。
都道府県庁所在地の最高路線価では、京都市の四条通が10.6%と二桁の上昇となり、神戸市の三宮センター街も9.8%の高い上昇率でした。大阪市の御堂筋も3.2%上昇しましたが、上昇率は前年(5.4%)より2.2%縮小しています。
「京都市は富裕層やインバウンドのニーズが高まっており、中心部では地価も大きく上昇しています。大阪市は梅田周辺で上昇率の鈍化が見られますが、ミナミなどではインバウンド需要で高い上昇率となっているエリアがあります。大阪市中心部では大規模なタワーマンションの開発も進んでおり、収益性が高まっていることから、投資マネーの流入も活発です。万博が終わった後もなにわ筋線の開業やカジノ構想などが控えており、ヒト・モノ・カネの好循環が継続するでしょう」(髙橋さん)
名古屋市は上昇が頭打ち。福岡市は中心部で上昇が鈍化
愛知県の平均変動率は2.8%上昇しましたが、上昇幅は前年より0.4%縮小しました。また、名古屋市の最高路線価である名駅通りは前年比横ばいとなっています。
「東京や大阪に比べて名古屋はインバウンドや富裕層の需要が取り込めておらず、リニア中央新幹線の開業延期や建築費の高騰なども重なって上昇が頭打ちとなっています。これまでは自動車産業の業績が堅調なことから三河エリアなどで住宅ニーズが高まっていましたが、トランプ関税の影響もあって今後は不透明感が強まるでしょう」(髙橋さん)
福岡県の平均変動率は6.3%上昇し、上昇幅は前年より0.2%拡大しました。福岡市の最高路線価である渡辺通りも2.5%上昇しましたが、上昇幅は1.9%縮小しています。
「福岡市の中心部では『天神ビッグバン』や『博多コネクティッド』などの再開発が進んでいますが、建築費や物価の高騰の影響もあり地価上昇の勢いは鈍化しています。とはいえ、福岡市の人口が増えていることもあり、インバウンドだけでなく他県からの日本人の流入による住宅ニーズが高く、周辺エリアも含めた県全体としては高い上昇率です」(髙橋さん)
建築コストや物価の上昇が地価に影響するケースも
全般的に地価上昇の動きは続いており、東京都や大阪府、福岡県など平均の上昇率が高まっているエリアも少なくありません。東京都心やさいたま市・千葉市・京都市などでは中心部で高い上昇率を維持している一方、名古屋市や大阪市、福岡市の中心部では上昇率が鈍化するなど、都市によって異なる動きも見られます。今後の地価の動向について、髙橋さんは次のように予測しています。
「東京都心や大阪市中心部の不動産には富裕層やインバウンドによる投資マネーの流入が続いており、地価上昇の動きは続くと見ています。今後、日米の金利差が縮小して為替が円高に進むとマネーの流れが変わる可能性もありますが、130円台後半ぐらいにとどまればさほど大きな影響にはならないでしょう。一方、地方都市などでは建築コストの高騰で再開発計画が頓挫したり、物価上昇で消費者のマインドが冷え込む影響が少しずつ出始めているようです。米国のトランプ政権による高関税政策の影響が実体経済に与える影響にも注意が必要でしょう」
今のところ地価上昇のトレンドは続いていますが、今後は日米の政策金利の動きや、景気の先行きも注視していく必要がありそうです。
(データ提供:東京カンテイ)








