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時代の先端をゆく蒲田

江戸時代に「梅屋敷」が開設された蒲田では、明治後期に「蒲田菖蒲園」が開かれ行楽地としての賑わいを見せ始める。大正期に「松竹」の「蒲田撮影所」が開所すると、映画関係者が集まる憧れの街となり、日本初の試みをする工場なども続々と開設。時代の先端をゆく街として、多くの人々が集まるようになった。


1902(明治35)年に開設された「蒲田菖蒲園」 MAP __

1902(明治35)年、現在の「大田区立蒲田小学校」付近に広さ約1万坪の「蒲田菖蒲園」が開設された。菖蒲の花のほか四季に応じて牡丹、藤の花などが咲き、園内では鳥類や猿などが飼育され、遠方からの見物人や外国人も訪れるほど人気を博していた。1904(明治37)年、この菖蒲園の見物客のために「蒲田駅」が開業し、蒲田は行楽地として大いに賑わいを見せていくことになった。【画像は大正期】

「大田区立蒲田小学校」近くの「呑川」を渡る「菖蒲橋」の名称は「蒲田菖蒲園」に由来し、欄干にはあやめがデザインされている。

華やかさをもたらした「蒲田撮影所」 MAP __

1895(明治28)年に創業した「松竹」は、1920(大正9)年に「蒲田撮影所」を開所した。当時の蒲田には俳優や映画関係者も多く住み、『流行は蒲田から』といわれるほどの華やかさを誇った。無声映画だけでなくトーキー映画の制作もするようになったが、1931(昭和6)年の「満州事変」をきっかけに蒲田の周辺も軍事工業地化が進み、1936(昭和11)年に大船に移転。移転までの16年間で1,200本以上の映画を世に送り出した。【画像は昭和戦前期】

現在跡地には「大田区民ホール・アプリコ」が建っている。敷地内には1986(昭和61)年に制作された映画『キネマの天地』で使用された「松竹橋」(「蒲田撮影所」前に架かっていた橋を再現したもの)が残されている。

黒澤貞次郎が描いたユートピア「吾等が村」 MAP __

1914(大正3)年、銀座でタイプライターの販売・修理をする「黒澤商店」(現「クロサワ」)を経営していた黒澤貞次郎が、「蒲田駅」近くに国産タイプライターの工場用地として2万坪の土地を購入。渡米中に田園都市思想に感銘を受けた黒澤は、従業員とその家族の充実した日常生活の実現を目的とした理想郷を計画し、「吾等が村(おらがむら)」と名付け、自ら村全体の設計図をひいた。1916(大正5)年には工場が建設され、敷地内には順次従業員用の住宅や菜園、幼稚園、小学校などが設けられていった。画像は正門から見た工場外部。【画像は昭和戦前期】

現在は跡地の一部が「新蒲田公園」などになっている。


流行の発信地・蒲田

現在の「ニッセイアロマスクエア」の場所にあった「高砂香料株式会社」

現在の「ニッセイアロマスクエア」の場所にあった「高砂香料株式会社」。【画像は昭和初期】

大正期から昭和戦前期にかけて、蒲田は流行の発信地として多くの人々が集まった。モダンな街の象徴的な存在として知られるのが1920(大正9)年に開設された「松竹」の「蒲田撮影所」。現在JR「蒲田駅」の発車メロディとして使用されている『蒲田行進曲』は「蒲田撮影所」が10周年を記念して作った曲で、「花咲く蒲田 キネマの都……」と歌われるように蒲田には時代を彩った映画スターが集まり、「流行は蒲田から」と呼ばれるほどの活気と華やかさを誇った。

1916(大正5)年には国産タイプライター生産工場の「黒澤商店 蒲田工場」が建設され、社宅や幼稚園、小学校、テニスコートなどの施設を備えた先駆的な試みを行っていた。1919(大正8)年には黒澤と親交のあった大倉孫兵衛・和親父子が「大倉陶園」MAP __ を創業。1920(大正9)年には日本初の合成香料制作会社である「高砂香料」(現「高砂香料工業」MAP __ )が「蒲田撮影所」の隣接地で設立。他にも1921(大正10)年には日本初の船舶用ディーゼルエンジン工場である「新潟鐵工所 蒲田工場」MAP __ 、1932(昭和7)年には日本初のエレベータ一貫生産工場「東洋オーチス・エレベータ」MAP __ (現「日本オーチス・エレベータ」)、1934(昭和9)年には日本初のクリスタル専門工場「各務クリスタル製作所」MAP __ (現「カガミクリスタル」)など、日本のモノづくりを支える企業が続々と蒲田に進出した。

戦後は一早くヤミ市が誕生。昭和30年代には区画整理により現在の「蒲田西口商店街」MAP __ の前身もできた。この頃の蒲田の様子は2012(平成24)年に放送されたNHK朝の連続テレビ小説『梅ちゃん先生』にも描かれている。庶民に映画が流行すると、「蒲田駅」東口には映画館が軒を連ね、都内屈指の映画街となった。



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