傾斜している土地のことであり、そのままでは建築行為等による利活用が困難である場合があるほか、がけ崩れ等の災害に遭う危険性も高いため、法令上もさまざまな制限がある。
建築基準法では、同法第19条(敷地の衛生及び安全)第4項において、「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」と規定している。さらに、同法第40条で、地方の気候、風土の特殊性等に関して地方公共団体の条例による制限の付加が認められている。
また、斜面地を利活用するために必要な造成工事については、宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)および同法施行令において、宅地造成、崖(がけ)等について定義があり、一定の区画形質の変更について許可を要する等の規制がなされている。
さらに、建築基準法第39条の災害危険区域をはじめ、土砂災害防止対策推進法第10条の土砂災害警戒区域など、災害防止の観点から区域内での造成行為や建築行為等が制限されている場合がある。これらについては、宅地建物取引業法第35条により、取り引きの際の重要事項説明において、物件の所在が区域内であるかどうかや、具体的な行為制限の内容について業者側に説明義務が課されている。
なお、建築基準法上の容積率の算定に当たり、居住の用に供する地下室については、面積の3分の1を算入しないという規定がある(「地下室」参照)が、急な斜面地においては、斜面側の外壁が接地することから居室を地下室として扱うことが解釈上可能であり、これに依拠して斜面上で大規模なマンションを建設することが、特にバブル期において、東京都の多摩地方や、神奈川県、兵庫県など大都市圏の人口増加地域でさかんとなった(「斜面地マンション」「地下室マンション」)。災害発生の懸念や公共施設への負荷、景観上の問題などが発生することから、自治体側においても「がけ条例」「地下室マンション条例」等を相次いで制定する動きがあり、階数や地盤面の設定に関して厳しい規制が設けられるようになった。
斜面地における不動産取引については、その地形がもたらす制約のほか、多くの法令上の規制が存在することに留意する必要がある。
本文のリンク用語の解説
建築基準法
国民の生命・健康・財産の保護のため、建築物の敷地・設備・構造・用途についてその最低の基準を定めた法律。市街地建築物法(1919(大正8)年制定)に代わって1950(昭和25)年に制定され、建築に関する一般法であるとともに、都市計画法と連係して都市計画の基本を定める役割を担う。 遵守すべき基準として、個々の建築物の構造基準(単体規定、具体的な技術基準は政省令等で詳細に定められている)と、都市計画とリンクしながら、都市計画区域内の建物用途、建ぺい率、容積率、建物の高さなどを規制する基準(集団規定)とが定められている。また、これらの基準を適用しその遵守を確保するため、建築主事等が建築計画の法令適合性を確認する仕組み(建築確認)や違反建築物等を取り締まるための制度などが規定されている。 その法律的な性格の特徴は、警察的な機能を担うことであり、建築基準法による規制を「建築警察」ということがある。
宅地造成工事の許可
宅地造成工事規制区域内で一定の宅地造成工事に着手する前に必要な都道府県知事の許可。2022年に改正される前の「宅地造成等規制法」に基づく制度で、改正後の「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)」によって、宅地造成等工事規制区域内での宅地造成工事に対する許可制度に移行した。
改正後の許可の基準等は、おおむね改正前と同じである(詳細は「宅地造成等工事規制区域」を参照)。
土砂災害警戒区域
急傾斜地の崩壊等が発生した場合に住民等の生命または身体に危害が生ずる恐れがあると認められ、警戒避難体制を特に整備すべきとして指定される土地の区域をいう。
その指定要件、手続きなどは、土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)で定められている。
土砂災害は、急傾斜地の崩壊、土石流および地滑りによって生じるとされるが、土砂災害警戒区域については、高齢者、障害者、乳幼児等の災害時要援護者の利用する施設に対する情報伝達方法を定める、土砂災害ハザードマップを配付して周知を徹底するなど、警戒避難体制が整備される。
なお、宅地建物取引業務における重要事項説明に際しては、取引する宅地建物が土砂災害警戒区域にあるときには、その旨を説明しなければならない。
重要事項説明
宅地建物の取引において、宅地建物取引業者が取引当事者に対して契約上重要な事項を説明することをいう。
また、その際に、説明の内容を記載して当事者に交付する書面を重要事項説明書という。 重要事項説明を必要とするのは、宅地建物取引業者が自ら売主として取引する場合、および不動産取引を代理・媒介する場合であり、その説明は、売買契約や賃貸借契約を締結するよりも前に行なわなければならない。また、説明に当たるのは宅地建物取引士でなければならず、さらには、説明する重要事項をすべて書面に記載し、取引当事者にその書面(重要事項説明書)を交付する必要がある(相手方の同意を得たうえで電磁的方法で書面を交付し、IT(インターネット等)を用いた説明を行なうこともできる)。 説明を要する事項は、売買か賃貸かなどの取引内容に応じて異なるが、大きく分けて、
1.取引対象不動産の権利関係、2.取引対象不動産に係る法令上の制限、3.取引対象不動産の状態やその見込み、4.契約の条件
に関する事項とされている(詳細は必ず直接に法令(宅地建物取引業法第35条およびその関連法令)に当たって確認されたい。また、臨機に改正も予想されるので留意が必要である)。 重要事項説明は、不動産の特性や取引の形態に起因して取引当事者に不利益が発生することを防ぐための仕組みとされ、その適正な実施が強く求められている。
地下室
地階に設けた室のことである。
建築基準法では、床面から天井までの高さの3分の1以上が平均地盤面より下にある部屋を「地下室」と呼んでいる。
例えば、地下室の床面から地下室の天井までの高さが2.4mであるとすれば、地下室の床面から地盤面までの高さを80cm以上にすれば、法律上は「地下室」であるということになる。
このように、地盤面から見れば「やや下にある1階部分」のように見える場合でも、法律上は「地下室」ということになる。
ただし、地下室に関する容積率の優遇措置を受ける場合には、地下室の天井が地盤面の上に出ている高さが1m以下であることが必要である。この場合には、地下室の床面から天井までの高さが2.4mであるとすれば、地下室の床面から地盤面までの高さは140cm以上にしなくてはならない。つまり、天井高の半分以上が地盤面より下に埋まっている状態となる。
居室
居室とは「居住、作業、娯楽などの目的のために継続的に使用する室のこと」である(建築基準法第2条4号)。 この定義に従えば、一般の住宅の場合、居室とは「居間」「寝室」「台所」である。 その反対に、「玄関」「便所」「浴室」「脱衣室」「洗面所」「押入れ」「納戸」「廊下」は居室ではない。 なお建築基準法では、居住の目的のための居室については、採光に関する基準(建築基準法第28条第1項)と換気に関する基準(建築基準法第28条第2項)をクリアすることを必要としている。 ただし、居室として使用する地下室については採光の基準が適用されず、その代わりに衛生上必要な防湿の措置等を行なうことが必要とされている(建築基準法第29条)。
マンション管理業者
マンション管理業を行なう者であって、国土交通大臣の登録を受け、マンション管理業者名簿に登録された者を「マンション管理業者」という(マンション管理適正化法第2条第8号)。 マンション管理業者は、その事務所ごとに、30の管理組合の事務を委託されるごとに1名の割合で、専任の管理業務主任者を置く義務がある(マンション管理適正化法第56条)。 マンション管理業者は、管理組合と管理委託契約を締結する際には、契約締結前の重要事項説明を管理業務主任者に行なわせる義務がある(マンション管理適正化法第72条)。 また契約成立時に交付する書面(通常は管理委託契約書を指す)には、管理業務主任者が記名する必要がある。なお、紙の書面に代えて政令で定めるところにより電磁的交付をおこなうこともできることになっている。(マンション管理適正化法第73条)。
マンション管理業者は毎年、管理組合等に報告を行なう義務がある(マンション管理適正化法第77条)。