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取消し
読み:とりけし
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一定の法律行為を遡って無効にすることをいう。

行為が取り消されると、その行為は初めから効果がなかったとみなされる。

取消しが認められる行為は、制限能力者未成年者成年被後見人被保佐人・被補助者)の行為や、詐欺強迫によってした意思表示であり、取り消しできる者は本人等に限定される。行為が取消されると、例えば売買契約は無効であるから、目的物の取得や代金の収受は不当利得となり、返還の義務が生じる。この場合、制限能力者については、現に利益を受ける限度で返還すればよい(すでに費消したものなど、もはや現に利益をもたらしていないものは返さなくてよい)とされる。また、取消しの効果は第三者に対抗できる。ただし、詐欺による取消しについては善意の第三者には対抗できない。

なお、取り消すことのできる行為については、追認によって行為を有効に確定することができる。取消権は、追認をすることができるときから5年間行使しないとき、または行為の時から20年を経過したときは、時効によって消滅する。

「取消し」に対して、行為のときに遡らない無効の意思表示を「撤回」と呼んで区別する。

本文のリンク用語の解説

無効

法律行為がなされたときに、当事者が表示した意思のようには法律効果が生じないことをいう。 意思はあってもそもそも効果が生じないのであるから、法律行為は追認や時の経過によっても有効とはならない。また、原則として誰でも誰に対しても無効を主張できる。 無効となる法律行為としては、 1.公の秩序または善良の風俗に反する事項を目的とする行為(公序良俗違反) 2.法律によって効果が生じないとされている行為(強行規定違反) 3.虚偽の意思表示や錯誤による行為 などがある。ただし、虚偽の意思表示による無効については善意の第三者に対抗できないし、錯誤による無効については重大な過失があれば無効にならないなど、一定の例外がある。 例えば売買契約が無効であれば、当事者に請求権は発生せず(代金の支払いや目的物を引き渡す義務はない)、すでに事実行為がなされているときには、その回復を請求できる(不当利得として代金や目的物の返還を求めることができる)。もっとも、契約無効の原因が公序良俗違反であるときの代金の支払い等については、不法な原因による給付であるとして不当利得の返還を請求できないとされるなど、無効の原因や契約の事情に応じて不当利得の取扱いに違いがある。

制限能力者

行為能力を欠くために、単独で行なった法律行為を事後的に取り消すことが可能とされている者のこと。 具体的には、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人が制限能力者である。 制限能力者は、その保護者(法定代理人、成年後見人、保佐人、補助人)の同意がない場合には、有効に法律行為を行なうことができないとされている(同意を得ない法律行為は事後的に取り消すことが可能である)。

未成年者

民法上、満18歳の誕生日を迎える前の者をいう。 未成年者が契約をなすには、親権者または未成年後見人(「法定代理人」と総称する)がその契約に同意することが必要である。この同意を得ないで未成年者が契約をした場合には、未成年者はこの契約を取り消すことができる。 なお、2022年3月31日までは、婚姻をした者は、満20歳未満であっても「未成年者」でなくなる制度があった(成年擬制)。

成年被後見人

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる(民法第7条)。 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する(民法第8条)。 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する(民法第843条)。 こうした手続きにより後見人を付けられた者のことを「成年被後見人」と呼ぶ。 また、成年被後見人に付けられる後見人は「成年後見人」と呼ばれる。この「成年被後見人」の制度は、2000(平成12)年の民法改正によって創設されたもので、それ以前は「禁治産者」という名称であった。 成年被後見人は法律行為を有効に行なうことができないものとされているので、どんな法律行為でも原則的に後で取り消すことが可能である(ただし日用品の購入などは有効に自分で行なうことができる)(民法第9条)。 従って、成年被後見人との契約を行なうには、その成年後見人を代理人として契約を行なうべきである(民法第859条)。

被保佐人

精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる(民法第11条)。 家庭裁判所は、保佐開始の審判をするときは、職権で、保佐人を選任する(民法第876条の2)。 こうした手続きにより保佐人を付けられた者のことを「被保佐人」と呼ぶ。 保佐とは「たすける」という意味である。 この「被保佐人」の制度は、2000(平成12)年の民法改正によって創設されたもので、それ以前は「準禁治産者」という名称であった。 被保佐人は、財産に関わる重要な法律行為(不動産売買や不動産賃貸借など)を自分だけでは有効に行なうことができない。 こうした重要な法律行為を行なうには保佐人の同意が必要であり、もし保佐人の同意を得ないで重要な法律行為を行なった場合には、後でその法律行為を取り消すことが可能である。 ただし重要でない法律行為や、日用品の購入などは有効に自分だけで行なうことができる(民法第13条)。 従って、被保佐人との契約を行なうには、その保佐人の同意を必ず取得するべきである。

詐欺

詐欺とは、他人を騙すことにより、その者に誤った動機を抱かせることである。いい換えれば、詐欺とは他人を動機の錯誤に陥れることであるということができる。 詐欺により動機の錯誤に陥れられた者が、その錯誤にもとづいて意思表示を行なった場合には、その意思表示は取り消すことができる(民法第96条第1項)。 ただし、詐欺とは社会通念に反する違法性を帯びている場合に限られるので、例えば「この土地は値上がりするはずだ」と単に告げる程度では詐欺に該当しない。 また、詐欺と意思表示との間には因果関係が必要とされており、詐欺が動機を決定付けた場合にのみ、その詐欺にもとづく意思表示は取消しが可能なものとなる。 詐欺により法律行為が行なわれた場合に、詐欺があったことを知らない(=善意でかつ過失がない)第三者は原則的に保護されるべきである。民法では第96条第3項でこのような第三者を保護している(詳しくは詐欺における第三者保護へ)。 なお、詐欺は取引の当事者が行なう場合だけでなく、当事者以外の者が行なう場合もある。これは第三者詐欺と呼ばれ、民法第96条第2項が適用される(詳しくは第三者詐欺へ)。

強迫

他人に害悪を告知し、他人に畏怖を与えることにより、他人に真意に反した意思表示を行なわせようとする行為である。 (詳しくは強迫による意思表示へ)

意思表示

一定の法律効果を欲するという意思を外部に表示することである。 意思表示は次の3つの部分から構成されている。 1.内心的効果意思 具体的にある法律効果を意欲する意思のこと。例えば、店頭で品物を買おうと意欲する意思が内心的効果意思である。 2.表示意思 内心的効果意思にもとづいて、その意思を表示しようとする意思のこと。 例えば、店頭で品物を買うために、店員にその旨を伝えようとする意思である。 (なお、表示意思を内心的効果意思に含める考え方もある) 3.表示行為 内心的効果意思を外部に表示する行為のこと。 例えば、店頭で品物を買うために、店員にその旨を告げることである。 なお、内心的効果意思のもととなった心意は「動機」と呼ばれる。例えば、品物を家族にプレゼントしようという意図が「動機」である。しかし、現在は判例・通説では「動機」は原則として、意思表示の構成要素ではないとされている。

売買契約

当事者の一方が、ある財産権を相手方に移転する意思を表示し、相手方がその代金を支払う意思を表示し、双方の意思が合致することで成立する契約のこと(民法第555条)。 売買契約は諾成契約とされている。つまり、当事者の双方が意思を表示し、意思が合致するだけで成立する(財産が引き渡されたときに成立するのではない)。 また、売買契約は不要式契約なので、書面による必要はなく口頭でも成立する。 さらに、売買契約は財産権を移転する契約であるが、その対価として交付されるのは金銭でなければならない(金銭以外の物を対価として交付すると「交換契約」となってしまう)。 当事者の双方の意思の合致により売買契約が成立したとき、売主には「財産権移転義務」が発生し、買主には「代金支払義務」が発生する。両方の義務の履行は「同時履行の関係」に立つとされる。

追認

効果のない法律行為について、その効果を生じさせる意思表示をいう。 一定の場合にのみ認められる(通常は、新たな法律行為が必要である)。 その場合とは、次の4つである。 1.無権代理人の法律行為について、本人の意思表示で本人について効果が生じる。 2.無効の法律行為について、当事者が無効であると知ったうえで追認すれば、そのとき新たな行為をしたとみなされる。 3.取り消すことのできる行為を一方的な意思表示によって確定的に有効とする。 4.訴訟能力等を欠いている場合の訴訟行為について、能力を得た後の追認によって行為のときに遡って効力が生じる。

時効

ある事実状態が一定期間継続した場合に、そのことを尊重して、その事実状態に即した法律関係を確定するという制度を「時効」という。 時効は「取得時効」と「消滅時効」に分かれる。取得時効は所有権、賃借権その他の権利を取得する制度であり、消滅時効は債権、用益物権、担保物権が消滅するという制度である。 時効は時間の経過により完成するものであるが、当事者が時効の完成により利益を受ける旨を主張すること(これを援用という)によって初めて、時効の効果が発生する。 また、時効の利益(時効の完成によって当事者が受ける利益)は、時効が完成した後で放棄することができる。これを時効利益の放棄という。 また時効は、時効の完成によって不利益を受ける者が一定の行為を行なうことにより、時効の完成を妨げることができる。これを時効の更新という。