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水質汚濁防止法
読み:すいしつおだくぼうしほう

公共用水域(河川・湖沼・沿岸等)および地下水の水質汚染を防止するために、1970(昭和45)年に制定された法律のこと。特に、1989(平成元)年に地下水に関する規定が追加されて以降は、この法律が地下水汚染に関して中心的な役割を担っている。

水質汚濁防止法の概要は次のとおり。

1.生活環境に被害を生ずる恐れがあるような汚水等を排出し、または有害物質を使用する等の理由により、水質汚染を招く危険のある施設を「特定施設」と定義する(水質汚濁防止法第2条)。
2.特定施設を設置する工場・事業場等を「特定事業場」と定義する(同法第2条)。
3.特定施設を設置する者・使用廃止する者に特定施設設置等の届出を義務付ける(同法第5条等)。
4.特定事業場に、排水基準の遵守を義務付ける(同法第3条)。
5.指定地域内の特定事業場に、水質汚濁の総量規制を実施する(同法第4条の5)。
6.特定事業場に、排出水および特定地下浸透水の汚染状態の測定を義務付ける(同法第14条)。
7.有害物質を使用する特定事業場において、特定地下浸透水が有害物質を含んでいるとき、その特定地下浸透水を地下に浸透させることを禁止する(同法第12条の3)。
8.上記7.に違反して、特定事業場の事業者が、有害物質を含む特定地下浸透水を地下に浸透させた場合において、都道府県知事は地下水の水質浄化を命令することができる。これを地下水の水質浄化の措置命令という(同法第14条の3、同法施行規則第9条の3、同法施行規則別表)。
9.都道府県知事に地下水の水質を常時監視することを義務付けた。これにより1989(平成元)年以降、毎年全国の約1万2,000の井戸について水質調査が実施されている。これを地下水モニタリングという(同法第15~17条)。
10.工場・事業場から有害物質を含む水を排出し、または有害物質を含む水を地下に浸透させた場合には、工場・事業場の事業者に過失がなくても、工場・事業場の事業者に健康被害の損害賠償の責任を負わせる(同法第19~第20条の3)(詳しくは「地下水汚染の無過失責任」へ)。

有害物質(水質汚濁防止法における~)

水質汚濁防止法において、人の健康に被害を生ずる恐れが大きい物質として指定された28種類の物質。 このうち、25種類の物質は土壌汚染対策法の特定有害物質にも該当する。 なお、ダイオキシン類については、ダイオキシン類対策特別措置法において排出基準が定められているので、水質汚濁防止法の有害物質からは除外されている。 指定されている有害物質は次のとおりである。 1 カドミウム及びその化合物2 シアン化合物3 有機燐りん化合物(ジエチルパラニトロフエニルチオホスフエイト(別名パラチオン)、ジメチルパラニトロフエニルチオホスフエイト(別名メチルパラチオン)、ジメチルエチルメルカプトエチルチオホスフエイト(別名メチルジメトン)及びエチルパラニトロフエニルチオノベンゼンホスホネイト(別名EPN)に限る。)4 鉛及びその化合物5 六価クロム化合物6  砒ひ素及びその化合物7 水銀及びアルキル水銀その他の水銀化合物8 ポリ塩化ビフェニル9 トリクロロエチレン10 テトラクロロエチレン11 ジクロロメタン12 四塩化炭素13 1・2―ジクロロエタン14 1・1―ジクロロエチレン15 1・2―ジクロロエチレン16 1・1・1―トリクロロエタン17 1・1・2―トリクロロエタン18 1・3―ジクロロプロペン19 テトラメチルチウラムジスルフイド(別名チウラム)20 2―クロロ―4・6―ビス(エチルアミノ)―s―トリアジン(別名シマジン)21 S―4―クロロベンジル=N・N―ジエチルチオカルバマート(別名チオベンカルブ)22 ベンゼン23 セレン及びその化合物24 ほう素及びその化合物25 ふつ素及びその化合物26 アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物及び硝酸化合物27 塩化ビニルモノマー28 1・4―ジオキサン

特定施設(水質汚濁防止法における~)

有害物質を排出しまたは生活環境に被害を生ずる恐れがあるような汚水等を排出する施設であって、水質汚濁防止法施行令で指定された施設のこと。全部で102種類の施設が特定施設とされている。 環境省の調べ(2022(令和4)年度)によると、こうした特定施設を設置している工場・事業場等(「特定事業場」という)の数は、全国で25万強(瀬戸内海法に基づくものを含む)にのぼる。 業種・施設別に見ると、多い順に、旅館業(6万超)、自動式車両洗浄施設(3万超)、畜産農業(2万超)であり、上位10業種・施設で約4分の1を占めている。 なおこうした特定施設のうち、土壌汚染対策法で定める特定有害物質を使用する施設は有害物質使用特定事業場と呼ばれ、全国で約1万7,500ヵ所と推計されている。

特定施設設置等の届出(水質汚濁防止法における~)

有害物質を排出し、または生活環境に被害を生ずる恐れがあるような汚水等を排出する施設であって、水質汚濁防止法施行令第1条で指定された102種類の施設のことを「特定施設」という。 環境省の調べによると、こうした特定施設を設置している工場・事業場等(「特定事業場」という)は、全国で約25万ヵ所にのぼるとされている。 こうした特定施設を設置等しようとする事業者については、水質汚濁防止法により次のような届出義務が課せられている(同法第5条・第10条)。 1.工場・事業場から公共用水域(河川等)に水を排出する者は、特定施設を設置しようとするときは、事前に都道府県知事に汚水等の処理の方法や排出水の汚染状態および量などを届け出なければならない。ただし公共下水道等に水を排出する場合には、この届出義務は免除される(同法第2条第1項)。 2.有害物質を使用する特定施設において水を地下に浸透させる者は、特定施設を設置しようとするとき、汚水等の処理の方法などを事前に都道府県知事に届け出なければならない。 3.特定施設の使用を廃止した事業者は、使用廃止後30日以内に都道府県知事に使用廃止の届出を行なう必要がある。

排水基準

排出水に含まれることが許容される有害物質等の濃度に関する基準。水質汚濁防止法に基づき命令(排水基準を定める省令)で定められている。 排水基準を満たしているかどうかを監視するため、水質汚濁防止法は、有害物質や生活環境に被害を生ずる恐れがあるような汚水等を排出する施設を「特定施設」として指定し、これを設置する事業者について、次の義務を課している。 1.特定施設を設置する際に、事業者が事前に都道府県知事に特定施設設置等の届出を行なうことを義務付け、その届出において報告する事項により、排水基準を満たす構造等を備えていることを確認する。2.特定施設を設置する事業者に対して、排出水および特定地下浸透水の汚染状態の測定を義務付け、排水基準を遵守していることを記録させる。

排出水および特定地下浸透水の汚染状態の測定

水質汚濁防止法で指定された「特定施設」を設置している工場・事業場等(特定事業場)の事業者に課せられている測定義務。測定しなければならないのは、排出水および特定地下浸透水の汚染状態で、測定結果は保存しておかなければならない 汚染状態の測定の方法は次のとおりである。 1.排出水の汚染状態の測定は、排水基準に定められた事項について、当該排水基準の検定方法により行なうこと。2.特定地下浸透水の汚染状態の測定は、有害物質の種類ごとに環境大臣が定める方法により行なうこと。3.測定の結果は、水質汚濁防止法施行規則で定める水質測定記録表により記録し、その記録を3年間保存すること。

特定地下浸透水

水質汚濁防止法は、人の健康に係る被害を生ずる恐れがある有害物質または生活環境に被害を生ずる恐れがある汚染水を排出する施設を政令で指定し、これらの施設を「特定施設」としている。 「特定地下浸透水」とは、有害物質を使用する特定施設を設置する工場・事業場から地下に浸透する水である。 有害物質を含む可能性があることから、有害物質を使用する特定施設を経営する事業者に対しては、排出水および特定地下浸透水の汚染状態の測定が義務付けられている。 また、特定地下浸透水が有害物質を含んでいるとき、その特定地下浸透水を地下に浸透させることが禁止されており、これに違反して事業者が有害物質を含む特定地下浸透水を地下に浸透させたときには、地下水の水質浄化の措置命令が出される場合がある。

地下水の水質浄化の措置命令

特定施設を設置する工場・事業場が、有害物質を含む水を地下へ浸透させたことにより、健康被害の恐れが生じたとき又は生ずるおそれがあると認めるときは、都道府県知事は相当の期限を定めて、地下水の水質の浄化のための措置をとることを事業者に命令することができる(水質汚濁防止法第14条の3)。この命令を「地下水の水質浄化の措置命令」と呼ぶ。 この地下水の水質浄化の措置命令は、平成8年の水質汚濁防止法の改正により新設された制度であり、1997(平成9)年4月1日から施行されている。

地下水モニタリング(水質汚濁防止法の~)

水質汚濁防止法によって都道府県知事が毎年度実施している地下水質の測定調査をいう。 この地下水モニタリングは、土壌汚染対策法に定める土壌汚染状況調査を実施する対象となる土地を確定するうえで重要な役割を担っている(詳しくは「健康被害が生ずる恐れのある土地の調査」)。 この地下水モニタリングは、次の3種類の調査で構成され、その結果は毎年公表されている。 1.概況調査 各地域の地下水質の状況を把握するための井戸の水質の調査。原則として前年度の対象井戸とは異なる井戸を調査する。 2.汚染井戸周辺地区調査 概況調査等によって発見された地下水汚染がある場合に、その汚染範囲の拡大・縮小を確認するために行なわれる調査。 3.継続監視調査 汚染井戸周辺地区調査により水質汚染が確認された地域に関して、汚染を継続的に監視するために行なう水質の調査。

損害賠償

違法行為によって損害が生じた場合に、その損害を填補することをいう。 債務不履行や不法行為などの違法な事実があり、その事実と損害の発生とに因果関係があれば損害賠償義務を負うことになる。その損害は、財産的か精神的かを問わず、積極的(実際に発生した損害)か消極的(逸失利益など)かも問わず填補の対象となる。 ただし、その範囲は、通常生ずべき損害とされ、当事者に予見可能性がない損害は対象とはならない(相当因果関係、因果の連鎖は無限に続くため、予見可能性の範囲に留めるという趣旨)。 損害賠償は原則として金銭でなされる。また、損害を受けた者に過失があるときは賠償額は減額され(過失相殺)、損害と同時に利益もあれば賠償額から控除される(損益相殺)。 なお、同じように損害の填補であっても、適法な行為(公権力の行使)によって生じた不利益に対する填補は、「損失補償」といわれて区別される。

地下水汚染の無過失責任

水質汚濁防止法では、特定の有害物質を含む水の排出や地下への浸透により、人の生命・身体に損害を与えた場合には、事業者に過失がない場合であっても、事業者に損害賠償の責任を負わせることとしている(水質汚濁防止法第19条~第20条の5)。 この無過失責任を定めた規定が適用される場面としては、有害物質を使用する工場・事業場が有害物質を含む水を公共用水域(河川・湖沼・沿岸等)に排出した場合と、地下に浸透させた場合がありうるが、公共用水域への水の排出により健康被害が発生する状況は今日ではほとんどないと考えられるので、主に地下への浸透により地下水が汚染された状況においてこの無過失責任の規定が実際に適用されると考えることができる。 この水質汚濁防止法の無過失責任の規定において重要な点は次のとおりである。 1.事業者に過失がなくても事業者に損害賠償責任が発生する。従って、被害を受けた者は、有害物質を含む水の地下への浸透と健康被害との間の因果関係を立証すれば、損害賠償を請求することが可能になる。ただし汚染発生源から離れた場所において、地下水の移動により健康被害が発生した場合には、この因果関係の立証は困難になるケースが多いと思われる。 2.水質汚濁防止法の無過失責任の規定は、健康被害についてのみ適用がある。従って地下水の汚染により土地の価格が低下する等の財産上の損害については、水質汚濁防止法は適用されないので、通常どおり民法の不法行為責任(民法709条以下)を追及することとなる。 3.有害物質とは、水質汚濁防止法に定める物質に限定されている(詳しくは「有害物質」へ)。従って、それ以外の物質による健康被害については通常どおり民法の不法行為責任(民法709条以下)を追及することとなる。