「形態」という語から、建築物の「『かたち』を制限するもの全般」として、建築基準法上の容積率や建蔽率、高さ制限、日影規制など、外形上の規制の総称する語として「形態制限」を用いる場合がある。
しかし、法令における用語の例を見ると、「都市計画法」、「幹線道路の沿道の整備に関する法律」および「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」等の地区整備計画に関する規定において「建築物等の形態又は色彩その他の意匠の制限」という用語が用いられている(例えば都市計画法第12条の5第7項第2号)。これらはいずれも容積率や建蔽率と並列して掲げられており、つまりは別の概念である可能性が高い。
また、「景観法」等において、「建築物の形態意匠の制限」「形態又は色彩その他の意匠(以下「形態意匠」という。)の制限」との用語があり、これらは単に外形的な規制全般の総称としてではなく、デザインないし美的な観点を含む趣旨で用いられているものと考えられる。
従って、今のところ、一般的に建築物の外形に関わる規制全般を示す場合と、法令において特に形態意匠に関わる制限を示す場合の二通りがあると考えるべきである。
建築基準法
国民の生命・健康・財産の保護のため、建築物の敷地・設備・構造・用途についてその最低の基準を定めた法律。市街地建築物法(1919(大正8)年制定)に代わって1950(昭和25)年に制定され、建築に関する一般法であるとともに、都市計画法と連係して都市計画の基本を定める役割を担う。
遵守すべき基準として、個々の建築物の構造基準(単体規定、具体的な技術基準は政省令等で詳細に定められている)と、都市計画とリンクしながら、都市計画区域内の建物用途、建ぺい率、容積率、建物の高さなどを規制する基準(集団規定)とが定められている。また、これらの基準を適用しその遵守を確保するため、建築主事等が建築計画の法令適合性を確認する仕組み(建築確認)や違反建築物等を取り締まるための制度などが規定されている。
その法律的な性格の特徴は、警察的な機能を担うことであり、建築基準法による規制を「建築警察」ということがある。
容積率
延べ面積を敷地面積で割った値のこと。
例えば、敷地面積が100平方メートル、その敷地上にある住宅の延べ面積が90平方メートルならば、この住宅の容積率は90%ということになる。
建物の容積率の限度は、原則的には用途地域ごとに、都市計画によってあらかじめ指定されている。
さらに、前面道路の幅が狭い等の場合には、指定された容積率を使い切ることができないケースもあるので、注意が必要である。
建ぺい率
建築面積を敷地面積で割った値のこと。
例えば、敷地面積が100平方メートル、その敷地上にある住宅の建築面積が50平方メートルならば、この住宅の建ぺい率は50%ということになる。
建築する建物の建ぺい率の限度は、原則的には用途地域ごとに、都市計画によってあらかじめ指定されている。
高さ制限
建物の高さの限度をいう。
いくつかの種類があるが、大きくは、建物全体の高さの制限と、相隣関係などによる斜めの線による制限(斜線制限)に分かれる。
建物全体の高さの制限には、都市計画で定められた、1.低層住居専用地域における高さの限度、2.高度地区における高さの最高限度または最低限度がある。
斜線制限には、1.道路高さ制限、2.隣地高さ制限、3.北側高さ制限、4.日影規制がある。詳しくは「斜線制限」参照。
その適用の有無や具体的な数値などは、用途地域等に応じて異なるため、個々の都市計画等に照らして確認しなければならない。
日影規制
建築物に対する斜線制限の一つで、日影の量を一定以下にするよう建築物の高さを制限することをいう。
日影の量は、冬至日において建築物が8時から16時(北海道の区域内においては9時から15時)までの間に発生する時間で規制され、敷地境界から5m・10mの測定ラインを設定して(ラインは地盤から一定の高さに設定する)、そのラインを越えて一定時間以上の日影を生じさせないようにしなければならないとしている。 具体的な規制基準(規制対象となる建築物、日影を生じてはならない時間数、測定すべき地盤からの高さ)は条例で定めるとされているが、用途地域の種類や建物の階層等によって異なる。日影規制に適合するには、建築物の高さが一定の斜線内に収まるようにしなければならない。 (右図は、日影規制の考え方を示す図である。5mラインでは4時間以上、10mラインでは2.5時間以上、日影を生じてはならないという規制がある場合に、この建築物の高さはその基準を満たしている。なお、図中の「日影線」は、冬至日にそれぞれの時間以上の間、日影を生じる境界を示す)
都市計画法
都市計画に関する制度を定めた法律で、都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることを目的として、1968(昭和43)年に制定された。
この法律は、1919(大正8)年に制定された旧都市計画法を受け継ぐもので、都市を計画的に整備するための基本的な仕組みを規定している。
主な規定として、都市計画の内容と決定方法、都市計画による規制(都市計画制限)、都市計画による都市整備事業の実施(都市計画事業)などに関する事項が定められている。
地区整備計画
地区計画の区域において定められる、道路・公園の整備、用途の制限などに関する具体的な計画。
1.趣旨
地区計画は、特定の区域におけるまちづくりを誘導するために市町村が定める計画である(詳しくは地区計画へ)。この地区計画におけるまちづくりの具体的なプランが「地区整備計画」である(都市計画法第12条の5第2項)(注1)。
2.地区整備計画の内容
地区整備計画では下記に掲げる事項のうち、必要なものを定める(都市計画法第12条の5第6項、施行令第7条の4、施行令第7条の6、施行令第7条の7)。
1)地区施設(主として街区内の居住者等の利用に供される道路・公園・緑地・広場などの公共空地のこと)の配置および規模
2)用途の制限
3)容積率の最高限度または最低限度
4)建ぺい率の最高限度、
5)敷地面積または建築面積の最低限度
6)壁面の位置の制限、
7)壁面後退区域(壁面の位置の制限として定められた限度の線と敷地境界線との間の土地の区域のこと)における工作物の設置の制限
8)高さの最高限度または最低限度
9)形態・意匠の制限、垣・柵の構造の制限
10)現に存する草地樹林地等の保全に関する事項
ところで、市街化調整区域内の地区整備計画では「容積率の最低限度」「建築面積の最低限度」「高さの最低限度」を定めることはできない。
景観法
良好な景観の形成を促進するための施策を定めた法律で、2004年6月に公布、同年12月から施行された。 この法律は、都市部だけでなく農村部等も対象にして、地域の個性を反映した柔軟な規制等によって景観の形成を図るための制度を定めており、景観に関する基本法とされる。 景観法に規定されている主な制度としては、
1.景観行政を担う主体としての景観行政団体 2.景観計画区域の指定、景観計画の策定、それにもとづく建築等の届出、デザイン・色彩に関する勧告・変更命令など 3.都市計画による景観地区の指定、建築等のデザイン・色彩、高さ等の総合的な規制、景観認定制度など 4.住民合意による景観協定 5.景観重要建造物・景観重要樹木の指定・保全
などがある。