宅地建物取引業者が不動産の取引や取引の代理・仲介を行なうときに、取引の相手に心理的瑕疵を告げること。
宅地建物取引業者は、業務を行なうときに、取引条件に関する事項であって、取引相手の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものについて、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為が禁じられている。取引対象不動産に関する心理的瑕疵も、取引の判断に重要な影響を及ぼすこととなるときには、取引相手に告知しなければならない。
しかしながら、何が心理的瑕疵に当たるかについての明確な基準はなく、また、心理的瑕疵が取引の判断に与える影響の程度は一律ではない。告知の要否や告知内容は、物件の性質、取引の内容、事由の重大性などに応じて、個別に判断することになる。
なお、不動産の取引や取引の代理・仲介に当たって、取引対象の不動産において過去に人の死が生じた場合に宅地建物取引業者がとるべき対応の指針(「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」2021年)が公表されている。
宅地建物取引業者
宅地建物取引業者とは、宅地建物取引業免許を受けて、宅地建物取引業を営む者のことである(宅地建物取引業法第2条第3号)。
宅地建物取引業者には、法人業者と個人業者がいる。 なお、宅地建物取引業を事実上営んでいる者であっても、宅地建物取引業免許を取得していない場合には、その者は宅地建物取引業者ではない(このような者は一般に「無免許業者」と呼ばれる)。
不動産
不動産とは「土地及びその定着物」のことである(民法第86条第1項)。
定着物とは、土地の上に定着した物であり、具体的には、建物、樹木、移動困難な庭石などである。また土砂は土地そのものである。
代理(宅地建物取引業法における~)
不動産取引における宅地建物取引業者の立場(取引態様)の一つ。
宅地建物取引業者が、売買取引・交換取引・賃貸借取引について、売主の代理人や買主の代理人となって(または貸主の代理人や、借主の代理人となって)、取引成立に向けて活動するという意味である。
仲介
不動産取引における宅地建物取引業者の立場(取引態様)の一つ。
「媒介」と同意。
心理的瑕疵
不動産の取引に当たって、借主・買主に心理的な抵抗が生じる恐れのあることがらをいう。
心理的瑕疵とされているのは、自殺・他殺・事故死・孤独死などがあったこと、近くに墓地や嫌悪・迷惑施設が立地していること、近隣に指定暴力団構成員等が居住していることなどである。
物件の物理的、機能的な瑕疵ではないが、物件の評価に影響することがあるため、知っていながらその事実を説明しない場合には契約不適合責任を問われることがある。もっとも、何が心理的瑕疵に当たるかについての明確な基準はない。
なお、不動産の取引や取引の代理・仲介に当たって、取引対象の不動産において過去に人の死が生じた場合に宅地建物取引業者がとるべき対応を示した指針(「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」2021年)が公表されている。
不実告知
取引の勧誘などにおいて客観的事実と異なる説明をすること。
消費者契約(宅地建物の販売・賃貸契約もこれに当たる、ただし事業のためのものは除く)においては、重要事項について不実告知がなされて消費者が誤認した場合には、契約を取り消すことができる。
また、宅地建物取引業法は、宅地建物取引業者が重要事項等の説明において不実告知をした場合には、国土交通大臣又は都道府県知事は業務停止等を命令できるとしている。
人の死の告知に関するガイドライン
不動産の取引や取引の代理・仲介に当たって、取引対象の居住用不動産において、過去に人の死が生じた場合における宅地建物取引業者がとるべき対応に関する指針。2021年に国土交通省が公表したもので、正式名は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(国土交通省不動産・建設経済局不動産業課)である。
人の死の告知に関するガイドラインは、宅地建物取引業者が取引や取引の代理・仲介の相手に告げるべき場合および内容について次のように示している。
(1)次の場合は告げなくても良い。ただし、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案は告げる必要がある。
i.自然死又は日常生活の中での不慮の死が発生した場合(過去に人が死亡し長期間にわたって放置されたこと等に伴い、特殊清掃、大規模リフォーム等が行われた場合で、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合を除く)
ii. 賃貸借取引の対象不動産について、i以外の死の発生またはiの死で特殊清掃等を伴うものの発覚後、概ね3年が経過した場合
iii. 隣接住戸や日常生活で通常使用しない集合住宅の共用部分において、i以外の死が発生した場合またはiの死が発生して特殊清掃等が行われた場合
(2)(1)i〜iii以外の場合は、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられるときには告知しなければならない。なお、買主・借主から事案の有無について問われた場合、社会的影響の大きさから買主・借主が把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等は、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼす場合に該当する。
(3)告知する内容は、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合には発覚時期)、場所、死因(不明である場合にはその旨)、特殊清掃等が行われたときにはその旨である。一方、氏名、年齢、住所、家族構成、具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はない。また、調査を通じて判明したことを告知すれば足りる。
(4)告知は、書面の交付等によることが望ましい。
なお、人の死の告知に関するガイドラインは、トラブルの未然防止の観点から一般的に妥当と考えられるものを示すのであって、ガイドラインに従って対応しても契約不適合責任が完全になくなるとは限らない。
また、取引対象の不動産において人の死が生じた場合は心理的瑕疵となり得るが、心理的瑕疵は、人の死のほか、近くに墓地や嫌悪・迷惑施設が立地していること、近隣に指定暴力団構成員等が居住していることなどを含む広い概念である。人の死の告知に関するガイドラインは、心理的瑕疵のすべてについての告知指針ではない。何が心理的瑕疵に当たるかについての明確な基準はないのである。