私法上の概念で、一見権利の行使とみられるが、具体的な情況や実際の結果に照らしてそれを認めることができないと判断されることをいう。
民法には、「権利の濫用はこれを許さない」という規定がある。
権利の濫用であるかどうかは具体的に判断するほかないが、例えば、加害を目的でのみなされた権利行使は一般的に濫用とされる。
現実の裁判においては、権利の行使を認めた場合と認めない場合に生じる不利益や社会的影響を比較較量して判断されることが多い。例えば、自己の土地の利用により近隣に迷惑が及ぶ場合には、土地利用の合理性、従来の経緯や慣行、迷惑の程度や受忍の可能性、影響回避の手段などを比較較量して、所有権の濫用であるかどうかが判断されることになるであろう(所有権は絶対的なものではないのである)。
権利の濫用であるとされたときには、権利行使の効果が生じないばかりか、権利を行使した者は不法行為として損害賠償の責任を負うことになる。
所有権
法令の制限内で自由にその所有物の使用、収益および処分をする権利をいう。
物を全面的に、排他的に支配する権利であって、時効により消滅することはない。その円満な行使が妨げられたときには、返還、妨害排除、妨害予防などの請求をすることができる。
近代市民社会の成立を支える経済的な基盤の一つは、「所有権の絶対性」であるといわれている。だが逆に、「所有権は義務を負う」とも考えられており、その絶対性は理念的なものに過ぎない。
土地所有権は、法令の制限内においてその上下に及ぶとされている。その一方で、隣接する土地との関係により権利が制限・拡張されることがあり、また、都市計画などの公共の必要による制限を受ける。さらには、私有財産は、正当な補償の下に公共のために用いることが認められており(土地収用はその例である)、これも所有権に対する制約の一つである。
損害賠償
違法行為によって損害が生じた場合に、その損害を填補することをいう。
債務不履行や不法行為などの違法な事実があり、その事実と損害の発生とに因果関係があれば損害賠償義務を負うことになる。その損害は、財産的か精神的かを問わず、積極的(実際に発生した損害)か消極的(逸失利益など)かも問わず填補の対象となる。
ただし、その範囲は、通常生ずべき損害とされ、当事者に予見可能性がない損害は対象とはならない(相当因果関係、因果の連鎖は無限に続くため、予見可能性の範囲に留めるという趣旨)。
損害賠償は原則として金銭でなされる。また、損害を受けた者に過失があるときは賠償額は減額され(過失相殺)、損害と同時に利益もあれば賠償額から控除される(損益相殺)。
なお、同じように損害の填補であっても、適法な行為(公権力の行使)によって生じた不利益に対する填補は、「損失補償」といわれて区別される。