宅地建物取引業法では、都道府県知事または国土交通大臣は、宅地建物取引業者名簿などの一定の書類を広く一般の閲覧に供しなければならないと定めている(宅地建物取引業法第10条)。
これは、宅地建物取引業者の業歴、信用状況、行政処分歴などを公開することにより、宅地建物の取引の円滑化を図る制度であるということができる。具体的には次のとおり。
1.閲覧できる書類の範囲
次のように広い範囲の書類が閲覧対象とされている(法第10条)
1)宅地建物取引業者名簿
2)免許申請書
3)免許申請書の添付書類
4)宅地建物取引業者名簿の登載事項の変更の届出に係る書類
上記1)には指示処分、業務停止処分の履歴が登載されており、行政処分歴が把握できる。
また上記3)には、貸借対照表および損益計算書(施行規則第1条の2第6号)、資産に関する調書 (施行規則第1条の2第7号)などの財務書類が含まれており、信用状況の把握に役立つ。
2.閲覧の方法
誰でも閲覧できることとされている。具体的な閲覧の方法は、閲覧場所ごとに閲覧規則を定めて規定している(施行規則第5条の2)。これにより閲覧可能な時間帯、閲覧申請書の記入方法などが個別に定められている。
3.閲覧場所
宅地建物取引業者が都道府県知事から免許を受けた場合(知事免許)は次の1)の場所で、国土交通大臣から免許を受けた場合(大臣免許)は次の2)の場所で、それぞれ閲覧できる。
1)知事免許の場合
各都道府県の宅地建物取引業を所管する部署において、上記1.の書類が閲覧できる。
例えば、東京都知事免許の宅地建物取引業者であれば、東京都庁の宅地建物取引業所管課で上記1.の書類が閲覧できる。
2)大臣免許の場合
この場合には次の2ヵ所で上記1.の書類が閲覧できる。
a)その宅地建物取引業者の本店の所在地を管轄する都道府県の宅地建物取引業所管課
b)全国の国土交通省地方整備局の宅地建物取引業所管課(注)
例えば、大阪府に本店・東京都に支店を置く大臣免許の宅地建物取引業者であれば、大阪府庁および全国の地方整備局において上記1.の書類が閲覧できることになる。
(ただし、支店所在地である東京都庁では閲覧できないことに注意)
(注)地方整備局とは、「北海道開発局」「東北地方整備局」「関東地方整備局」「北陸地方整備局」「中部地方整備局」「近畿地方整備局」「中国地方整備局」「四国地方整備局」「九州地方整備局」「沖縄総合事務局」のこと。
なお、宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方では、閲覧を希望する者からの閲覧申請を電子情報処理組織を使用する方法により受け付けた場合において、閲覧申請が適当と認めるときは、宅地建物取引業者名簿及び特定書類に係る電磁的記録に記録されている事項を、電子情報処理組織を使用して閲覧を希望する者の使用に係る電子計算機の映像面に表示する方法により、閲覧させるものとする。
閲覧所における閲覧については、書面による方法のほか、宅地建物取引業者名簿及び特定書類に係る電磁的記録を閲覧所に備え置く電子計算機の映像面に表示する方法で行うこととしても差し支えないものとする。とされている。
宅地建物取引業法
宅地建物取引の営業に関して、免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を定めた法律。1952年に制定された。
この法律に定められている主な内容は、宅地建物取引を営業する者に対する免許制度のほか、宅地建物取引士制度、営業保証金制度、業務を実施する場合の禁止・遵守事項などである。これによって、宅地建物取引業務の適正な運営、宅地および建物の取引の公正の確保および宅地建物取引業の健全な発達の促進を図ることとされている。
宅地建物取引業者名簿
宅地建物取引業者に関する一定の事項を登載した名簿のこと。 都道府県知事または国土交通大臣は、下記の1.から8.の事項を登載した宅地建物取引業者名簿を作成しなければならない(宅地建物取引業法第8条)(※末尾参照)。 1.免許証番号・免許を受けた年月日(法第8条第2項第1号) 2.商号または名称(法第8条第2項第2号) 3.事務所の名称と所在地(法第8条第2項第5号) 4.宅地建物取引業者が法人である場合には、その法人の役員の氏名および事務所の代表者の氏名(法第8条第2項第3号) 5.宅地建物取引業者が個人である場合には、その者の氏名および事務所の代表者の氏名(法第8条第2項第4号) 6.事務所に置かれる専任の宅地建物取引士の氏名(法第8条第2項第6号) 7.宅地建物取引業以外の事業を営んでいるときは、その事業の種類(施行規則第5条第2号) 8.過去に指示処分(法第65条第1項、第3項)または業務停止処分(法第65条第2項、第4項)を受けた場合には、その内容および処分の年月日(施行規則第5条第1号) 上記2.から7.までは免許申請書の記載事項(法第4条第1項)と同じである。 また上記2.から6.に関して変更があったときは、宅地建物取引業者は免許権者である知事または大臣に対して、宅地建物取引業者名簿の登載事項の変更の届出(法第9条)を行なう必要がある。 ※宅地建物取引業者が、不動産投資信託等に関して取引一任代理等の認可を国土交通大臣から得ている場合にはその旨も宅地建物取引業者名簿登載される(法第50条の2、法第8条第2項第7号)。 大臣と知事では、宅地建物取引業者名簿を作成する範囲が異なっている。 国土交通大臣は、国土交通大臣が免許を与えた宅地建物取引業者の名簿のみを作成する。 各都道府県知事は、その都道府県知事が免許を与えた宅地建物取引業者の名簿と、その都道府県内に本店を置く国土交通大臣が免許を与えた宅地建物取引業者の名簿を作成する(法第8条第2項本文)。
宅地建物取引業者
宅地建物取引業者とは、宅地建物取引業免許を受けて、宅地建物取引業を営む者のことである(宅地建物取引業法第2条第3号)。
宅地建物取引業者には、法人業者と個人業者がいる。 なお、宅地建物取引業を事実上営んでいる者であっても、宅地建物取引業免許を取得していない場合には、その者は宅地建物取引業者ではない(このような者は一般に「無免許業者」と呼ばれる)。
免許申請書
宅地建物取引業の免許を受けようとする者が、国土交通大臣または都道府県知事に提出する申請書のこと。免許申請書の様式は、宅地建物取引業法施行規則に定められている。
免許申請書に記載すべき事項は次のとおりである。
1)商号または名称
2)法人である場合においてはその役員の氏名、事務所の代表者の氏名
3)個人である場合においてはその者の氏名、事務所の代表者の氏名
4)事務所の名称および所在地
5)事務所ごとに置かれる専任の宅地建物取引士の氏名
6)他に事業を行なっているときは、その事業の種類
また、申請書には、宅地建物取引業法施行規則に定める添付書類を添付しなければならない。(「免許申請書の添付書類」を参照)
免許申請書の添付書類
宅地建物取引業を営もうとする者が、宅地建物取引業の免許を申請する場合には、次の書類を免許申請書に添付しなければならないとされている(宅地建物取引業法・宅地建物取引業法施行規則)。
1)宅地建物取引業経歴書
2)免許の欠格事由に該当しないことを誓約する書面(「免許の基準」を参照)
3)事務所について専任の宅地建物取引士の設置義務を満たしていることを証する書面
4)免許申請者(法人の場合は役員(相談役、顧問含む))、事務所の代表者、専任の宅地建物取引士が、破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者に該当しない旨の市町村の長の証明書
5)法人である場合において、相談役および顧問の氏名と住所、発行済株式総数の100分の5以上の株式を有する株主または出資額の100分の5以上の額に相当する出資をしている出資者の氏名(名称)と住所、およびその株式の数またはその出資の金額を記載した書面
6)事務所を使用する権原に関する書面
7)事務所付近の地図および事務所の写真
8)免許申請者、事務所の代表者、専任の宅地建物取引士の略歴を記載した書面
9)法人である場合においては、直前1年の各事業年度の貸借対照表および損益計算書
10)個人である場合においては、資産に関する調書
11)宅地建物取引業に従事する者の名簿
12)法人である場合においては法人税、個人である場合においては所得税の直前1年の各年度における納付すべき額および納付済額を証する書面
13)法人である場合においては、登記簿謄本
14)個人である場合においては、住民票抄本またはこれに代わる書面
宅地建物取引業者名簿の登載事項の変更の届出
都道府県知事または国土交通大臣は一定の事項を登載した宅地建物取引業者名簿を作成するが、この名簿の登載事項のうち一部の登載事項について変更があったときは、宅地建物取引業者は30日以内に変更の届出を行なう義務を負う。
具体的には次のとおり。
1.変更の届出を行なうべき事項
次の1)から5)の事項に変更が生じたとき、宅地建物取引業者は変更の届出を行なう必要がある(法第9条)(※参照)。
1)商号または名称(法第8条第2項第2号)
2)事務所の名称と所在地(法第8条第2項第5号)
3)宅地建物取引業者が法人である場合には、その法人の役員の氏名および事務所の代表者の氏名(法第8条第2項第3号)
4)宅地建物取引業者が個人である場合には、その者の氏名および事務所の代表者の氏名(法第8条第2項第4号)
5)事務所に置かれる専任の宅地建物取引士の氏名(法第8条第2項第6号)
※●宅地建物取引業以外の事業を営んでいるとき、その兼業している事業の種類(施行規則第5条第2号)については、変更の届出を行なう義務がない。
●役員・事務所の代表者・専任の宅地建物取引士の氏名の変更があったときは届出の必要があるが、住所の変更があったときは届出の必要がない。
●事務所の新設・移転・廃止は、「事務所の名称、所在地」の変更(法第8条第2項第5号)に該当するので、新設・移転・廃止を行なってから30日以内に届出が必要である。
●法人の場合、資本金の額や定款は、そもそも宅地建物取引業者名簿の登載事項ではない。従って資本金の額の変更や定款変更は、届出が不要である。
2.届出期間・届出の相手方
変更が生じてから30日以内に、免許権者(知事免許ならばその知事、大臣免許ならば国土交通大臣)に対して、宅地建物取引業者名簿登載事項変更届出書(施行規則様式第3号)を提出しなければならない(施行規則第5条の3第1項)。
この際に、役員・事務所の代表者・専任の宅地建物取引士の増員・交代については、成年被後見人および被保佐人に該当しない旨の登記事項証明書を提出するなど、さまざまな添付書類が必要となる場合がある(施行規則第5条の3第2項)。
貸借対照表
企業の一定時点での財務状態を明らかにする書類をいう。
英語でBalance Sheetといわれることから、BS(またはB/S)と略されることもある。
貸借対照表は、ある時点における、企業または企業グループの資産、負債、純資産の状態を表示している。
資産には、現金、設備、不動産など企業が保有する経済的な価値が、負債と純資産は資産を保有するための資金調達の状態が計上される。
他者から借入した資金(買掛金、借入金等)が負債であり、企業所有者の出資金(資本金)および企業に帰属する利益剰余金等が純資産である。そして、資産と、負債および純資産の合計とは常に一致する。
貸借対照表からは、当該企業の企業価値、負債負担能力、資金活用状況など、企業財政の状態等を分析するための基礎的なデータを得ることができる。
損益計算書
企業の一定期間における経営成果を明らかにする書類をいう。
英語でProfit and Loss Statementといわれることから、PL(またはP/L)と略されることもある。 損益計算書は、一会計年度、半期または四半期において得られた営業収益(売上高)に対して、売上原価、販売費・一般管理費、営業外の収益・費用(本業以外の収支)、特別の利益・損失(臨時的に発生した損益)、支払い税額を、順次に加減する形で示され、最終的には純利益が算出される。 これによって、その期の経営成果(損益)の状態とその発生原因が示されることとなる。 損益計算書からは、当該企業がどのように利益を得ているか、効率的に経営がなされているかなど、経営のパフォーマンス等を分析するための基礎的なデータを得ることができる。
免許
「宅建免許」を参照。
知事免許
宅地建物取引業者が、都道府県知事から免許を受けていること。
宅地建物取引業を営もうとする者が、一つの都道府県内においてのみ事務所を設ける場合には、その都道府県の知事から免許を受けることが必要とされている(宅地建物取引業法第3条第1項)。この規定にもとづき、都道府県知事から免許を受けることを、一般に「知事免許」と呼んでいる。
大臣免許
宅地建物取引業者が国土交通大臣から免許を受けていること。 宅地建物取引業を営もうとする者が、2以上の都道府県において事務所を設ける場合には、国土交通大臣から免許を受けることが必要とされている(宅地建物取引業法第3条第1項)。この規定にもとづき、国土交通大臣から免許を受けることを、一般に「大臣免許」または「国土交通大臣免許」と呼んでいる。