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無権代理の相手方の催告権
読み:むけんだいりのあいてかたのさいこくけん

無権代理による取引は、本人に対する関係では本来無効であるが、本人がこの取引を追認した場合には、その取引は初めから有効であったものとなる(民法第116条)。

この場合において、無権代理人と取引を行なった相手方は、本人に対して、無権代理人の行為を追認するか否かを答えるように催告することができる(民法第114条)。この催告は、相手方が悪意(=無権代理であること知っていた)であっても行なうことができる。法律関係の早期安定を図るための規定である。

なお本人が返答しないときは、追認を拒絶したものとみなされる(つまり、本人に対する関係では無権代理による取引は無効に確定する。このとき相手方は無権代理人の責任を追及するほかない(民法第117条))。

無権代理

代理とは、「他人の行為の効果が本人に帰属する」という法制度である。この代理が成立する根拠は、本人と他人との間に、代理権を発生させるという合意(すなわち代理権授与行為)が存在することであるとするのが判例・通説である(詳しくは他人効へ)。 従って、代理人に代理権が存在しない場合や、代理人が代理権の範囲を超えて行動した場合には、その代理人の行為はもはや正当化することができないので、代理としての効果を失うことになる。その結果、その代理人の行為は、代理人自身のために行なった行為となり、代理人自身が全面的に責任を負うことになる(詳しくは無権代理人の責任へ)。このような権限のない代理人の行為を「無権代理」と呼んでいる。 無権代理は、本人に対する関係では無効であるから、本来は本人に対して無権代理が何らかの効果を及ぼすことはあり得ないはずである。しかし民法では、取引の相手方を保護するために、次の2つの場合には、例外的に無権代理を本人に対する関係で有効にするという規定を設けている。 1.本人による追認 無権代理による取引を、本人が後から追認した場合には、その取引は原則としてはじめから有効であったものとなる(民法第116条)。本来は無効な行為を、本人の意思により有効にすることができるという規定である。 なおこの場合、取引の相手方は本人に追認を催告すること等ができる。 (詳しくは無権代理の相手方の催告権、無権代理の相手方の取消権へ) 2.表見代理 無権代理による取引の相手方が、無権代理人を真実の代理人だと誤信したことについて、何らかの正当な事情があった場合には、その取引を有効なものとすることができる。この制度を表見代理という。 (詳しくは代理権授与表示による表見代理、代理権消滅後の表見代理、権限踰越の表見代理へ)

追認

効果のない法律行為について、その効果を生じさせる意思表示をいう。 一定の場合にのみ認められる(通常は、新たな法律行為が必要である)。 その場合とは、次の4つである。 1.無権代理人の法律行為について、本人の意思表示で本人について効果が生じる。 2.無効の法律行為について、当事者が無効であると知ったうえで追認すれば、そのとき新たな行為をしたとみなされる。 3.取り消すことのできる行為を一方的な意思表示によって確定的に有効とする。 4.訴訟能力等を欠いている場合の訴訟行為について、能力を得た後の追認によって行為のときに遡って効力が生じる。

催告

相手に対して一定の行為を要求することをいう。 催告をして相手方が応じない場合に、一定の法律効果が生じるという意味がある。 大きく、債務者に対して債務の履行を請求すること、無権代理者等の行為を追認するかどうか確答を求めることの2つの場合がある。例えば、債務の履行を催告すれば、時効の中断、履行遅滞、解除権の発生などの、追認の催告は、場合に応じて、追認、取消しまたは追認の拒絶とみなされるなどの法律効果に結びつく。 口頭による催告も法律上有効であるが、確実を期すためには証拠力の強い方法によるのが望ましい。

悪意

私法上の概念で、契約などの法律的な行為の際に一定の事実を知っていることをいう。 逆に知らないことを「善意」という。民法などの規定において、事実を知っているかどうかによって行為の効果に違いが生じることがあり、一般に悪意の場合には不利になる。 例えば、AがBに不動産を虚偽で売却したうえで登記をしたときにはAB間の取引は無効であるが、その登記済みの不動産をCが買収した場合に、CがそのAB間の取引が虚偽であることを知っていた(悪意である)ときには、ABはCに対して当該不動産の所有権移転が無効であると主張できる。しかし、Cが知らなかった(善意である)ときには、その主張はできない。悪意の場合には、善意の場合に比べて法的に保護を受ける効果が劣るのである。

無権代理人の責任

無権代理による取引(権限のない代理人が行なった契約など)は、有効な代理行為ではないので、本人に対する関係では当然に無効であるだけでなく、無権代理人に対する関係でも無効となるはずである。しかし、仮に無権代理による取引が常に無効であるとするならば、取引の相手方の保護に欠け、代理制度そのものへの信頼が失われかねない。 そこで民法では、無権代理による行為が本人に対する関係で無効と判断された場合には、無権代理人自身が取引を履行し、または相手方の損害を賠償しなければならないと定めている(民法第117条)。これは、法律によって無権代理人に特に重い責任を負わせたものであるということができる。 具体的には、本人が無権代理人の行為を追認せず、かつ無権代理人が正当な代理権の存在を立証できない場合には、取引の相手方は、取引を履行し、または損害を賠償することを無権代理人に要求することができる(民法第117条第1項)。このような無権代理人の履行責任・損害賠償責任は無過失責任である(つまり、無権代理人に何ら落ち度がなくて無権代理人として行動したとしても、これらの責任を負わなければならない)。 このような重い責任を無権代理人に負わせる反面として、取引の相手方は、善意無過失であることが必要とされる。つまり、代理権限がないことを知っていたか、または不注意により知らなかったような相手方は、無権代理人の履行責任・損害賠償責任を追及することはできない(民法第117条第2項)。 (この点につき、取引の相手方は軽過失があっても無権代理人の責任を追及できるという学説があるが、判例は取引の相手方には無過失を必要としている) なお、上記のような民法第117条の無権代理人の責任は、不法行為責任を排除するものではない。従って、無権代理人が故意または過失により無権代理人として行動し、相手方に損害を与えた場合には、相手方は民法第117条の無権代理人の責任と民法第709条の不法行為責任のどちらでも追及することができる。