代理人が「本人のために代理行為を行なう」ことを示すことを顕名という。
例えば、契約を締結する場合に「Aの代理人であるB」として署名することが顕名に該当する。顕名とは「名をあらわす」という意味である。
代理の本質については顕名説と代理権説が対立しているが、通説である代理権説に立つときは、顕名は代理の本質的要素ではないので、仮に顕名がなくとも代理権は有効に成立すると解釈されている(詳しくは他人効へ)。顕名については、次のようないくつかの問題がある。
1.顕名の本質について
民法第99条が顕名を必要としている根拠は、取引の相手方に本人が誰であるかを明示することにより、取引の安全を確保しようとする趣旨である(代理権説の立場から)。
2.顕名がまったくない場合について
例えばAの代理人であるBが、相手方Cとの間で売買契約を締結するとき、うっかりして契約書に「B」とだけ署名した場合には、原則としてその契約はBが自分のために行なったものとみなされる(民法第100条本文)。
ただし、前後の事情から見て、BがAの代理人であることが明らかである場合には、たとえ契約書に「B」とだけ署名したとしても、BはAの代理人として有効に顕名をしたものとされる(民法第100条但書)。これは相手方Cの取引安全を害する可能性がないからである。
3.本人の名前を直接表示した場合について
例えばAの代理人であるBが、相手方Cとの間で売買契約を締結するとき、うっかりして契約書に「A」とだけ署名した場合については、有効な顕名がないことになる。
この場合には民法に明文がないので問題であるが、判例は、前後の事情から代理人であることが明らかであるならば有効な代理行為として成立するとしている。
相手方Cにとっては、仮に代理人Bが本人Aであると誤信していた(人違いをしていた)としても、取引相手がAであるならば契約を行なってよいとの判断のもとに契約したため、実質上の支障はない。よって、Cの取引安全の面からも支障がないこととなる。
代理(民法における)
代理とは、本人と一定の関係にある他人が意思表示を行ない、その意思表示の効果が本人に帰属するという法制度である。
代理の本質は、代理権を持つ者(代理人)が存在し、その代理人が行なった行為の効果が本人に帰属することであると解釈されており、このことを「他人効」と呼ぶ。この他人効がなぜ発生するのかという理論的根拠については、「顕名説」と「代理権説」が対立している。(詳しくは他人効へ)。
代理が成立するためには、本人と他人との間に一定の関係が存在することが必要であり、このとき他人は「代理権」を持つものとされており、このような他人を「代理人」と呼ぶ。
また代理において、行為の主体が本人であるのか、それとも代理人であるのかについて学説が分かれており、通説は代理人が行為主体であると考えている(代理人行為説)。
また、代理はさまざまに分類されるが、主な分類としては任意代理と法定代理がある。任意代理は本人と代理人との合意にもとづく代理権であり、任意代理が成立するには代理権授与行為が必要であるとされている。
なお、代理人が代理行為を行なうには、本人のためにすることを示すこと(=顕名)が必要とされている。
他人効
代理の本質は、他人の行為の効果が本人に帰属するということである(これを他人効という)。
この他人効が成立する理論的根拠については、顕名説と代理権説が対立している。
1.顕名説
代理が成立するのは、代理人が顕名を行なうからであるという考え方。顕名は代理人が本人のために行動するという意思の表示であり、その顕名の効果として他人効が発生するという考え方である。
2.代理権説
代理が成立するのは、代理権が存在するからであるという考え方。法定代理では代理権は法律によって発生し、任意代理では本人が代理人に代理権を授与する。こうした代理権が存在するため、他人効が発生するという考え方である。
この代理権説に立つとき、顕名は代理の本質的要素ではないことになる。また代理権説に立つとき、任意代理の成立根拠は代理権授与行為であるとされる。
売買契約
当事者の一方が、ある財産権を相手方に移転する意思を表示し、相手方がその代金を支払う意思を表示し、双方の意思が合致することで成立する契約のこと(民法第555条)。
売買契約は諾成契約とされている。つまり、当事者の双方が意思を表示し、意思が合致するだけで成立する(財産が引き渡されたときに成立するのではない)。
また、売買契約は不要式契約なので、書面による必要はなく口頭でも成立する。
さらに、売買契約は財産権を移転する契約であるが、その対価として交付されるのは金銭でなければならない(金銭以外の物を対価として交付すると「交換契約」となってしまう)。
当事者の双方の意思の合致により売買契約が成立したとき、売主には「財産権移転義務」が発生し、買主には「代金支払義務」が発生する。両方の義務の履行は「同時履行の関係」に立つとされる。