不在者とは、住所または居所を去って、容易に帰ってくる見込みがない者をいう。
不在者は失踪宣告を受けた者を含み、失踪宣告を受けた者よりも広い概念である(詳しくは失踪宣告へ)。
このような不在者に対しては、その財産を保護する必要があることから、国家が財産管理制度を設置している(民法第25条から第29条)。なお本人に法定代理人があるときは、法定代理人が財産を管理することとなり、下記1.2.は適用されないことに注意。
1.本人の生死が不明でない場合
本人の生死が不明でない(生存していることが確実である)ときは、本人が委任した財産管理人がいない場合には、家庭裁判所は利害関係人または検察官の請求により、財産管理人を選任し、財産目録の作成や財産の保存に必要な行為を財産管理人に行なわせることとなる(民法第25条1項前段、第27条、第28条前段)。
また、不在者が置いた財産管理人の権限が消滅した(例えば管理契約が終了した)場合も、上記と同様である(民法第25条1項後段、第27条、第28条前段)。
2.本人の生死が不明の場合
この場合には、本人の財産を保護する必要性が高いので、家庭裁判所は不在者が置いた財産管理人が権限を有している場合であっても、利害関係人または検察官の請求により、財産管理人を改任し、適切な財産管理人を新たに選任することができる。
また家庭裁判所は、利害関係人または検察官の請求により、既存の財産管理人(不在者が委任した財産管理人)に対して、財産目録の作成や財産の保存に必要な行為を行なわせることができる(民法第26条、第27条、第28条後段)。
失踪宣告(失踪の宣告)
人が居所を去った後、長期間にわたって生死が不明である場合には、残された関係者はその後の生活を営むうえでさまざまな制約を強いられる結果となる。 そこで民法は、法律上その人が死亡したものとみなす制度を設けており、これを「失踪宣告(失踪の宣告)」と呼ぶ(民法第30条)。 失踪宣告には、不在者が居所を去った後7年間生死不明であることを要件とする「普通失踪」と死亡の原因となるべき危難(戦争や船舶の沈没など)に遭遇したことを要件とする「特別失踪」という2種類がある。
失踪宣告を受けた場合、普通失踪については7年間の生死不明の期間が経過した時点で、特別失踪については危難の去った時点において、その人が死亡したものとみなされる(民法第31条)。 その結果、失踪宣告を受けた人について、死亡とみなされた時点から相続が開始することになる(民法第882条)。 また死亡とみなされた時点において、婚姻(結婚)は当然に消滅する。 ただし姻族の関係(結婚によって生じた親戚関係)は当然に消滅するのではなく、配偶者が姻族関係の消滅の意思を表示する必要がある(民法728条)。
なお失踪宣告を受けるには、配偶者・相続人・保険金受取人などの利害関係者が家庭裁判所に請求する必要がある。要件を満たす請求があったとき、家庭裁判所は失踪の宣告をすることができる(民法第30条)。 なおこのほかに、死亡が確実だが死体が確認できないという場合のために「認定死亡」という制度が用意されている(詳しくは認定死亡へ)。
法定代理人
「法定代理人」とは、法律の規定によって定められた代理人という意味である。 これに対して、当事者同士の合意によって定められた代理人は「任意代理人」と呼ばれる。 具体的には、民法にもとづく法定代理人には次の3種類がある。
1.親権者 2.未成年後見人 3.成年後見人
1.および2.は、未成年者の法定代理人である。 また3.は、成年被後見人の法定代理人である。 このような法定代理人には、未成年者・成年被後見人の財産を管理し、法律行為を代表するという大きな権限が与えられている(民法824条、859条)。