民法は、「法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」と規定している(民法第34条)。
この規定は、法人の権利能力の範囲を制限し、それと同時に法人の行為能力の範囲をも定めた規定であると解されている(判例、通説)。
すなわち、定款その他の基本約款に記載された目的を超えた行為を法人の代表者(理事など)が行なった場合には、その代表者の行為は、法人の権利能力(および行為能力)の範囲を超えるので、その代表者の行為は法人に帰属しないという趣旨である。
しかしながら、実際には代表者が一見「目的の範囲」を超える行為を行なうことは多く見られるので、これをどのように解釈すべきかが問題となる。
1.目的の範囲を一見超えていると見られる代表者の行為
定款には記載のない種類の行為を代表者が行なった場合について、判例では「目的の範囲」を極力拡大して解釈することにより、代表者の行為を法人の行為として法人に帰属させている(例えば、会社の政治献金を「目的の範囲内」と解釈する)。
2.代表者の不法行為
代表者が「職務を行うについて」第三者に損害を与えた場合には、法人がその不法行為について損害賠償責任を負う。この場合にも、判例は、代表者の職務を広く解釈し、法人の損害賠償責任の範囲を広くしている(詳しくは法人の不法行為責任へ)。
法人
私法上の概念で、自然人以外で、法律上の権利・義務の主体となることを認められた団体・財産をいう。
法人の設立は、法律の規定によらなければならないとされている。
例えば、一般社団法人、一般財団法人、株式会社、学校法人、宗教法人、管理組合法人などはすべて法人である。
定款
一般社団法人、一般財団法人、株式会社等の基本的な規則またはそれを記した記録をいう。
それぞれの法人の設立の際に定められるのが通例である。
定款で定められる事項は、法人の種類等によって異なるが、目的、事務所所在地、組織、会計などが規定されている。
権利能力
法律上の権利・義務の主体となることができるという資格のこと。 人間(自然人)は生まれながらにして、このような権利能力を有するとされている(民法第3条)。 また社団法人などの法人も定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において権利能力を有することとされている(民法第34条)。 なお、出生前の胎児については、原則として権利能力を有しないこととされているが、相続・遺贈・損害賠償については出生前の胎児であっても権利能力があるものとみなされる。ただし、死産の場合には初めから権利能力がなかったこととなる(民法第721条、第886条、第965条)。
行為能力
自分が行なった法律行為の効果を確定的に自分に帰属させる能力のこと。 法律行為を有効に行なうには意思能力を持つことが必要とされているが、実際の契約等において意思能力を持たない者(=意思無能力者)が、契約当時に意思能力を欠いていたことを事後的に証明することは非常に困難である。 そこで民法では、正常かつ完成された精神能力を持たない者を画一的に「行為能力が制限された者」(=制限能力者(制限行為能力者))として取り扱い、こうした者を保護している。 このような制限能力者(制限行為能力者)には、法定代理人または成年後見人・保佐人・補助人が選任されている。制限能力者(制限行為能力者)が、これらの法定代理人等の同意を得ないで単独で行なった法律行為は原則として事後的に取消しが可能である。 このように法定代理人等に同意権を与えることにより、制限能力者(制限行為能力者)が不適切な法律行為により不利益を被ることがないよう監視しているのである。 制限能力者(制限行為能力者)とされているのは、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人である。
理事(法人の~)
法人のすべての行為について代表する権限を持ち、法人の運営を行なう者のこと。 法人は、1名または数名の理事を置くこととされている。また、理事の代表権は法人のすべての行為に及ぶのが原則であるが、法人は、定款、寄附行為または社員総会の決議により、理事の代表権に制限を設けることができる。
不法行為
私法上の概念で、他人の権利・利益を侵害し、それによって生じる損害を賠償する責任(債務)が生まれる行為をいい、民法に規定されている。
不法行為責任が生じるのは、1)故意・過失を伴うこと(特定の行為については無過失でも責任が生じる)、2)保護すべき他人の権利を侵害したこと、3)損害が発生したこと(発生の恐れがある場合に行為の差し止めを命ぜられることがある)、4)行為と損害との間に因果関係があること、5)責任能力があること(責任無能力者の行為における監督責任などを含む)という要件を満たす場合であるとされている。一方、これらの要件を満たしていても、正当防衛、緊急避難等一定の場合には、責任を負う必要はないとされる。
不法行為があった場合には、被害者は加害者に対して損害賠償請求権を得る。賠償の対象となる損害には、財産的損害だけでなく精神的な損害も含まれ、また、賠償は、金銭支払によるのが原則であるが、名誉毀損においてはその回復措置としての謝罪広告による賠償も認められている。
なお、使用者責任、工作物責任、製造物責任など、不法行為の成立について特別の扱いが適用される場合がある。
損害賠償
違法行為によって損害が生じた場合に、その損害を填補することをいう。
債務不履行や不法行為などの違法な事実があり、その事実と損害の発生とに因果関係があれば損害賠償義務を負うことになる。その損害は、財産的か精神的かを問わず、積極的(実際に発生した損害)か消極的(逸失利益など)かも問わず填補の対象となる。
ただし、その範囲は、通常生ずべき損害とされ、当事者に予見可能性がない損害は対象とはならない(相当因果関係、因果の連鎖は無限に続くため、予見可能性の範囲に留めるという趣旨)。
損害賠償は原則として金銭でなされる。また、損害を受けた者に過失があるときは賠償額は減額され(過失相殺)、損害と同時に利益もあれば賠償額から控除される(損益相殺)。
なお、同じように損害の填補であっても、適法な行為(公権力の行使)によって生じた不利益に対する填補は、「損失補償」といわれて区別される。
法人の不法行為責任
一般社団法人および一般財団法人に関する法律は、「法人は、代表理事その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と規定している。 この規定について、法人実在説の立場からは、法人が社会的実在である以上、法人自身が不法行為を行なうことは当然にあり得るので、目的の範囲内で法人は損害賠償責任を負うのが当然であると解釈されている(ただし、法人擬制説・法人否認説では代表者の不法行為について、法人に責任を負わせた特例的な規定であると解釈されている)。 法人の不法責任については、「その職務を行うについて」という部分の解釈が重要である。もし代表者の職務執行の範囲を厳格に解釈するならば、職務執行に「不法行為」が含まれることは稀であるから、判例では、理事の職務執行の範囲が広く解釈されている。たとえば判例は、「外形上、理事の職務行為と認められるもの、および社会通念上その職務行為に関連するもの」を理事の職務執行とし(これを外形理論という)、法人と取引をする相手方を保護している。 なお、法人が不法行為責任を負う場合でも、理事個人も個人として不法行為責任を負うものとされている(判例)。