このまちアーカイブス INDEX

商業の盛況と初等教育・住宅地の拡充

「青梅街道」が通る中野は、多摩地方からやって来る農産物などの中継・集散地であり、食品加工業も発展した。明治期に創業した工場の中には、「石森製粉」「あぶまた味噌」など現在も営業を続けている所もある。また、地域の初等教育機関として、「桃園学校」(現「中野区立中野第一小学校」)が開校、東中野には「華洲園」と呼ばれた花園ができた。


明治時代、中野で麦酒を製造した「浅田ビール」 MAP __

中野坂上で製粉業を営んでいた浅田甚右衛門氏は、横浜でビール製造業を経営していたアメリカ人、ウィリアム・コープランド氏の「スプリング・バレー・ブルワリー」から醸造機械を買い取り、彼の技師を雇い入れて「浅田麦酒醸造所」を開設し、1885(明治18)年に「浅田ビール」を発売した。1890(明治23)年に上野で開催された「第3回内国勧業博覧会」で入賞を果たすなど当初の営業は好調で、「日清戦争」後の好景気などの追い風も受けた。画像は発売当時の「浅田ビール」の商標。しかし、やがて業績が悪化し、1912(明治45)年に廃業した。【画像は1933(昭和8)年】

「浅田麦酒醸造所」があったのは現在の「中野坂上交差点」の南東角付近で、市街地再開発事業後に「ハーモニースクエア」が建設されている。


いまも残る中野の老舗「石森製粉」と「あぶまた味噌」

「武蔵野台地」の台地上に位置する中野は、江戸中期から「青梅街道」沿いの食糧や物資の集荷地としての役割を担い、江戸近郊の農村として発展してきた。江戸後期には地の利を生かして製粉・味噌・醤油などの食品加工業が発展した。中でも、江戸町内で消費されるそばのほとんどは「中野そば」と呼ばれる、中野の名産品だったという。

昭和前期の「石森製粉所」

昭和前期の「石森製粉所」。
【画像は昭和前期】

「石森製粉」本社正面玄関にある直径2mの石臼

「石森製粉」本社正面玄関にある直径2mの石臼。
MAP __

現在も営業を続ける「石森製粉株式会社」は、1872(明治5)年にそば製粉業を営む「吉野屋」として創業し、1990(平成2)年に新木場へ工場を移転するまで、現在地(中野区本町一丁目)でそば粉の製造を行っていた。本社正面玄関には、当時実際に使われていた巨大な石臼が設置されている。

昭和前期の「飯田味噌醸造所」

昭和前期の「飯田味噌醸造所」。
【画像は昭和前期】

「あぶまた味噌」入口に飾られた味噌工場で使用していた釜

「あぶまた味噌」入口に飾られた味噌工場で使用していた釜。
MAP __

「あぶまた味噌」は、1885(明治18)年、初代・飯田又右衛門氏が現在地(中野区本町三丁目)で「飯田味噌醸造所」を開業して以来、一度も場所を移すことなく江戸味噌の伝統を守り続けている。「あぶまた味噌」の入口には味噌工場で使用していた釜が飾られている。

1875(明治8)年 「宝仙寺」境内に「桃園学校」が開校 MAP __

1875(明治8)年、「宝仙寺」の境内に現在の杉並区域を含む、中野村を中心とした21か村の児童が通う、「第一大学区東京府管内第三中学区第九番公立小学桃園学校」が開校した。1882(明治15)年に「宝仙寺仁王門」東隣に校舎が新築され、1890(明治23)年に「中野村立桃園尋常高等小学校」となり、1900(明治33)年に現在地に移転した。写真は1924(大正13)年頃の「桃園尋常高等小学校」の外観。1932(昭和7)年から1944(昭和19)年までは校内に「東京市立中野図書館」も設置されていた。【画像は1924(大正13)年】

戦前期に数度の改称・分離ののち、戦後の1947(昭和22)年、新学制により「中野区立桃園小学校」となり、長く「桃園」の名を引き継いできたが、2019(平成31)年、統合のため「中野区立中野第一小学校」となり、2021(令和3)年、かつての「中野区立桃園小学校」の校地に写真の新校舎が完成した。

四季の花が咲く高台の「華洲園」は高級住宅地に MAP __

江戸時代にあった将軍の「鷹場」の一部である現・東中野五丁目付近の高台は、明治末期に東京市内に四季の花々を供給する花園があったことから「華洲園」と呼ばれるようになった。約1万5,000坪の広さを誇り、花壇や温室、四阿(あずまや)や陶器の陳列所もあった。しかし大正期には花の栽培が中止され、住宅地として分譲された。「三越」社長の中村利器太郎氏や伯爵、陸軍大将らが邸宅を構え、留学生時代の周恩来氏も住んでいたという。【画像は1911(明治44)年】

「太平洋戦争」の空襲で「華洲園」の邸宅は焼失。現在は住宅地となっているほか、アートフラワーの創始者・飯田深雪氏のスタジオもあり、かつて花園だった時代を偲ばせる。


次のページ 進む商業地化・都市化


MAP

この地図を大きく表示



トップへ戻る