アプリ決済ができないと、
タクシーを呼べない国も

交通・通信
アプリ決済ができないと、タクシーを呼べない国も

環境意識の高まりとともに、従来とは変化しつつある交通事情。そして、日進月歩で目覚ましい発展を遂げていく通信環境。「交通」と「通信」は、どちらも、短期間で人々の生活を大きく変えるほどの影響力をもつものです。世界の国・地域で、それぞれの分野の現在地は、どのようになっているのでしょうか? ヨーロッパ、北米、アジアの6つの国・地域にお住まいの皆さんに、レポートしてもらいました。

スパイク付きのタイヤに換えて、冬も自転車に

それでは、まず、皆さんがお住まいの国・地域で、どんな公共交通機関が主に利用されているかを聞いてみましょう。

最も多く利用されているのはバス。オーストリア、フィンランド、アメリカ、中国、マレーシアの5カ国で、よく使われる公共交通機関に挙げられました。

次に多いのが、地下鉄、そしてその他の鉄道です。地下鉄はオーストリア、アメリカ、中国、その他の鉄道はオーストリア、アメリカ、マレーシアと、それぞれ、3カ国で主な公共交通機関となっています。

また、中国、マレーシアのアジアの2カ国では、タクシーと配車サービスも比較的よく利用されているようです。

なかには、公共交通機関以外の交通手段が重宝されている国もあります。

治安は・・・?

「主な公共交通機関は市内バスです。冬季を除き、アプリで課金して利用する電動キックバイクもあります。フィンランドでは自転車を日常的な移動手段にする人がとても多く、冬でもスパイク付きタイヤに換えて乗り続けるほどです」(フィンランド)

「バリ島では、主に自家用車、あるいはオートバイで移動します。電車は走っておらず、バスなどはあるものの、ほとんど利用されていません。時間通りに運行しないこと、乗り場までが遠く、結局そこまで送ってもらわなければならないことなどが、その理由です。暑いこともあり、歩いて移動するのは外国人ぐらいで、現地の人はどこへ行くにもオートバイを利用します。歩道は段差などが多く、使いにくいうえに危険なため、高齢者が歩くのには向いていません」(インドネシア)

「バス、鉄道、タクシー、配車サービス(Grab)があります。ただし、これらの公共交通機関は日本のものほど便利ではないので、在住者は自家用車で移動することが多いです」(マレーシア)

自転車のタイヤにスパイク付きのものがあるなんて……、皆さんはご存じでしたか? しかし、そこまでして乗り続けようとするとは、フィンランドの皆さんにとって自転車は本当に欠かせないものなんですね!

街全体がクルマ社会に適したつくりのマレーシア

公共交通機関以外の交通手段について、皆さんにさらにくわしく聞いてみましょう。お住まいの国・地域では、自動車の保有率はどれぐらいですか?

「ウィーンでは1~2台の自動車を保有している世帯が多く、平均すると世帯につき1.5台ぐらいの数値になりそうです。 ウィーンほど交通網の発達していない郊外では、運転できる人ならほぼ1人につき1台は持っていると考えられます」(オーストリア)

「自動車を保有している世帯は、全体の60%ぐらいでしょうか。自治体によって、事情はかなり異なると思います。ユヴァスキュラ市には公共の交通網がバスしかないので、自家用車で出勤する人も多いです」(フィンランド)

「マンハッタン内に限れば、自動車を保有する世帯は、全世帯の18%です。ニューヨーク市全体では45%で、全米で最も自動車保有率が低い「市」となります。郊外を含めたニューヨーク州では、クルマが必要な地域も多く、保有率は上がります。また、近年は、自動車の保有率は上昇傾向にあるそうです」(アメリカ)

「感覚値では、全世帯の60%ほどが自動車を保有しているかと思います」(中国)

「バリ島には便利な公共交通機関がないので、自宅から移動する場合、クルマかオートバイを利用することがほとんどです。オートバイは一家に1台は必ずあり、1人につき1台保有している家も少なくありません。保有率はわかりませんが、ある程度の収入がある家庭なら、クルマを1台は保有しています」(インドネシア)

「マレーシアでは日本ほど公共交通機関が発達しておらず、クルマ移動が生活の基本となります。そのため、世帯の自動車保有率は、80~90%以上です。通勤、通学、買い物、遊びに行くときなど、さまざまな場面でクルマを使って移動します。また、産油国だということもあり、ガソリンの価格が安く、車道が整備され、駐車場がいたるところにあるなど、街全体がクルマ社会に適したつくりになっています」(マレーシア)

郊外になればなるほど、利用できる公共交通機関の数が減り、自動車保有率が高くなるのは、世界のどの国・地域でも変わりません。ちなみに、日本の自動車保有率は約62.5%、乗用車保有率は約47.6%(2016年時点*1)。それをふまえると、やはりマレーシアの自動車保有率はかなり高いといえそうです。

さて、このところ、ガソリン車やディーゼル車ばかりでなく、HV(ハイブリッド車)も含め、化石燃料を使用するクルマの新車販売を将来的に禁止するとの発表が、世界各国で続いています。皆さんのお住まいの国・地域では、EV(電気自動車)など、化石燃料を使わないクルマの普及は進んでいるのでしょうか?

「ガソリン車、ディーゼル車、HV、EV、液化天然ガス車などが走っています。オーストリアでは長期休暇にクルマで出かける家族が多いので、燃費がよく、長距離走行に向いているディーゼル車が人気です。HV、EVなどは、それほど人気はありません」(オーストリア)

「私自身がクルマに乗らないこともあり、はっきりとはわかりませんが、EVはまだそれほど普及していない印象です。ガソリン車が最も多く、ディーゼル車がそれに続きます」(フィンランド)

「アメリカ国内ではSUVとピックアップトラックの需要が高いため、ガソリン車が圧倒的多数です。95%がガソリン車、3%がディーゼル車、残りがHV&EVとなっています。郊外の州立公園やワイナリーなどでもEV用チャージャーを見かけるものの、利用するのはごくごく少数です」(アメリカ)

「ガソリン車70%、EV30%といったところでしょうか」(中国)

「EVは、ほとんど見かけません。ガソリン車が多く、業務用のクルマ、トラックなどにはディーゼル車もあります」(インドネシア)

「ガソリン車がほとんどです。ただ、タクシーの一部には、天然ガスを燃料とするクルマもあります」(マレーシア)

国際免許は無効!インドネシアでの運転には注意

お住まいの国・地域の交通事情について、皆さんにもっとくわしく聞いてみましょう。

「オーストリアでは、全土で改札システムがなく、切符の抜き打ち検査があります。うっかり買い忘れたときに、車内の抜き打ち検査で2度罰金(約100ユーロ)を支払わされたので、以後は年間パスを買うようにしています。新幹線のような超高速鉄道がないため、国内、国外への移動に時間がかかりがちです」(オーストリア)

「自動車の運転マナーは、とても良いです。常に歩行者優先で、道路を横断しようとしている人がいれば、クルマは必ず止まってくれます。ただ、運転しながら携帯電話で通話する光景が、割と普通に見られます」(フィンランド)

「バスや地下鉄などを運営するMTA(交通局)による運賃の値上げがひんぱんです。1カ月乗り放題のパスが、10年間で約9,253円(89USドル)から約13,204円(127USドル)まで上がりました。その一方で、地下鉄構造は老朽化し、構内にはネズミも多く、衛生面は劣悪です」(アメリカ)

「中国の銀行のカードをつくったうえで、アプリ決済をすることができるようにならないと、DIDI(配車サービス)も呼べず、レンタサイクルも借りられず、タクシーをつかまえることすらできません。そのため、国外から旅行で来られた方は、街中の移動には地下鉄を利用することになると思います。バスは路線があまりにも多すぎて、20年以上現地に住んでいる私でもいまだに使いこなせず……」(中国)

「インドネシアで外国人が自動車運転免許を取るには、まず「キタス」と呼ばれる一時滞在許可証を取得しなければならないため、手続きがとても面倒です。いわゆる国際免許は、ジュネーブ条約締結国ではないインドネシアでは無効で、携帯していても無免許扱いになることもあります。

バリ島のローカル(現地人)は比較的容易に運転免許を取得することができ、交通ルールをきちんと学んでいない人が少なくありません。そのせいか、ルールを守らない人が多く、日本の感覚で運転していると、事故を起こしてしまう可能性が高いです。慣れないうちは、自分で運転するのはできるだけ避けたほうがよいでしょう」(インドネシア)

「クルマの運転については、慣れるまで、かなりのストレスを感じていました。というのも、わが家の近くは交通量が多いうえに、日本ではほとんど見かけない「ラウンドアバウト」(ロータリー状の円形交差点)があるなど、相応の運転スキルが求められたからです。でも、運転に慣れるにつれて、滞在中の行動範囲がずいぶん広がりました。最近では、クアラルンプールやペナンなどの都市であれば、配車サービスアプリのGrabを利用することで、クルマを運転しなくても不自由なく生活が送れます」(マレーシア)

中国では、契約書のやり取りもチャットアプリで

サインした契約書もチャットアプリで送信!

次は、皆さんがお住まいの国・地域の通信環境について、聞いてみました。現在の主な通信手段は何ですか?

「携帯電話、メール、チャットアプリのWhatsAppが主な通信手段です。全体的にWhatsAppが優勢で、ビジネスシーンでは顧客とのやり取りにメールの割合が増えるものの、社内連絡は概ねWhatsAppを使用します」(オーストリア)

「携帯電話、メールの打てるデバイスが、主に使われています。仕事上はメール、プライベートではWhatsAppが主流ですが、日本に比べると、音声通話で要件を済ませる人も少なくありません」(フィンランド)

「携帯電話、メール、ネットを介しての通話です。日本同様、ビジネスではメール、プライベートではチャットアプリがよく使われています」(アメリカ)

「圧倒的に、WeChat(チャットアプリ)です。ビジネスシーンでも、業務上の簡単なやり取りは、すべてWeChatで行われます。WeChatに契約書が添付されており、サインをして送り返す、ということもあります」(中国)

「ほとんどが携帯電話です。仕事上でも、音声通話は減り、メッセージでのやり取りが増えています。社内でのやり取りはメッセージ、もしくはメールが中心です」(インドネシア)

「スマートフォンです。SNSやチャットアプリで盛んに交流するマレーシア人は、仕事相手との連絡にもWhatsAppを利用することが少なくありません。そのほかにも、メール、Facebook、Instagram、Twitter……、どれもよく使われています」(マレーシア)

固定電話から携帯電話、音声通話からメール、さらにはチャットアプリへの移行は、すでに全世界的な潮流のようです。

都市はもちろん、田舎でも。

ネットの普及は万国共通

皆さんがお住まいの国・地域の通信環境の特徴、長所・短所などについても、聞いてみましょう。主な通信手段はほぼ同様でしたが、それぞれの国・地域で違いはあるのでしょうか?

「Wi-Fiが非常に普及しており、ウィーンの伝統的なカフェハウスからトラム(路面電車)・電車、歯科医院内まで、多くの場所で利用可能なため、特に外国人旅行者にとって便利な環境だと感じます」(オーストリア)

「フィンランドはインターネット大国なので、ネット環境に困ることはまずありません。公共施設や鉄道の車内などにも無料Wi-Fiが整備され、携帯電話からのテザリングも自由に利用することができて、しかも高性能です」(フィンランド)

「公園や駅周辺など、パブリックなWi-Fiも多く、インターネット環境は整備されています。プロバイダーによるものの、しばしば地域一帯で技術的なエラーが起きて、ネットが不通になることも……」(アメリカ)

「街中のカフェ、小さなラーメン屋などにもWi-Fiがありますが、とにかくインターネットの通信速度が遅いです。また、Facebook、Instagram、LINE、Gmailなどは、ブロックされていて、開けません。VPNを使用して、壁を越えると、それらを見ることができます」(中国)

「どんな田舎でもWi-Fi が整備され、日本より充実しているほどです。最近では、ローカルのほんの小さな子どもですら、携帯電話を所有して、ゲームやビデオを見ています。携帯電話を持っていない人を見つけるのが難しいぐらいです」(インドネシア)

「オンラインでのヨガ講座や有名人によるインスタライブなど、日本と同じか、それ以上にインターネットを積極的に活用し、生活の中に取り入れています」(マレーシア)

皆さんの話を聞くにつけ、今、世界中で最も地域差がないのは通信の分野であると実感します!

※ 本記事は各国または地域に在住のガイドおよび在住者個人の見解であり、掲載される情報の内容を保証するものではありません。
掲載される情報は、ガイドおよび在住者の居住する国や地域の中でも居住地や関係する自治体等によって異なる場合があります。

※ 掲載される情報は2020年12月時点のものです。

※ 為替レートは2020年12月4日時点のものです。

<取材協力>
オーストリア(ウィーン)ライジンガー真樹、フィンランド(ユヴァスキュラ)こばやしあやな、アメリカ(ニューヨーク)小松優美、中国(上海)ヒキタミワ、インドネシア(バリ島)プトゥ ヒロミ、マレーシア(クアラルンプール)古川音

*1 一般社団法人日本自動車工業会HP「主要国の四輪車普及率」より試算

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