医療はデジタルを活用、
福祉も充実!先進的な北欧の国

医療・福祉
医療はデジタルを活用、福祉も充実!先進的な北欧の国

制度や法律には、それぞれの国・地域の歴史や文化、経済力、お国柄などが表れます。医療・福祉の制度は人々が安全・安心に暮らしていくうえで欠かせないものですが、やはりそれぞれの国・地域によって大きく異なるのでしょうか? それとも、万国共通なのでしょうか? 早速、現地にお住まいの皆さんにレポートしてもらいましょう!

6カ国とも病院は充実。薬局がやや少なめの国は?

病院、薬局の数が十分でないと、暮らしていくうえでは、やっぱり不安になりますよね。皆さんがお住いの国・地域では、病院や薬局の数は足りていますか?

「人口190万人のウィーン市内だけでも大病院が10軒程度あり、家の目の前にもひとつあるので、たいへん便利です。そのほかにも、一般的な診療を行う総合診療医・専門医の数も多く、病院に足しげく通う身としてはとても満足しています。

薬剤師の常駐する『薬局』も一般的なドラッグストアも、首都ウィーンに関していえば各街角にあるため、多すぎると感じるほどですが、それでも常に混雑しています。ちなみに、薬局の数は、人口5,500人につき1軒と定められているそうです」(オーストリア)

「病院は足りていないとは思いませんが、公立病院は私立病院に比べて医療費がかなり安いぶん、いつも混んでいて、予約が取りづらいというのが定説です。薬局は、『こんなに必要?』と思うくらい、たくさんあります」(フィンランド)

「病院の数は足りています。薬局の数も十分です」(アメリカ)

「上海の人口に対して十分なのかどうかはわかりませんが、外国人は外国人専用の病院または窓口に行くので、それに関しては足りていると思います。薬局の数は、もう少しあってもいいかも」(中国)

「住んでいる地域には、たくさんの病院があります。薬局もたくさんあります。ただし、日本人が薬を買うのは、言葉がわからないので、ハードルが高いと思います。病院で処方してもらうほうが安全です」(インドネシア)

「病院の数は日本より少ないかもしれませんが、日本と同じレベルの医療が受けられる病院も多く、不便は感じません。最近は、日本語サービスを備えた病院も増えています。薬局の数は十分足りており、ショッピングモールには『ガーディアン』、『ワトソン』などの大手ドラッグストアが入っています」(マレーシア)

今回調査した6つの国・地域では、病院、薬局の数はまずまず充実しており、特に大きな不便を感じなくてすみそうです。

東南アジアでは、公的医療保険には頼れない?

さて、皆さんがお住まいの国・地域の公的医療保険制度は、どんなしくみのものなのでしょうか?

フィンランドは、税金を財源とし、医療サービスの提供者は公的機関が中心の「国営医療」モデルです。

オーストリア、中国は、社会保険を財源とし、医療サービスの提供者には公的機関と民間機関が混在する「社会保険」モデルに該当しました。

アメリカは、民間保険を財源とし、医療サービスも民間機関が中心に提供する、いわゆる「市場」モデルにあたります。

インドネシア、マレーシアは上記の3つのモデルには該当しません。インドネシアでは経済力や職業の種類によって財源が異なる変則的なモデルが採用されており、マレーシアにはそもそも公的医療保険制度がありません。

公的医療保険制度

「外国人は、海外旅行保険に加入するのがベストです。ほかには、クレジットカード会社の保険を適用するか、ローカル(現地)の民間保険に加入するのがよいでしょう。外国人が加入することができる国民健康保険もあるにはありますが、クオリティーの点からあまりおすすめできません」(インドネシア)

「医療保険制度はありませんが、公共の医療機関で医療サービスを受ける際には政府のサポートがあり、わずかな自己負担で受診することができます。ただし、待ち時間や言葉の問題があるため、在留邦人などの外国人が受診するのはまれです。外国人は私立病院で受診するケースがほとんどで、この場合、民間の保険に加入していないと医療費が高額になってしまいます」(マレーシア)

市場モデルのアメリカと、東南アジアの2カ国については、外国人は海外旅行保険や民間の健康保険に加入しておくほうがよさそうです。一方、オーストリア、フィンランド、中国では、一定の収入額や現地での就労、婚姻などの条件を満たせば、外国人でも公的医療保険に加入でき、その国の国籍を持つ人々と同様のサービスが受けられます。

「外国人でも、現地で会社に勤めている場合は、公的医療保険に加入できます。もっとも、ほとんどの外国人は海外旅行保険にも加入しているため、現実的にはそちらを使うほうが多いようです」(中国)

なるほど。外国人が公的医療保険制度を利用しやすい国・地域でも、民間の保険を利用するメリットがあるということですね。

医療のデジタル化、オンライン化が進む国って?

お住いの国・地域の医療について、さらにくわしくお話を聞きました。

「一般医ではウォークイン(先着順)であることが多いものの、専門医は予約を取って訪れるのが一般的です。待ち時間は、日本の病院よりも短く感じます。通院することが多い私にとっては全般的にありがたい医療体制ですが、ドイツ語が話せるようになるまでは医師や受付とのコミュニケーションにかなり苦労しました。日本のようなお薬手帳があれば、さらに便利になると思います」(オーストリア)

「通院歴、受診や処方箋の内容などが、すべてデジタルで管理されています。そのため、マイナンバーカードを薬局に持っていくだけで薬を新たに追加購入したり、公立病院での支払いを後日送られてくる電子請求書に応じてすませたりすることができます。ただし、フィンランド人は、よほどのことがない限り、病院で受診することはありません。発熱や風邪程度の症状では、病院からも門前払いされてしまうので、セルフケア力は必要です」(フィンランド)

「プライマリーケア(地域医師による総合診断)、美容皮膚、メンタルヘルス、避妊薬の処方をオンラインで行うサービスが盛んになりつつあります。診断はオンラインフォームで、薬はデリバリー、または薬局でピックアップするシステムです」(アメリカ)

「病院に行くと、もっと病気になってしまうのではと感じるほど、人、人、人がいます。言葉の問題もあり、順番もなかなか回ってきませんので、私自身は海外旅行保険を使って外国人専用窓口から受診します。費用は、問診だけで約12,000円、診察、薬まで含めると30,000円ほどです。最近では裕福な人も増えていることもあり、なかには高い費用を支払って、外国人専用窓口に来る中国人もいます」(中国)

「日本人でバリ島に在住している方、高齢者の方は、英語もインドネシア語もできない方が多いです。普段の会話ならまだしも、医療に関する会話となると、なおさら不安が大きいのではないでしょうか。バリ島の医療レベルはけっして低いわけではないのですが、待つことが苦手だったり、思い通りにならなくていら立ったり、不安・不満を覚える方も少なくありません。

海外で暮らすのなら、何かあったときのために、民間の保険に加入しておくのがよいでしょう。あるいは、十分な蓄えを用意して移住することをおすすめします。日本で処方された薬に関しても、まったく同じとは限らないものの、似たような成分の薬をバリ島で処方することは可能です。今後、コロナの影響で日本との行き来が自由にできなくなると、医療についてより大きな問題が発生する可能性もあります」(インドネシア)

「マレーシアで目のレーシック手術を受けましたが、今でも問題なく見えています。また、日本より費用が安く、技術の面でも安心なので、歯の矯正を行う人も多いようです」(マレーシア)

中国では、男女とも50代から年金がもらえる!

医療制度に続いて、福祉制度のしくみについても、皆さんに聞いてみましょう。お住まいの国・地域に、介護保障制度はありますか? あるとしたら、どんな方式で実施されているのでしょう?

介護保障制度

オーストリア、中国では「社会保険方式により行う」モデル、フィンランドでは「基礎的自治体が全住民を対象として税財源により実施する社会サービスの一環として行う」モデル、アメリカでは「その他」のモデルで介護保障が行われ、それぞれの国・地域の公的医療保険制度の方式と近い形が採用されていることがわかりました。

「ローカル(自国民)でも介護保障は受けられないと思います。数年前に貧困者を救済する国民健康保険ができたばかりで、その整備もいまだに遅れているので……」(インドネシア)

「介護保障はありません」(マレーシア)

東南アジアの2カ国では、介護保障制度の整備は、今後の課題ということでしょうか。

それぞれの国・地域の年金の受給開始時期についても、皆さんに答えてもらいました。

「以前は男性が65歳、女性が60歳でしたが、現在は女性も65歳まで引き上げるべく、移行期間となっています」(オーストリア)

「今のところ、65歳です」(フィンランド)

「原則67歳、早期で65歳、延期で70歳となります」(アメリカ)

「15年支払いで、男性は55歳、女性は50歳から給付されます」(中国)

「給付は55歳からですが、現在、60歳に引き上げることが検討されています」(マレーシア)

日本同様、多くの国で、年金の受給開始年齢は65歳となっています。アジアの国・地域では、それよりも早く給付される傾向があるようです。

老後の心配なし!高福祉国家のフィンランド

最後は、お住いの国・地域の高齢者の方々がどのように過ごされているのか、皆さんが見聞きした様子を伝えてもらいます。

「多くの人は、子どもが巣立った後の大きめのファミリー向け住居に1人もしくは夫婦で住み、好条件だった時代の住宅契約ということもあり、暮らしぶりは悪くなさそうです。公民館なども65歳以上向けのクラスの開催に積極的で、充実した老後の生活を送っている人が少なくありません。

銀行の預金口座がマイナスでありながら毎年バカンスを楽しむ人がいるなど、日本人と比べて、将来を悲観したり、未来を不安視したりする人が少なく感じられます。メンタリティーが日本人よりも楽観的なのかもしれず、あるいは、普段から保障が手厚いため、最後は国がなんとかしてくれるだろうと考えているのかもしれません」(オーストリア)

「フィンランドは基本的に核家族単位で行動するので、子どもが同居して両親の介護をしたり面倒をみたりするケースは非常にまれです。高齢者は、自分で生活できる限りは自宅に住み、必要に応じて訪問サービスを頼んだりします。その後、要介護度が上がれば、施設に入るのが一般的です。

肌感覚でいえば、フィンランドの高齢者は、日本の高齢者よりも健康寿命や幸福度が高い印象で、自立して生きることを望む人がとても多く感じられます。高度な福祉・社会保障を備えた国なので、経済的に困窮している、サービスが適切に受けられないなどの格差についても聞いたことはありません」(フィンランド)

「たとえば、長年教師をしていた知人は、年間900万円近い年金を受け取っていて、余裕があります。かなり高齢でも、自活しているケースが多いです」(アメリカ)

「周囲の高齢者は、悠々自適に過ごしていると感じられます。比較的若いうちから年金がもらえるうえに、マンションは購入済み、しかも資産としての価値は上がり続けているので、普段は公園でダンスをしたり海外旅行に行ったりして、楽しんでいるようです」(中国)

「田舎に住んでいる夫の兄弟は、公立学校の教師として勤めています。教職以外にも、副業をいくつか持ち、暮らしぶりは豊かです。土地も家も所有しています」(インドネシア)

「家族が多い場合には子どもからの援助が受けられたり、退職金や年金で新しいビジネスを始めたりと、比較的余裕があり、ポジティブな生活を送っている人を多く見かけます」(マレーシア)

自分自身の蓄えや国の制度を活用しながら、セカンドキャリアや老後を充実させられる国・地域であれば、将来に希望を持って暮らしていけますよね! 今回調査した6カ国は、それぞれに違いはありますが、そうした条件を満たしているといえそうです。

医療・福祉の制度は、そこで暮らす人々にとって、大切なセーフティーネットの役割を果たします。これから先、移住などを考える際には、必ずチェックしておきたいところです。現地にお住まいの皆さんの声も、ぜひ参考にしてみてください。

※ 本記事は各国または地域に在住のガイドおよび在住者個人の見解であり、掲載される情報の内容を保証するものではありません。
掲載される情報は、ガイドおよび在住者の居住する国や地域の中でも居住地や関係する自治体等によって異なる場合があります。

※ 掲載される情報は2020年9月時点のものです。

<取材協力>
オーストリア(ウィーン)ライジンガー真樹、フィンランド(ユヴァスキュラ)こばやしあやな、アメリカ(ニューヨーク)小松優美、中国(上海)ヒキタミワ、インドネシア(バリ島)プトゥ ヒロミ、マレーシア(クアラルンプール)古川音

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